生徒会
「ではまず自己紹介をしようか。僕はウィスド・カヴァルダン。高等部二年の生徒会長だよ。」
優しく微笑む皆様が手を焼くラズベリー色の赤髪と瞳が素敵と評判の問題児その一。
「私はネラリス・タバサルス。中等部三年よ。会計をやっているわ」
濃紺の髪と瞳が綺麗な問題児そのニ。
二人共顔立ちが綺麗でどちらも異性に人気があると言うのは納得できる。表だけが良くても中身が屑なら宝の持ち腐れだけれど。
「初めましてルーナリア・アクタルノ嬢。俺はライギル・バルサヴィル。高等部一年の副会長だ。宜しくな。」
バルサヴィル侯爵家嫡男であるこの方が次期生徒会長であり、私の隣の席ガルド様のお兄様である。
淡い緑色の髪と瞳がそっくりで年齢が近かったなら双子と言われても信じられるほど似ている。
何だか親近感が湧きますねぇ。
「……中等部二年のアイサです。書記、です。」
心許ない様子の水色の髪と瞳のお姉さんは、姓がないから平民の方だ。私を不安そうに見ているのは私がどちらかか見極めようとしていらっしゃるのねえ。
「初等部三年のレオン・トバラス。庶務。」
金に近い茶色の髪と瞳のこの方はトバラス伯爵家の三男だ。眼鏡をしていてインテリっぽい雰囲気を出していらっしゃるけれど、私を直視していないところが何だか可愛らしい人なんだと感じる。
「初等部、二年の…リノ、です。庶務を、して、います…。」
柔らかい赤髪と瞳の怯えた様子の一つ上の先輩。
ガッチガチに震えて子猫が怯えているようで可愛らしいわぁ…
「中等部一年、リアム・ロズワイドだ。書記をしている。」
金髪琥珀の美しい顔は無表情ながらやはり綺麗な殿下が最後で、生徒会の自己紹介は終わった。
高等部二年生徒会長。ヴィスト・カヴァルダン
高等部一年副生徒会長。ライギル・バルサヴィル
中等部三年会計。ネラリス・タバサルス
中等部二年書記。アイサ
中等部一年書記。リアム・ロズワイド
初等部三年庶務。レオン・トバラス
初等部二年庶務。リノ
そして、初等部一年。ルーナリア・アクタルノ
「初等部は慣れるために庶務から始める規則なんだけど、アクタルノ嬢もお願いできるかな?」
少し膝を曲げて幼い子に言うような口調の糞会長にリアム殿下が僅かに笑いそうになっているのを気にせず、ほんのりと頬を赤らめて糞会長を見上げる。
この角度は完璧でしょう。慄くがいいです。
「勿論です、生徒会長さま。私、頑張ります!」
両手を胸元で組んで一生懸命さをアピールした私に糞会長は顔をデレっとさせ、金魚の糞よろしく傍に付いている中等部三年会計の女は私を睨む。
気づかない振りをして、唖然と私を見ていらっしゃる他の方々にも可愛らしく首を傾け
「皆様、よろしくお願い致します。」
これぞ“満点の可愛さ”と言える笑顔を向けた。
この笑顔に堕ちない者はとても見る目があると自負しているのですけれど、糞会長は没。副会長は訝しく思っていらっしゃるので可ですね。
「皆で協力してやっていこう、アクタルノ嬢。」
甘い笑みを向けてきた糞会長のこの笑顔はきっと、何人もの女性を陥れた笑顔なのでしょう。
鳥肌の立つ体に反し、表情は堕ちたように見せる。
頬を赤らめ、瞳を潤ませ、口を半開きにし、
「っ…はい!」
少し甘えたような声音と弾みのある口調で返す。
これで私は糞会長に恋に堕ちた、と皆様に思われたでしょう。
ここからが正念場。
さあ、頑張りますよ。
「あのっ、生徒会長さま…!」
生徒会の皆様が自分の持つスペースに戻り、庶務をする初等部のスペースは三人纏めてあり、そこへ案内しようとしてくださったレオン・トバラス様とリノさんに気づかない振りをして、奥の会長席に行こうとした糞会長の元へ小走りで駆け寄る。
「どうしたんだい?」
「あの、私の従者はここへは入れないのでしょうか…?」
「あぁ、君には優秀な護衛が居たんだったね。ごめんね、従者は隣室にいる事が規則なんだ。……この生徒会室に入れるのは限られた者だけだから。」
最後の言葉の時、僅かに鋭い目つきでアイサさんとリノさんを見た糞会長。
ビクッと身体が震えた二人に副会長とレオン・トバラス様が声をかけていて、そのスムーズさにこれは日常茶飯だと感じた。
「そうなのですね…。」
しょんぼり、と顔を俯かせ声を下げた私に糞会長は気持ちの悪い優しい笑みを浮かべて、私の頭をソッと撫でてきた。
「この部屋なら何があっても大丈夫だよ。設備は万全だ。給仕もいるし、心配することはないよ。安心して。」
「まぁ…そうなのですか?それは安心です。さすが生徒会長さまですわ!」
可愛らしく笑顔になる私に気分が良くなったらしく、糞会長が気分良さそうに話を続けてくる。
「でも、絶対に駄目ってわけじゃないよ。アクタルノ嬢は公爵家の人間だからね、特別だ。」
「とくべつ…」
そんなわけありますか。ここでは家柄など関係ないでしょうに。阿呆ですか。
「よっぽどの事がない限りは控えてくれよー?」
茶化すように注意なさった副会長の表情には「問題児が増えたら堪らん」とわかりやすく書いてある。
けど、
「……わかりました。」
少し不貞腐れたような返事の仕方して、お二人にお辞儀をして此方を見て顔を歪めていたレオン・トバラス様に声をかける。
隣にいるリノさんはあえてのスルー。
だってまだ糞会長がこっちを見ているんですもの。
「宜しくお願い致します、レオン・トバラス様。」
「……宜しく。」
引いたような顔のレオン・トバラス様はきっと糞会長アンチ派なのですね。
貴族の嫌う平民と良い関係を築ける人。
素晴らしいです。
「俺とリノで庶務の仕事を教えるから。」
「あのっ、…よ、宜しくお願い致します…」
「ええ、宜しくお願い致します。」
怯えながらも声を掛けてくださったリノさんに少し嫌な顔と嫌な声で返事をすると、あらまあ。
「レオン、リノ、先輩も頼れよー」
「リノちゃん、ちょっとこっち手伝ってもらっても良いかな?」
副会長と書記の先輩に「問題児」と目をつけられてしまいました。
ホッとした顔で書記のアイサさんの元へ行かれたリノさんを見ることなく、顔に「コイツ嫌いだ」と書いているレオン・トバラス様に微笑みかける。
「貴族たる者、顔に出過ぎてはいけません。」と、この方が第二王子殿下ならば言っていたかもしれませんねぇ。
この先、仲良くなれたら言いましょう。
あぁ…それにしても、気持ちの悪い。
今すぐ頭を洗いたい。まるでバイ菌に触れられたかのように感じてしまいます。とてつもない汚物には違いありませんけれど。
微笑みを浮かべて顔には出さずに思っていると、不意に頭に何かが乗った。
「初等部同士、仲良くする。」
どうやらリアム殿下の手らしい。
「まあ、殿下。女性に許可なく触れる事はマナーに反しますよ。」
「先程のは?」
「何事にも“特別”というものがございますわ」
「そうか」
少し笑いを含んだ声に肩の力が抜けて、思いの外精神的にキツイのかと感じた。
自分の限界を考えずにする事は危険。
もう一度程々を考えてやりましょう。
「俺も半年前までは庶務だったからな。出来る限り君に教えよう。」
「光栄です、殿下。」
「あまり、頑張り過ぎないように。」
ほんの少し、困ったように目尻を下げて言うリアム殿下に珍しい表情をされたと驚きながら微笑んだ。
汚物のバイ菌に触れられて気持ちの悪かったモノが僅かに消え去って。
また視線が向けられなかったのは、きっと糞会長の目が此方を見ていたから。
……それ以外に見れない理由なんてないでしょう。




