王子来訪
あけましておめでとうございます。
皆様にとって良い一年になりますように。
翌日の夕方頃、王家の紋章の彫られた馬車がアクタルノ公爵邸に到着した。
使用人一同で邸のエントランスに集まり整列し、私は一人前に出て馬車から降りられた御二方に挨拶のカーテシーをする。
「お久しぶりでございます、リアム殿下、オスカー殿下。アクタルノ公爵領へようこそおいでくださいました。」
「久しいな、ルーナリア嬢。数日世話になる。」
「…お久しぶりです、アクタルノ公爵令嬢。」
面を上げてふんわりと微笑み、御二人の後ろに控える方に僅かに目を向ければ柔らかな笑顔のまま目礼され私も微笑み目礼を返した。
「半日の馬車で御身体もお疲れでしょう。本日は御緩りとなさってくださいませ。」
「感謝する。」
「…ありがとう。」
お会いする機会はそうないけれど、リアム殿下の無表情ながら気持ちが伝わる態度はいつも通りだけどオスカー殿下はどこかぎこちない。
いつもならば少し嫌味があると思うのだけれど…。
まぁ初めて王都を出て慣れない場所で過ごすのだから気を張るのも無理はないでしょうか。
そう考えながらゆったりとした動作で御二人をリビングルームへとご案内した。
殿下方の侍女や護衛の方を屋敷の者に案内してもらい、用意した部屋に荷物を運んでもらう間、私は御二人をおもてなししていた。
「もう暫くすれば夕食ですので紅茶だけ御用意させて頂きましたの。」
「ありがとう、戴く。」
リアム殿下が優雅な動作で紅茶を飲む中、オスカー殿下は少し青い顔で紅茶を見ている。
あらぁ…何だかとても共感する姿ですねぇ
コレは大丈夫な物なのか信じて良いのかわからなくて怖い。って、感じでしょうか。
何となく殿下が王都を出てこちらにいらっしゃった理由を理解した。
けれど普通に考えて此処に来るより王城の方が良いと思うのですけれど。警備の数も多いでしょうし。多いからこそ不安要素は多いのだろうけど。
などと考えながらも私は特に聞く必要もないだろうと自分の紅茶に手を伸ばしたとき、
「お嬢様!」
懐かしい声で呼ばれて思わず手を止め声の主を見上げ微笑む。
柔らかな茶髪と濃い茶色の瞳の青年は身体も顔つきも変わったけれどその優しさは少しも変わっていないのだと嬉しく思った。
声を上げてからハッとしたケルトル様にリアム殿下は僅かに笑い、オスカー殿下は驚いている。
殿下の護衛騎士になられたと手紙で聞いていたけれどこの目で見ると格別に嬉しいですねぇ
殿下方の前で殿下の護衛騎士と会話を楽しむわけにはいかないので、ニコニコと微笑むだけにして紅茶を飲む。
その間のケルトル様の視線は鋭くて何だか懐かしくて笑ってしまう。
「ケルトル、話して良いぞ。ルーナリア嬢も久方振りの騎士とは募る話もあるだろう」
「感謝致します、リアム殿下。」
「感謝致します、殿下!」
少し笑っている殿下のご好意に甘え、私はケルトル様に微笑み声を掛けた。
「お久しぶりです、ケルトル様。さらに素敵な騎士になられましたねぇ」
「お久しぶりですお嬢様!ありがとうございます!これからも精進して参ります!」
「ふふっ。貴方はいつも真っ直ぐだから今以上に良い騎士になられますよ。とても楽しみです。」
「っ、勿体無き御言葉ですお嬢様…!」
「どっちが主従かわからんな。」
僅かに潤んでいる濃い茶色の瞳にクスクスと笑っていると、楽しそうなリアム殿下に言われた。
「まあ。ふふふ、今の主人は殿下ですわ。」
「そうだな、今はな。」
おかしそうに笑い混じりに言うリアム殿下の姿に隣に座るオスカー殿下が驚いた顔をしている。
同じ場所で育ちながら互いの事はあまり知られないようだと噂では耳にしていたし、実際にお茶会やパーティでも御二人が話しているところを見たことはない。
もったいないな、なんて思うのは私が一子だからかしら。
話せば殿下たちはとても仲良くできると思うのだけれど。主にリアム殿下が兄として。
まぁ、そのような事は一令嬢なだけの私が指摘することでもないでしょう。
「オスカー殿下、紅茶いかがですか?」
「あ、あぁ…いただくよ…」
青い顔をしたままだけれど、出されたものを口にしないという不躾は教育されていないらしく、意を決した表情で口にされた。
少しの沈黙のあと、オスカー殿下はホッとした顔をなさり、柔らかな翡翠の瞳を私へ向け笑う
「美味しい。」
「…それは、良うございました。」
初めてオスカー殿下に向けられた穏やかで柔らかい笑みは、その愛らしく美しい顔もあって僅かに言葉に詰まってしまった。
可愛らしい…。
「ようやく息ができたか、オスカー」
「…はい、兄上。」
あらあら…微笑み合って…兄弟間も悪くないようですねぇ。
和やかな御二人を紅茶を嗜みながら眺めていた。