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領地の子供


殿下御二人が来られて二日、明日の昼に王都に戻られる事が決まって屋敷の使用人はホッとしているようだった。


普段は敬うことのない小娘だけだからか、崇高な地位の方にしどろもどろで此方が教育不足と思われそうだ。

お父様に伝わったらどちらが罰を受けるのかしら。両方が一番ありそうねぇ


そんなことを庭園でお茶をしながら思う。


「北の伯爵が新しい作物を――――」


「それならば東国の端にある国が――――」


「兄上とアクタルノ嬢の話は外交の者や役人がするものではないか?」


それなりに楽しいお茶会で楽しい。



そんななか、屋敷の方が少し騒がしくなった。

最初に気付いたのは私とケルトル様とリアム殿下、遅れてオスカー殿下が気づく


中々に優秀になられたと感心しながら此方に静かに駆け寄る侍女の一人が青い顔で報告する。


「も、申し訳ありません、貧民街の子供らが、」


怪訝な顔をしたのは殿下御二人と、唖然として私を見るケルトル様に微笑む


「リアム殿下、オスカー殿下、お目通し宜しいでしょうか?」


これは私の、ちょっとした賭け。



「…良いだろう。」


「………僕も、良い。」


一拍置いて頷いたリアム殿下の後、僅かに顔を青褪めながら了承したオスカー殿下に感謝を伝え、侍女に子供たちを連れてくるように言うと化物でも見るような顔をして行ってくれた。


私のこの行為は途轍もなく不敬だと理解している。

王族に会う事は貴族であってもそう無い事を、催事でもない限り顔を見ることの無い国民に合わせるのだから。


そしてそれが貧民街の子供であるならば、様々なことを慮ることでしょう。


あらゆる病気、王家への恨みなど。

貧民街の子供は悪漢になることが多いから子供であっても心配はあるでしょうね。


けれど、オスカー殿下はともかくリアム殿下は私の様子を見ると頷かれた。

信頼をおいてくださっているのか、何なのかはこの際どうでも良いこと。あったとして私には何になることもない。


「感謝致します、両殿下。」




しばらくして、見慣れた子供達が庭園へ来た。


「おじょーさまー!」


「あーあ。今日もアーグいねぇし!」


「初めて見る人いるよ?」


「すげえ美形。お嬢様と並んでも違和感ない。」


「………。」


四歳から十歳以上の五名と、


「なっ!!?」


「お久しぶりです、いつかの護衛。」


藍色の髪のケルトル様と同年代の青年。


いつかの“リーダー少年”である。



「なんでこの領地に…」


「私とアーグとで会いに行きましたの。約束を守れなかったことを謝罪しに。その際に此方に。」


「なっ、公爵の許可が下りたのですか!?」


「いいえ?」


微笑む私に唖然とした顔のままのケルトル様を見比べ、“リーダー少年”が笑う。


「勝手に焦がれて付いてきた厄介者を上手く使ってくれていますよ、我等の姫は。」


「その呼び方、恥ずかしいと何度も言っていますでしょう?リダ。」


“リーダー少年”改め、リダは楽しそうに笑うのをやめない。


謝罪しに一日で王都に行き、何故か懐かれてアーグとも顔見知りであったらしく連れ帰ることになってしまった少年だった彼は、どこか掴み所のない青年に成長した。


けれど王都のスラム街で“リーダー”と呼ばれるだけあって纏める力は群を抜いていると思うし、実際すぐにこの街のスラム街の子供のボスへと君臨した。


それに逆らう事のないスラム街の子供達を私に引き合わせ、とても良い事になったことは幸運でした。



「おじょーさま、きょーはなにするー?」


「メグ、お客様の前でやめなさい。」


「良いのですよ、リカ。今回は私達の関係を見て戴くためですもの。いつも通りで良いのです。」


最年少のメグが抱きついてくるのを受け止め、よしよしと頭を撫でる。


顔を引き攣らせているオスカー殿下と、興味深そうなリアム殿下に微笑む。


「私の耳となってくれている者達です。」


「!」


「耳?」


御二人の反応は違っていて、私が求めていた反応をなさったのはやはりリアム殿下だった。



「彼等には文字や計算を教えています。その代価として街のお話を聞いているのです。私は余り外出出来ませんから。」


「おじょーさま、からだよわいんだよねー?」


「こら、メグ!」


リカが抱きついていたメグの頭を叩き怒る。

この子達の教育は中々に物理的で貴族からしたら良いものではないけれど、私は少し近いものを感じるから気にしない。頭は撫でてしまうけれど。


オスカー殿下はあまり良い感情を抱かなかったらしいけれど、リアム殿下はどこか思うところがあったらしい。


人の捉え方は人それぞれ、ですねえ。



「…報告。」


無表情が常のクロがそう言うと五名とリダが私の前に横一列になる。


この切り替えはそこらの貴族より上手いと思う。


現に王城に住まう様々な人を見ているであろう御二人とケルトル様が目を瞠っている。



「ではメグからお願いします。」


「はーい!」


薄緑の髪と瞳の最年少、メグ


「さんばんで、いっぱいやさいできてた!おはなもねえ、いっぱいだったよ!おみずあげるの、おてつだいしたらね、おやさいくれたの!みんなでたべたよー」


「まあ。それは素敵ねえ。お手伝いもとても偉いですよ、メグ。」


「えへへー!」


南は豊作。子供に分け与えられる程には余裕がある、と。それにスラム街の子供にも軟化してきましたね。良いことです。



「次はギル、よろしくお願いします。」


「うい。」


赤茶の髪と瞳の男の子、ギル


「強そうなのが増えてっかな。でもヤベー奴が出たってのは聞かねーし、そこそこだけじゃね。」


「全体的にですか?」


「四番と一番、今のとこオレが知ってんのは。」


「良く見ていますね。アーグの穴をよく埋めてくれてありがとうございます。」


「へへっ、アーグに頼まれてっから!」


東と北に何かありましたかねぇ。これはまた今度リダに行ってもらいましょうか。…あぁ、もう調べていますね、あの顔は。



「では次、リカお願いします。」


「はい!」


水色の髪と瞳の少女、リカ


「二番では商人が増えました。可愛い小物とかを売っています。街の女の子達がおめかしして一番でお買い物する事が増えてて、強い彼氏が出来たとか言ってたのでギルの言うそこそこの人達と関係してると思います。」


「そうですねぇ、私もそう思います。リカは誰か素敵な人でも見つけましたか?」


「いいえ。きな臭い感じがして近づきたくなかったので。ただ可愛い小物は、可愛いなぁと…」


「ふふっ。リカは可愛い物が好きねえ。」


「はい!でもお嬢様が一番可愛いのでお嬢様が一番好きです!」


「……まあ…。ありがとうございます、リカ。」


「ん"ン!…カワイイっ。」


北は商人が増えた、というのはこの前から聞いてますね。王都で良い物でも出来て流れましたかね。それでこの領地が潤うのはとても良い事ですけれど。

リカの勘は動物的ですし、きな臭いというのは事実で何かあるでしょうね。



「では次、カイルお願いします。」


「うっす。」


水色の髪と瞳の少年、リカの兄であるカイル


「四番と一番の裏はきな臭いのが多いっすね。クロと二人で行ったら貴族の従者らしき者を見たっす。この紋章す。」


「あら、確かにこの紋章は貴族ですね。」


「今のとこ街で誰かが消えたっつー話は聞いてないっす。」


「そう…、ありがとうございます、カイル。やはり、顔が広いのは武器でしょう?」


「…そっすね、お嬢様の言う通りっした。」


顔が広く街にも溶け込んでいるから領民の話がとても良く聞けて嬉しい。人の懐に難なく潜り込む、誇るべき長所。そしてリカの兄であるから動物的勘もある。素晴らしい。


そしてこの紋章。どこぞの葡萄酒を好む伯爵様の家の紋章だけれど、王族への不敬で手厚い接待をされたと聞いているけれど、逆恨みが今来たかしら。



「ではクロ、お願いします。」


「…。」


紺に近い黒髪と瞳の少年、クロ


「三、安全。二、繁盛。一、四、注意。」


「そうですね、私も同意見です。けれど二番も少し探ってみてくれますか?繁盛は続けて欲しい事ですから。」


「…。」


リカとカイルの動物的勘以上の鋭さのクロ。アーグに勝るとも劣らず素晴らしいものを持っているのだけれど、本人の意欲は皆無で生活するのも困難。



だがそれら全てを上手く使うのが、リダである。



「偶然と故意があるんで少しまどろっこしいですけど、何とか出来ますよ。それとこの貴族は王族の御二人が入る前から居たので狙いはお嬢様かと。」


「そうですねぇ、逆恨みかしら。念の為、少し警備を強化するように隊長に伝えてくれますか?」


「了解しました。」



私の信頼する子達は優秀ねぇ




ほんの少しでも皆様の不安な時間を和らげることができますように。

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