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刺繍と氷魔法


あの日父は朝食を食べてすぐに家を出てアクタルノ領地から二日で着く王都へ向かった。


私は父に言われた通りフランさんに刺繍を教えてもらっています。



「そうそう、お上手ですよ。お嬢様は覚えが良いですねぇ。」



庭園の中央にある鳥籠のようなガゼボでフランさんと二人、刺繍をしています。



最初は簡単に四角を綺麗に出来るようにすることを目標にしています。


小さな手でするのは少しやり辛いけれど、徐々に描かれていく様が凄く楽しくて嬉しいです。



「…あら…、うらがきたないです…。」


「縫った所に通すのですよ。ここです。」


「まあ…。……おしえてくださいな。」



少しむくれてフランさんを見ると穏やかな微笑みのまま針を通している。



「失敗はするものですよ。もう二度としないために、失敗は必要なものです。」


「…わたくしはそうはおもいません。しっぱいしたってくるしいだけだもの。」


「それもまた経験ですよ。大人になるために重ねるものです。」



ニコニコほわほわと言いながらその手は針を布に挿し糸を通し絵を描いています。


フランさん、家事ならなんでもプロなんですね…。



フランさんに教えられた通りの場所に通して私も手を動かします。


無心で何かを続けることがこんなに穏やかなものだなんて、もっと早く気づけていれば…。



「お嬢様は手先が器用ですねぇ きっと魔力操作も精緻で美しくできるでしょう。」


「まりょくそうさ、ですか?」


「ええ。お嬢様は水属性の使い手なのは知っておられますね?」


「ええ。よんさいのときにまりょくけんさいたしましたし、みずぞくせいだといわれましたわ。」


「ええ、アクタルノ家は代々水属性が多いです。けれどお嬢様は歴代1,2を誇る膨大な魔力を持っているのですよ。そして魔法を上手く使うには魔力操作が安定していなければなりません。」



刺繍枠を膝に置き私を見るフランさんに私も刺繍枠を膝に置き、真っ直ぐ見つめ返します。


魔法の話はあまり聞かせてもらえませんから。



「魔法には様々な属性がありますが、一定の魔力値を越えその素質があれば特殊な魔法を扱う者もいるのですよ。」


「とくしゅ…。」


「例えば“火”なら火属性よりももっと大きく熱い“炎”です。マグマほどの“炎”を扱う者も居たと言う話がありますねぇ。」


「けんじゃさまのえほんでよみましたわ。けんじゃさまのおくさまが“ほのおつかい”でしたよね?」



そう聞く私にフランさんはニコニコ微笑み肯定され、話を続けられる。



「“風”ならば“空”。“地”ならば“大地”。“水”ならば“氷”です。きっとお嬢様は“氷属性”も持っていますでしょう?」



そう微笑み私を見るフランさんに驚きました。


誰も知らないはずなのに。サーナにさえ、絶対に教えたり、気づかれたりされないようにしてきましたのですが…。



困った笑みを浮かべながら私の小さい掌を胸の前に上げ、“氷の花”を創りました。



「きづいていたのですね…。」


「半分カマかけたのですけどねぇ。」


「へ?」


「まあ、凄いですねえ。ヒンヤリしますよ、夏に良いですねぇ。」


「…………ふふふっ。」



フランさんに逆らうのは止めましょう。絶対に。

しようと思わないですけれど。



私の創った“氷の花”を見て微笑むフランさんに申し訳なく思いながらシャンと音を立てて崩しました。



「そのご様子だとご自分で訓練なさっているのですねぇ。とても綺麗に創り出されて…。」


「ええ。つよいちからはあぶないですもの。」


「本当にお嬢様は大人よりも大人な考え方をされますねぇ。」



ギクっとしながら指をクルクルと回して水の渦を生み出して誤魔化します。


ニコニコ笑うフランさんを誤魔化せていないと思いますけれども…。



「お嬢様が隠すのはとても良い事だと思いますよ。特殊な魔法を上手く扱える者はそう多くは居りませんし、きっと気づかれたら戦争に出されてしまいますよ。」


「………そのほうがよいとおもうのです。」



呟いた言葉は届いたのか届いていないのか、フランさんは何も言わず刺繍枠を手に取り針を通し始めました。私もそれに習い始めます。



「お嬢様にもきっと心を開き預けられる人が現れますよ。」


「こおりぞくせいのことですか?」



どうやら私がサーナにも言っていないことを知っているみたいでした。



「それもですし、……いいえ、これはお嬢様がご自分でお気づきになり、預けなければいけませんね。」



ほわほわと微笑むフランさんに首を傾げていると、小さな鋏で糸を切り枠を外し布を広げられ私に見せてくださった。


そこには鮮やかな花たちが描いていました。



「わぁああ!すごいっ!きれー…。」


「ありがとうございます。お嬢様にも出来ますよ。楽しく頑張りましょうね。」


「はい!」



流されたことに気づかず、私は見せられた素敵な刺繍に心を奪われ魅せられました。


私が刺繍にドハマりし、フランさんを超えると決心した瞬間でした。







あれから数週間、私は毎日刺繍をしています。


お父様の仰った貴族にとってのマナーや勉学、ダンスの授業やレッスンも勿論こなしていますが、ノーマンさんとお花のお話や厨房でお菓子作りもさせてもらいってます。けれど1番時間を注ぎ込んでいるのは刺繍です。



「………。」


「………。」


「……ふう。」


「……お嬢様…。」



呆れた声を出したサーナを見上げて刺繍を広げて見せます。褒めてほしいもの!



40cmほどの白いリネン布半分、できました!


若葉色と紺碧色の糸だけを使用しているリーフ模様は中々に出来が良いと自画自賛いたします!



「うふふっ あとはんぶんですわ!」



サーナが淹れてくれている紅茶を飲みながら出来上がってきている物を見て頬が緩んでしまいます。


私が初めて作る物はクッションカバーです。

フランさんにも優秀だと言っていただけましたし、あぁ滾りますわぁ!



うきうきワクワクし、さぁもう一度、と刺繍枠を手に取ったとき、ぱしっと手首を掴まれた。


グッと力を込められて痛みに顔を歪めてしまいながら握ってきたサーナを見上げると、



「明日の朝には王都へ行くのですよ?お洋服も決めておられませんし」


「おようふくはもうきめましたでしょう?」


「無地の物ばかりではないですか!」


「むこうでほぼいっかげつすごすのですよ?おようふく、いちどししゅうしてみたいわぁ。」



王都ではきっと部屋に閉じ込められてしまうでしょうし、使える布は多い方が良いですわ。買うのも勿体無いですし。



呆れた顔をして溜息を吐くサーナにぎゅっと手を握りしめ、微笑みを浮かべます


言う事を聞けばよろしいんでしょう?



「では、みずいろのれーすのどれすがありましたでしょう?それをよういしてくださいますか?」


「畏まりました。…お嬢様、刺繍も程々になさってくださいませ。」


「ええ、わかりました。」



サーナがドレスを用意しに部屋を出て行き一人になり、ふーっと息を深く吐いてまだ途中でしたけれど、言われた通りに刺繍枠を片付けました。



「おうと…、ねぇ」



正妃の御子息である第ニ王子、オスカー・ロンドルハイム様の誕生日パーティはまだニヶ月後なのに…。


どうして父は私を呼ぶのかしら。

まあ良い事ってことはないでしょうけれど。




「………はあ。ゆううつだわ。」




私まだ6歳なのだけれど……一応。







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