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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
66/152

ロズワイド学園の有名人

客観視点。



ロズワイド学園中等部のルーナリア・アクタルノ公爵令嬢は学園内で圧倒的な人気を誇っている。


美しい銀髪も、美しいアクアマリンのような瞳も、儚い美しさを魅せる顔も雰囲気も、彼女の全てが魅力的で魅惑的。



「新しい人生の分岐点となるこの学園で、皆様が素晴らしい経験を得られる事をお祈り申し上げます。本日はご入学、誠におめでとうございます。

中等部代表、ルーナリア・アクタルノ。」



ふわりと柔らかく優雅に浮かぶ優しい微笑みに目を奪われ、息を呑む美しさに見惚れる。


壇上の上で頭を下げ、指定席に戻られる間、講堂には割れんばかりの盛大な拍手が贈られていた。



だから、誰の耳にも届かなかったのだ。



「――――――笑ってる…?」












「ルーナリア様!中等部代表の答辞、とっても素敵でした!」


「嬉しいですわぁ。ありがとう、リメリナさん。」


「生徒会長である第一王子殿下の後に素晴らしい答辞でございました。」


「そう言って頂けて安堵致しました、ノアン様。」


「ルーナリア嬢はこの後生徒会の仕事が?」


「えぇ、先生方からの頼まれ事を少し。」


「最近は何でも生徒会頼みじゃないか、教員勢。」


「そうですね…。でも生徒会のする事は毎回素晴らしい終わりを迎えるので僕は嬉しいです。……皆さんが大変なのわかっていて申し訳ないですけど……。」


「まあ、そんな事はありませんよ。とても嬉しいお言葉ですわぁ、ありがとう、ラルフ様。」


「ルーナリア嬢は何でも引き受け過ぎだ。」


「そんな事はありませんのよ、ガルド様。生徒会の皆さんと出来る範囲だけを引き受けているだけですもの。」


中等部一年二組の教室でクラス全員が和やかに話す中心で柔らかく微笑む彼女こそ、『氷の女帝』と謂われるロズワイド学園最強の女子生徒である。


生徒会役員であり、中等部一年の首席を保持し続け、闘技祭で無敗を誇る学園でもはや伝説と謂われている。



『氷の女帝』

『水の毒姫』

『狂犬の飼い主』

『学園の女ボス』


そんな危険人物を想像させる渾名に反して、彼女は柔らかく穏やかな微笑みを浮かべる美しい人でそのギャップに後輩達はヤラれているのだ。




「ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢!次のテストでは負けませんわよ!」


「トレッサ・レジャール侯爵令嬢、受けて立ちますわぁ。」


急に現れた猫目の赤髪をポニーテールにしたキツめの美少女は迷わず教室の中心で座る彼女に指を指して声高らかに宣言する。


それに一切動揺せず穏やかな微笑みのまま返答する彼女に憤慨する美少女の図はこの三年で見飽きる程見た光景で、


「今回もルーナリア嬢の勝ちかな。」


「トレッサ様は魔法を極めていらっしゃるのよ?闘技祭までわからないわ!」


「座学が抜けてますわよ。」


「………、トレッサ様は……、その、真正面から対するのが好きな方なのよ!!」


「それ苦しいです…。」


少し離れた所で美少女の取り巻き兼友人兼世話係の女子生徒複数と話す二組の生徒もまた関わり深く、三年の時を経て仲を深めていた。


「アナタ、生徒会でまた何か話をしているのでしょう?それで勉学を疎かにしているのではなくて?」


「あらあら、御心配ありがとう。けれど疎かにした事は一度もありませんもの、今回も万全を期して受けますよ。」


「…、そう!それでこそあたくしが認めたルーナリア・アクタルノだわ!!」


「うふふ、トレッサ様も他の事に躍起にならず頑張ってくださいませねぇ」


「……………アナタのそういうところが嫌よ、あたくし。」


「まあ、私はトレッサ様のそういうところ、好きですよ。」



「背後に仔猫と親猫が見える…」

「仲良いのか悪いのかわかんないです…」

「好敵手は時に最大の味方、って感じだよなぁ」

「いや、あれは犬猿の仲だろ。」




「レジャール嬢、いつまでアクタルノ嬢に構っているんだ?一組で次のテストの範囲の確認をするぞ。今度こそ二組に負けないようにな!」


「オスカー、その発言を二組でするのはどうかと思うよ…」


そうやって二組の教室に現れた金髪翡翠眼と茶髪茶眼の美少年二人に一組勢が笑顔になり、二組勢は少し雰囲気を尖らせた。


「オスカー殿下、マムルーク様、ごきげんよう。今回も一組に負けるつもりはありませんよ。」


「前回はルーナリア嬢が居なければ二組が負けていたからな。……今回はそのような緩みはない。」


「ガルド、僕は実技でも君に勝つよ。…前回負けたからな。」


「その節は良い勝負をありがとう。決勝でルーナリア嬢とタッグを組めて楽しかった。」


「……負けたくせに。」


「……………。」


「はいはい睨み合わない。ガルドが負けたのはアーグ先輩にだからね、そもそもアーグ先輩に一度も勝ててないオスカーが言ってもねえ」


「マムルークはどっちの味方なんだよ!」


「僕は中立。どっちの味方もしないよ。」


「あらあら、そう言って一組全員でテスト勉強会をすると提案されたのはマムルーク様だと耳にしましたけれど。」


「……負け続けるのは嫌だからね。」


爽やかに微笑む茶髪茶眼の美少年と穏やかに微笑む銀髪水眼の美少女は一見清らかだけれど、慣れた者達には感じるのだ。



「親猫同士が縄張り争いしてるぞ…」

「どっちも笑顔だから余計怖い…」

「何か寒くねぇか?」

「重々しいですわ…」


関わるまい、と離れている両クラスメイトを気にすることなく微笑み合う二人の間に金髪翡翠眼のゆるふわ美少年王子が割り込む


「アクタルノ嬢、今回こそ僕が首席になってみせるから覚悟しておくように!」


「はい、覚悟しておきますわぁ。負けるつもりはさらさらありませんけれど。」


「ふん、僕だって兄上に教えてもらってるんだ、負けてたまるか。」


「あら、多忙なリアム殿下に勉学を?」


「そうさ!マムルークも一緒にね。」


「ではその埋め合せにテストが終わった後、生徒会の仕事のお手伝いをお願い致しますねぇ」


王族に気負う事なく雑用を押し付けようとする豪胆さに普通なら度肝を抜かれる事態だけれど、三年というのは長いもので慣れるのだ。


けれどそれもルーナリア・アクタルノという人物だから許されているのだと言う事も理解している。



「皆様と切磋琢磨出来て光栄ですわぁ」



柔らかく微笑む彼女は、そういう人間なのだ。







「お嬢様、お迎えに上がりました。」


「ありがとう、オリヴィア。」


お昼の時間、教室に姿を現したのはクラシカルロングの侍女服に身を包む淡い薄緑色の髪を一つの三つ編みにして背に流した、淡い桃色の瞳を持つ世界で一人の異なる属性を二つ持つ女性。


二年前に公爵令嬢の学園付き侍女となり、去年学園を卒業して正式に仕える資格を手に入れた彼女は毎日が充実している。


「西棟の林でアーグ君が場所の確保をなさっていますので。」


「あの場所で食事をするのは私達以外に居ないのだから…ふふ、でも待ってるアーグは可愛いわぁ」


「お嬢様の方が何億倍も可愛いです。」


「今日のお昼は何を用意してくださったの?」


「お嬢様が好きなハムとレタスのサンドイッチとフルーツサンド、食後にクッキーを御用意させて頂きました。」


「まあ!オリヴィアの作るサンドイッチとても美味しいから嬉しいわぁ。ありがとう、オリヴィア。」


「ンン”ッ…!!!!とんでもございませんわたしこそありがとうございますお嬢様尊いです可愛いです愛おしいですぅ…!!」


「さぁ、行きましょう。」


気になる部分を流すのは三年の付き合いで磨いた事である。未だに照れ臭さはあるが気にしていては身が持たないと切り替えた彼女に「流石です…!」と興奮した侍女の主人好き好き病はもう生涯治らないだろうと言われている。



学園の西棟にある『妖精がいる林』は生徒達が近寄ることのない神聖な場所だ。


そんな場所が彼女達主従の憩いの場である。


その林の少し歩いた場所に白いシートが敷かれ、その上に紅髪の青年が寝転んでいた。


「お待たせしました、アーグ。」


「んー待ってねぇから。お先。」


「先に食べたんですかぁ!?ちょっと、アーグ君、有り得ないです!!お嬢様の分は!?」


「腹減ったんだよ。お嬢の分はちゃんと避けてるっつの。無いのはあんたの分。」


「はぁ……なら良いんです。さぁお嬢様!お嬢様の好きなオリヴィア特製サンドイッチですよ!」


「あらあら…。アーグ、先に食べるのは良いけれどオリヴィアの分を食べてはいけませんよ。オリヴィアも少しは気にしなさいな。」


自由な護衛騎士とお嬢様至上主義の侍女と個性の強い二人の手綱を握っているのかいないのかわからないほどのんびりとした主君の三人は学園の生徒全員が知っている三竦みである。



剣の天才でありながら魔法も一流で成績も上位であるのに学園唯一の不良生徒である高等部一年の護衛騎士、紅髪のアーグは闘技祭で自身の守るべき主君を本気で殺す勢いで攻めまくる姿を観覧者や生徒達から『気狂い』と謂われ恐れられる。けれどまだ一度も主君を負かす事が出来ていない。人付き合いを一切せず、主君と同僚以外でまともに話す相手は同学年の第一王子だけの教師も手を焼く生徒である。しかし女性人気が高いのは甘いルックスと見事な体躯、そして案外女性に優しいギャップである。

飼い主が居ればかなり自由過ぎるけど優秀な護衛騎士、忠犬であることから『狂犬』と呼ばれている。



世界で唯一の二属性持ちのオリヴィアという侍女は主君に似た性質でふわふわとした女性。だがしかし本質は超絶可愛いお嬢様絶対守るマンであり、ふわふわした見た目に反して格闘技を得意とする高戦力の戦う敏腕侍女で他家から声が掛かるほど優秀。問題はお嬢様を愛するあまりストーカー行為をする事と初対面の異性や怪しい異性に対して当たりが強い事。その筆頭が王子二人という事に初見の者は必ず顔を青褪めるものの、気にも止めない王子方にまたも驚愕してそのうち慣れるのだ。『鉄壁侍女』との渾名を付けられる程に隙が一切ない鉄壁女である。ただしお嬢様の前で頻繁に壊れる姿を目撃されているがそれは言わない暗黙の了解とされている。



そんな曲者二人を従える胆力に護衛騎士や侍女を従える高位貴族は憧れを抱く者も少なくないらしい。






放課後、今年から生徒会で提案された魔力属性に分かれて作られた複数の『魔力研究会』と言う名の懇親会に生徒達が賑やかになる頃、西棟にある生徒会室にて。


「今日も中等部一年がやり合っていたと報告が上がっているが、程々にするように。」


「まあ。学年全体で切磋琢磨し合っているだけですのよ?」


「新入生が慣れるまではあちこちでやり合うのは控えるようにしてくれ。慣れない間は殺伐としているのだと勘違いしてしまうかもしれないだろう。」


「和やかな会話だと思うのですけれど…。慣れない学園生活で上級生のいざこざは怖いと感じますのねぇ……うふふ、それも経験では?」


「良い先輩として居てくれると助かる。」


金髪琥珀眼の美しい男子生徒、リアム・ロズワイド第一王子殿下は呆れた表情を隠す事なくふんわり微笑む三つ下の後輩を見ている。


「会長、ルーナリアさんのギャップにハマる生徒は続出するばかりですしそう固くならなくても宜しいのでは?」


「…副会長は年々ルーナリア嬢贔屓が増すな。」


「アイサさんは私の尊敬する女性の先輩ですもの。ねえ、リノさん。」


「うんうん、アイサ先輩は尊敬する女の子の先輩で、ルーナリアさんは尊敬する女の子の可愛い後輩だよ!会長も、そんな頑なにならなくても良いんじゃないですか?」


生徒会の女子生徒三人、最高学年高等部二年の副会長アイサ、中等部二年の書紀リノ、中等部一年の庶務彼女は仲が良く、生徒会室の隅で毎日仕事終わりに女子会を開くほど。

三年前のいざこざなど現会長のおかげで綺麗に流されている。



「今年は平民生徒の割合が例年より多いのに、貴族が怖いものだと認識されたらどうするんだ。」


そう顔を顰めるのは中等部三年会計のレオン・トバラスだ。


「そこはあたし達平民筆頭が仲の良いところを見せて、怖くないですよ〜ってすれば良いんじゃないでしょうか!」


「…単細胞。」


「頭でっかち〜」


「は?」

「何ですか?」


「はーい止めなさいねー。何で年追う事に仲悪くなるのかなぁ、君達。お姉さん来年から心配だよ。」


「本当、不思議ですねぇ」


顔を突き合わせ睨み合う二人の間に入り困り顔をする副会長アイサと困ったように微笑む彼女と我関せずな会長という生徒会役員だ。


最高学年のアイサが副会長を務めているのは彼女が卒業後、王宮の侍女になる事が決まり予行として王族の方の下に付きたいと言ったからだ。


それだけではなく、平民が王族の上に立つ事をよく思わない者が大勢居たのも理由である。


けれど当人のアイサに不満は一切なく、当初は第一王子殿下の方が気にしていた。生徒会での経験は一年だけでも差はあるのだ。本当に実力主義過ぎて数年後会長になるかもしれないリノが全校生徒の前ではっきりと「わたし生徒会長やりませんから」と宣言するほど。



「言い合う暇があるなら頭と手を動かせ。」


「会長、この頃は急務も無くなりましたから少しくらいのんびりしても宜しいのでは?やり過ぎも心身共に良くありませんわぁ」


「……そうか。」


「会長も中々だよね…。」


「頭良い人ってどっか抜けてるもの。」


「あら。生徒会は学年主席のグループですのに、それはブーメランというやつではありませんか?」


何だかんだと仲の良い生徒会は今日も庶務であるルーナリア・アクタルノ公爵令嬢の淹れた茶を手に仕事を熟す。


「…今日も美味いな。」


「ありがとうございます、殿下。」



麗しい顔の二人を推す会は年々人数は増すものの、当人達にそういった事は一切なかった。


初等部一年、当時女性関係に淫らだった会長を炙り出すために自身を囮にしたと有名な彼女は、それ以降一度たりとも異性との噂が上がったことはない。


婚約者候補の両殿下とは生徒会役員仲間と競い合う同学年という間柄だけ。



けれど両殿下のある想いが一人の女性に向いていることを学園の生徒は暗黙の了解として知っていた。


誰一人口に出すことはなくとも、そのことを知らない者はいない。



学園の生徒は個性豊かな者ばかりで、それらを纏める役である生徒会長、リアム・ロズワイドは教師勢の信頼は厚く、将来を期待されていた。


次期王位に就くのは第一王子であろうという噂が消されることなく広まって、それを容認しているこの国の王の思いは皆の知ることとなっていたのだ。



当人の想いを除けばとても順風満帆な日常。







「なんで、笑ってるの?



――――――悪役令嬢のくせに。」



けれど不穏な芽が静かに、確実に芽吹いていた。





中等部編突入です。

話が大いに進む…はず!頑張ります。

引き続きお読み頂ければ幸いです☺

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[一言] 『鉄壁侍女』 鉄壁のディフェンスを誇る侍女。 ただし絶壁ではない!(ふんす) ……だよね?
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