初等部の実力者達
《初等部一年の優勝者は一組のオスカー・ロズワイド様と二組のルーナリア・アクタルノ嬢!流石は王家と公爵家!だがしかし!
オスカー・ロズワイド様VSガルド・バルサヴィル様の胸に来る男の友情バトルも!!最後の握手に胸を熱くした男は多いはずだ!自分がそうだからわかるぞ!!!素晴らしい拍手!
ルーナリア・アクタルノ嬢VSトレッサ・レジャール嬢の青と赤の冷徹と情熱の決勝も胸熱だったー!!正に“水の姫”と“火の姫”だ!!素晴らしい拍手!》
熱苦しいコメントをする審判員の放送を会場内の皆様がワァーッと盛り上げているなか、決勝戦が終わった私達は控室にいる。
「ガルド様、殿下に負けましたの?」
「なぁそれどういう意味で言ってる?」
「負けてしまったな。全力で挑んだが、あと一歩及ばなかった。鍛錬が足らなかったようだ。」
「一歩、というかギリギリだったね。惜しい。」
「マムルーク、どっちの肩を持ってるんだよ。」
殿下は弄り甲斐があって楽しいですねぇ
私だけでなく、ガルド様もマムルーク様も同じように思っていらっしゃるようで面白いわぁ
今日の出番は終わり次は初等部二年三年の優勝が決まり、中等部の決勝が決まるのを待つだけで暫く観戦だけの私達は流れで控室で世間話しながら殿下を弄って中等部や他の強者の話をしている。
此処控室にマムルーク様がいらっしゃるのはオスカー殿下の側近であり護衛だからだ。
ちなみに女子準優勝のレジャール様は猫のように威嚇して早々に帰って行かれた。
『来年首を洗って待ってなさい!』と完璧なふんぞりを見せてくれる彼女はなかなかに可愛らしい。
「中等部男子は兄上だろう。女子は間違いなく剣の天才エレナ・ジャナルディだろうし。」
「あら、私のアーグも居ることをお忘れなく。女子生徒については私も異議なしですねぇ。」
「去年は兄上が勝ったんだろ?」
「らしいね。決勝で僅差だって。」
「兄から素晴らしい剣技が繰り広げられていたと聞いた。今年はこの目で見られるから楽しみだな。」
アーグと僅差で勝つほどの剣技とはリアム殿下は剣の天才かしら。
「私からしてみれば、アーグが私の目の前で誰かに負ける姿は想像がつかないのですけれど…。リアム殿下が剣を持つ姿も。」
「確かに兄上は剣より魔法かもしれないけど…。いや剣もヤバイな…いやいやあの雷魔法はヤバイ。」
「騎士団長直々に指南を受けておられるので生半可ではありませんね。」
「特殊な雷魔法に対抗する術も中々ない。」
「まあ…。皆様の評価が高いと私のリアム殿下への期待値も高まるのですけれど…。」
「高まっても問題ないと思うよ。」
マムルーク様の爽やか笑顔はご健在ですねぇ
この爽やかさ、少しだけでもアーグに分けてもらえないかしらねぇ。
私が優勝したのに来る様子がないんだもの。
オリヴィアさんと特訓してるのかしら。
……寂しい。
《おぉーっとお!!初等部二年の決勝が早くも決まったー!!生徒会員であるリノ嬢だぁあー!男子決勝勝者のシズマ・マサール子息も素晴らしい激闘というか、どちらもとても速い攻撃で目が追いつかない人も居たのではないだろうか!!正に、閃光の二人!!》
あら。次の対戦相手はリノさんなのねぇ
「生徒会なのか。アクタルノ嬢、相手のこと何か知ってる?」
「火の使い手という事しか存じませんが…。気弱な方なので勝ち残るとは思いませんでしたわぁ」
「貴女が怖いだけじゃないの?」
「まあ、殿下。淑女への接し方、今一度お教え致しましょうか?」
「いや悪かった、ごめん。」
顔色を悪くさせる殿下を側近の二人が呆れたように見ているのを横目に、控室から見える闘技場の様子を眺める。
緑髪と淡い赤髪の少年少女が顔を見合わせて笑い合っていらして、微笑ましい。
シズマ・マサール子息は風魔法の使い手
リノさんは火魔法の使い手
タッグを組むならとても相性が宜しいですね。
「殿下、私達も対策を練りませんこと?」
「ん、そーだな。」
「じゃあ僕達は席を外そうか。」
「そうするか。俺はクラスの皆の所に行ってくる。……ルーナリア嬢、何か伝言は?」
「そうですねぇ…。では、また皆様とお茶会をしたいとお伝えくださいませ。」
「ああ、わかった。」
珍しく柔らかい微笑み浮かべたガルド様にそんなに心配させていたのかと、少し反省した。
「……貴女もそんな顔をするんだな。」
「まあ、殿下ったら。私、表情の変わらない人形ではございませんのよ?」
「知っているよ。貴女は結構短気だよね。」
「……………まあ。」
短気?この私が?どこをどう見れば短気だとお思いになられるのかしら。
「僕に対して毒を吐く速さは中々だからね。短気だろう?」
「殿下が不甲斐ないだけです。」
「ほら、短気だ。」
「…………もう結構です。」
本当に、王家の男性は…!
「よう、お嬢。初等部優勝おめでとう。」
「ありがとう、アーグ。」
「……あの、何か優勝決まったみたいに仰ってますけど、まだ初等部の決勝終わってませんよ…?」
「お嬢が負けるわけねーだろ。」
「あらあらまぁ…。アーグにそんなこと言われてしまったら意地でも負けられないですねぇ」
「強気なルーナリア・アクタルノ様も素敵…!」
「また濃い人が…」
オスカー殿下が額を抑えて言う姿にくすくす笑っていると、「あのっ」と背後から声を掛けられた。
声のした方へ向くと、両手を胸の前で組み怯えながら私達を見ているリノさんがいらした。
声を掛けられるとは思っていなかったから少しだけ驚いたけれど、リノさんの後ろに控えている二年の男子勝者のシズマ・マサール子息の軽蔑と敵意を含んだ眼差しに気付いて微笑む。
「こんにちは、リノさん。次の試合、お互い良い結果を残しましょうね。」
「えっ?」
いつも素っ気ない私がにこやかに接したからか、キョトンとした表情をなさってつい微笑ってしまう。
「終わりに近づいていますの。」
「え、終わり?え、あの、……どういう…?」
「それはお楽しみです。」
人差し指を唇に当てて目を細めてみれば顔を真っ赤にさせたリノさんと流れ弾を食らったオリヴィアさんとオスカー殿下に微笑ってしまった。
「魅惑の…唇に指…!!!」
「……貴女は変態にしか好かれない体質か何か?」
オスカー殿下。それ、ブーメランですわぁ
「あっ、あの、あたし…!貴族の方だからって、容赦はしません!」
意を決したような目を真っ直ぐ私に向けて仰られたリノさんに思わず口から滑る。
「強気なのは良い事ですねぇ。普段もその様にお顔を上げていらっしゃれば宜しいのに。」
「え…、」
「折角の可愛らしい淡い赤が俯いて見えないのはとても惜しいと思っていましたの。ほら、私の従者は綺麗な真紅でしょう?赤色って何だか親近感が湧くといいますか…」
「し、しんきんかん……」
「ふふっ、ええ、親近感。」
唖然としているリノさんと訝しく見ているシズマ・マサール子息に柔らかく微笑み、優雅に浅い一礼をする。
息を呑む様を感じながら背を向けて控室から出た。
「お嬢、猫かぶりやめんの?」
「ええ、もう終わらせるもの。」
「いつ。」
「そうねぇ…」
ゆっくりと瞼を閉じて、ゆっくりと瞼を開き、その先の視界に広がる美しい青空に目を細める。
《初等部三年の決勝の勝者は―――――》
場内に響き渡る声にふんわりと微笑む。
「闘技祭が終わる頃かしら。」
ロズワイド学園の名物行事『闘技祭』にて、
初等部の部門で初の一年生優勝を誇った生徒。
二年生の『閃光』。
三年生の『弾丸』。
速さと威力を絶対的に誇る強者を、その速さ、その威力さえ上回る力で瞬殺させたとか。
『氷の女帝』
『疾風の殿』
ロズワイド学園の歴史に長く残る強者を皆が称え、敬い、畏れたのだという。
リノちゃん達との戦闘シーンを書こうか悩みましたがこういった形で収めました!




