二年後
第二王子誕生日パーティから二年の月日が経った。
私は八歳に、アーグは十一歳になり信頼関係は強固なものとなっていると思う
十分な教育をさせるために私の勉学の時間は護衛と言い部屋に入れて目と耳で覚えさせ、後は私が教えた。
剣術などは屋敷の兵に教わったり独自で鍛えたりして。魔術は変わらず私が教えて、それはもう立派な護衛として強さと実績を積んだ。
(王子と歳の近い娘のいる貴族からの暗殺者。少女趣味の変態。公爵令嬢を狙う者などに怪我はあれど全勝)
領地に戻ってからはあまり変わらず、料理長のフランさんや庭師のノーマンさんを筆頭にアーグに対しても普通に接してくれていて襲撃が無ければ比較的穏やかに過ごせている
一昨年のあの日、お父様からのお咎めはなかった。どうやら私は王族の方に気に入って頂けたらしく、1ヶ月起き上がれない程の魔力を取られただけで済んだ。
殿下へ啖呵を切った私を好意的に受け取る王族の方々は少し珍しい。
一年前には、第二王子誕生日パーティの前に領地の屋敷で料理人をしていた者に仕込まれた毒によるもので身体を壊したせいでパーティに出席できずお父様から嫌味のオンパレードの手紙が届いたくらいで、お父様が私へ当てた手紙はそれだけ
結局、その料理人は私を怖がり王都から戻れないお母様の差し金だったようですれけど。
あれから一度も顔を合わせていないし、何をなさっているのかも知らない
私の事は定期的に影を放って調べているみたいだけれど、その時は部屋でずっと刺繍をし続けているので変な報告はいっていないでしょう
「今日も良い天気ですねぇ」
「あったけーし、ねみぃ…」
屋敷の庭園の広々とした芝生の上に白地に青い蝶を描いたシートを敷いて、その上で刺繍をする私とその隣で寝転び微睡むアーグ
良い天気の日でのアクタルノ邸で見る光景である
薄紫のふんわりとしたワンピースを身に纏い、腰まで伸びた髪を緩い三つ編みにして肩に流し白のレースリボンで留めた髪型が常の私を、社交に滅多に現れない『深窓の令嬢』などと呼ぶ方もいらっしゃる
王族主催のお茶会などにしか出席しない事から言われているのだろうけど、その事を厭味ったらしく言ったりはする人はそう多くはない。
私が第一王子であるリアム殿下と個人的に仲良くさせて頂いているのもあるけれど、
「あと一週間だな、王子サマのパーティ」
「今日の昼頃には出ないといけませんねぇ」
あのパーティの日から私と第二王子であるオスカー殿下はあまり仲が宜しいとは言えない状態なのです。
二年の間に四回と数少ない王家主催のお茶会の場でも、王族として相応しくないお姿をなさる度に柔らかい微笑みを浮かべながら棘を刺す私とそれに反論し撃沈するオスカー殿下に周りは将来安泰だと微笑ましそうに見守るだけ
お父様には外塀から埋めろと命令されたけれど、私あの方と結婚して生涯を共にするのは遠慮したいのです。
なんだか我儘な歳下の少年としか思えなくて… 無理なんですよねぇ
結婚するのならばリアム殿下が良いです。
少しツンツンされていらっしゃる方だけれど優しい方だもの
「オレは初王子サマだな?」
「あまり遊んではいけませんよ?」
「ハイハイ」
軽薄な笑みを浮かべるアーグは今までお父様にお茶会などに出る事は許されなかった。
けれど今回初めて許可が降りてアーグを護衛として公の場に出ることが出来る。
何故なら、春からアーグが一足先にロズワイド学園へ入学することが決まったからだ。
本当ならば私と同時期に転入として入学する筈だったのだけれどお父様がそれを良しとせず、一年離れ離れになることになってしまった。
学園に入学するためにはお父様の許可とサインがいるからこの決定には逆らえない。
寂しいけれどアーグには勉学と戦術を学ばせたい。それが私にとって一番の思いなのだから仕方がない
その対価としてなのか、今回のパーティの護衛に付くことが許されたのだ。
「手紙での遣り取りしか知んねーからよ、実際会って確かめたかったんだよなあ」
「あら、何を?」
「ナイショ。」
ニタっと笑うその顔は主人公や正義のヒーローというより、悪の組織などが似合う気がする。
だけれどそんなところが可愛い子猫だと思う
悪戯好きのちょっとヤンチャな主大好きな子猫
可愛くて堪らない。
後頭部で緩く結われた燃えるような深紅の髪を撫でて微笑む
「私の子猫は優秀なのだと見せ付けてやりたいのです。アーグはいつも通り、私を守ってくださいな」
「言われずとも。お嬢はオレが守ってやる」
言葉はとても格好良いのに不敵に笑うその姿はやっぱり悪役で、悪役令嬢である私の従者にはピッタリだと笑ってしまった。
ルーナリア・アクタルノ、八歳。
これからも生き続けてみせます。