月の灯り
この作品を調べてみて初めて気がついたんですが、Twitterでも感想を頂けてました、すごく嬉しかったですありがとうございます☺
予想はしていましたが、お母様は私を待つことなく先に屋敷へ戻られたらしく私の帰る馬車がない
「申し訳ございませんお嬢様!すぐに手配を…!」
「お気になさらないで。王城に放置することはあり得ませんから迎えが直に来ますよ」
慌てまくるケルトル様にのんびりとそう言ってひっそりと配置されているベンチに腰を下ろし、ケルトル様にも隣へ座るように促した。
慣れたもので少し躊躇ったけれど素直に従われたケルトル様にくすくすと微笑ってしまう
「いかがなさいました?」
「いいえ、随分染めてしまったなと。」
ケルトル様はアクタルノ公爵であるお父様より、その娘である私に思考が寄ってしまっている
それはあまり良い事とは言えないのかもしれないけれど、私にとってとても嬉しいことで…
「貴方がこの先、素敵な騎士になる事を私は信じていますよ」
「お嬢様…」
僅かに目を潤ませるケルトル様に微笑う
素直で優しい貴方には騎士の在り方と進むべきモノは困難な事だってあるでしょう
けれどきっと、貴方は騎士になる。
素晴らしい主に仕えてその騎士人生を全うし、数多の人の上に立つ人物となるでしょう
「ケルトル・マーテム様。私の初めての騎士が貴方で心から嬉しく思います。」
柔らかな笑みを浮かべて言う私を見て、心優しい少年は濃い茶色の瞳から涙を溢した。
「貴方の人生に幸あらんことを。」
差し出された白いハンカチに咲いた散りばめられた薄青色の花に騎士を目指す少年は、その目を穏やかに緩めてまた一筋涙を落とす
「僕がお嬢様の護衛騎士を努めさせて頂けたことを一生の誇りと思います。
…っありがとうございました!」
その後、屋敷へ戻ることはなくアーグを乗せた馬車の迎えに乗り王都を去った。
月明かりだけの夜、お金で買収した御者がアクタルノ領地へ馬を走らせる馬車の中、私は疲れた身体を隣に座るアーグに委ねながら空を眺めていた。
メイドも護衛も何もいない、私の自由な時間
貴族令嬢としてあり得ないけれど今だけはどうか、見逃してほしいと切に願う
「良かったのか?」
「何がです?」
「ケルトル置いてってだよ」
「私のものではないもの。…あの方はまだ、誰のものでもないのですよ」
「お嬢のもんじゃねーの?」
意外そうに聞くアーグにくすくすと微笑う
「違いますよ」
「ふーん。」
それだけを言って興味が無くなったらしく、アーグも私に倣うように空を見た。
僅かな光を発する星たちを綺麗だと思う反面、見上げる者など多くはないのにと考える
今までこんな冷めた考え方をしたことはなかったはずなのにと嘲笑して、息を吐く
そんな私に何を思ったのか、アーグが「あれ」と指を指し、その先には夜道を照らす月
「月がいかがしましたの?」
「お嬢はアレ目指せよ」
「え?」
振り返るとそこには初めて見るほど穏やかに笑うアーグがいた。
「太陽とか全部照らす眩しいやつじゃなくてよ、見る奴だけが気づく灯りを目指せば?」
「見る者だけ…」
「例えばオレとか?」
そう言っていつものどこか軽薄さを感じる笑みを浮かべた。
月のような、見る者だけの灯り
その言葉に私は穏やかで緩やかな笑みを浮かべた。
「えぇ、なってみせますよ。月の灯りのように」
たった二人の、誓いの話。
備考。
ケルトルは父である公爵が学園の騎士科でトップの成績を誇る少年を王子の誕生日パーティまでの護衛(監視)に研修として迎えていただけなので、パーティが終われば主人公からは離されると決まっていました。それは二人が認識していた事です。ただ、ケルトルは公爵に詳しい報告をあまりしなかったので監視としては駄目です。初めてのお出掛けの時の事も含め、優秀だけど有能ではない。が公爵が下した結果です。