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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園初等部編
51/152

青と紅の衝突




私にとって、アーグは唯一。


私が拾った私だけの子猫。


お父様に奪われる心配も、お父様の影を感じる不安も、恐怖も感じなくてすむ私だけのモノ。


猫は自由な生き物だけど、私は大事な子猫が何処かへ行ってしまわないように鎖を付けておく


氷の檻から飛び出すにはまだ早いでしょう?




「アーグ、頑張りましょうねぇ」


「自分の護衛に花持たす気はねーのな。」


「全力でと言ったでしょう。」


「そのとーり。」


軽薄そうな笑みを浮かべて剣を抜き構えるアーグに微笑み、手に持つ魔力補佐道具である傘の柄をきゅ、と握る。


「アクタルノ嬢、作戦はそのままで?」


「えぇ、予定通りに。オスカー殿下、宜しくお願い致します。」


「まぁ僕が貴女の護衛を相手に出来るとは思えないからね、ちょっとの時間稼ぎは頑張るよ。」


「期待しておりますわぁ」


「き、期待されても、嬉しくないから…!」


ツンデレ。



《さぁ、注目の試合、皆様観覧の準備は宜しいでしょうかー!?》


歓声の上がる闘技場内の中心で、アーグと女子優勝者のエレナ・ジャナルディ様と相対する事に心が奮い立って笑みが溢れる。


「うっわ…、お嬢の好戦的な顔、ヤベェなあ」


「あのような可憐な少女を相手にするなど…!」


「……お前、お嬢相手にそんなん言ってたら即殺られんぞ。」


そんなアーグの言葉に微笑いながら手に持っていた傘をゆっくりと開き、とん、と肩にかけて傾けた状態で姿勢を保つ


白地に縁に青い花が描かれた傘は魔力補佐道具

青い蝶と水色と白の花のピアスは魔力制御ピアス

私の全力を出すための物


経験も、努力も、積み重ねてきた。

そう簡単に負けない。



負けて、たまるものですか。



《初等部中等部優勝者決戦、試合開始―――》


―――ガスッ ゴトッ


「し」の言葉が終わると同時に放った“氷塊”はアーグの剣に防がれ音を立てて地に落ちる。


エレナ・ジャナルディ様に放った方はジュワっと溶けて水になっていて、アーグが咄嗟に炎の熱を放ったらしい。


流石は私の護衛。これくらい反応出来なくてはねぇ


「なっ、」


「ボサッとしてんじゃねぇ、来るぞ。」


ジャナルディ様の唖然とした声と緊迫感を宿すアーグの声を耳にしてふわりと微笑む。


「さあ、行きますよ。」


首を僅かに傾けて揺らしたピアスの蝶と花が微かにかち合った音と同時に“氷塊”と水球を二十個ほど作り出す


顔を引き攣らせたアーグにくすくす笑って、放つ。


躱した二人の間を狙って距離をとらせる。


アーグは私が相手をし、その間にオスカー殿下がジャナルディ様を牽制する。


「はぁー…緊張するけど、このくらいのフォロー出来ないと男として恥ずかしい。」


「相手が王子だからと手加減はいたしません!」


早くもオスカー殿下対ジャナルディ様に縺れ込めましたし、後は殿下の突風でジャナルディ様を近づけさせなければ暫くは持つと仰られましたし、突風を防ぐ事に必死になればなるほど隙が出来て狙いやすくなる。


私も氷と水を使ってアーグと距離を保ちながら相手をすれば勝算は圧倒的。


けれど―――


「まあ熱い。」


「まずは魔法勝負ってんなら、乗ってやらァ」


アーグがそう簡単にやらせてはくれませんし、炎との相性は中々に厳しいですねぇ。


放つ氷塊も水球も溶かされ、蒸発させられる。

長期戦か、一気に決めてしまうか


掌に魔力を集めてふう、と息を吹けば夥しい数の氷の蝶が姿を現して闘技場の空を飛び交う


その光景はとても美しく幻想的。

けれどその美しいモノの危険性をいち早く察知したアーグが大きな炎の渦を氷の蝶の舞う空中へ放って溶かす


「あらあら…残念。」


「あのままだったらオレらの身体氷漬けだったな。えげつねー」


「氷の蝶の鱗粉もまた“氷”。纏えば簡単に凍らせてしまえたのだけれど…流石ねえ。」


「今度はオレの番だろ?」


ニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべると剣先を地に向けて腰を落とし目を閉じる。


この間に速い攻撃をしても良いのだけれど、先程はアーグが待ってくれましたから、今度は私が待ちましょう。今は命の駆け引きではなく試合ですもの。


ですが、攻撃を待つのはアーグだけであって其方は攻撃致しますよ。


離れた場所から此方を見て固まっていたジャナルディ様に向けて水球を放つと、それは土の壁で遮られてしまった。

でも土は水を大量に含めば泥と化して崩れる。


崩れたところを狙って水球を五つほど放ち、こちらも唖然としていたオスカー殿下に「今ですよ」と手を振ればハッとしたように風の刃を放ったけれど、その刃は既に持ち直していた水に濡れたジャナルディ様に防がれてしまう。


「あら。水も滴る良い女ですねぇ。」


「……貴女を侮った事を深く詫びよう、アクタルノ公爵令嬢!」


「その詫び、受け取っておきましょう。私も女性を大勢の目前で濡らしてしまった事を謝罪致します、ジャナルディ伯爵令嬢様。」


そのように戯れているとブワッと肌を焼くような熱気が漂ってきた。


私とオスカー殿下の周りに冷たい水の渦を作るけれどすぐに蒸発してしまって意味がない。

少し冷え過ぎてしまうけれど氷で囲う


「ありがとう、アクタルノ嬢…!」


「この熱気に耐えられる人は少ないでしょうし、お気になさらないでくださいな。」


「…ジャナルディ嬢は耐えているみたいだけど…」


「今あの方はアーグ側ですもの。味方にまで熱気を当てるほど未熟ではありませんよ、うちの子は。」


「………本当に、貴女達は年齢詐欺だね。」


「褒め言葉として受け取っておきます。」


そうこう言っている内にアーグは攻撃の準備を完全に終えたようで、熱を放つ紅く染まった剣を私に向け構える。


「オレの全力…受け取ってくれよ、お嬢。」


「あらあら、受け取れるかしら。とっても熱そうだもの、冷やしても宜しくて?」


傘を利き手である右手から左手に持ち替えて、魔力を集めた右手をアーグに向ける。


互いに攻撃を向け合う形になり、先にアーグが動く


剣を勢い良く振り下ろすと巨大な炎の塊が私に向かって牙を向く


目の前から迫り来る炎に向けて右手を翳す



「炎は氷を溶かすけれど―――」



―――炎と氷水が衝突した。



爆発音のような大きな音が闘技場に響き渡り、バキバキ、ジュワジュワと音がして湯気が辺りに漂い視界を遮る。



「冷たい水もまた、炎を消火するものですよ。」



湯気が消えて晴れた視界には何もなく、ただ闘技場の地面が抉れた様子が炎と水の衝突の衝撃を物語っていた。


「さっすがお嬢、息切れ一つしてねーのな。」


「ふふっ。私の魔力は膨大ですもの。」


「その膨大な魔力を抑えてコントロールする力量がすげえっつってんだよ。」


「まあ。ありがとう。嬉しいわぁ」


純粋に褒められて照れてしまう。

頬に手を当てて気恥ずかしさを誤魔化そうとしていると、また炎の渦が繰り出されて同じように氷水の渦で相殺する。



《この試合は一体何なんだ…?十代前半の少年少女の闘いとは思えない激闘…!!会場内は混乱と興奮で満ちているようです!!猛威を奮うルーナリア・アクタルノ嬢に立ち向かう狂犬アーグの姿に胸を打たれる者続出!!そして、まさかまさかの膨大な水属性の使い手に現れる特殊属性“氷”の使い手であったルーナリア・アクタルノ嬢のその実力、上級魔道士を超えていると現魔道士団のエリート、ミリナ嬢が豪語しております!!ルーナリア・アクタルノ嬢、貴女はまさに氷を操る“女帝”のようです!!わたくし、何故だが平伏したくなっております!》


嫌ですねぇ…何故あの審判員の方まで特殊趣向なのでしょう…。


《そして辛うじてだが“女帝”に立ち向かう姿を見せた剣の天才、エレナ・ジャナルディ嬢もオスカー・ロズワイド様を押して押して押しまくっているー!流石のオスカー・ロズワイド様も剣の天才の剣技には押され気味…のように見えますが上手く突風を吹かせ距離を取っています!…この戦法、騎士団のザリウス・ティト様によると剣士にとってはとてつもなく嫌なやり方だとか!》


「アクタルノ嬢の提案なので。」


《我らが“女帝”は素晴らしい…!!!》


変態が興奮する様を見る趣味は私にはございませんのに、オスカー殿下ったら酷いです。


「ルーナリア・アクタルノ様、素敵ですーッ!!!かっこいーっ!!キャーッ!」


「ルーナリア様ぁ!頑張ってくださいませー!」


「ルーナリア様、頑張ってーッ!!」


「まあ…嬉しい声援、ありがとう。」


観客席から身を乗り出して歓声を贈ってくださるオリヴィアさんや大きく手を振るクラスメイトの皆様に嬉しくなって自然と微笑みが浮かぶ


その間にもアーグからの炎は途切れる事はないけれど、全てを弾き防ぎ、合間合間に氷や水を放つ



あぁ、素晴らしい。


全力で打ち合う魔法も、全力で振るわれた剣技を躱す緊迫感も、堪らなく心地良い。


この息苦しさが私が“息をしている”のだと強烈に訴えてくる。



「さぁ、アーグ。()()()はいりません。」



傘をクルリと回しながら小首を傾げて微笑む。



「全力でおいでなさいな。」




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[一言] さすが、女帝… まだまだ余裕!
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