柔らかな毒
ケルトル様が持って来てくださったのは温かいお飲み物だけではなくて、軽食にと小さくカットされたサンドイッチやプチケーキなども持って来てくださった。
第一王子が隣に居る事にかなり驚かれたけれど過剰に気にすることはなく、騎士の礼と挨拶を終えると私に食事の説明をするという行動を取られた。
…良いとは思うのですけれど、王族としては自分以上に他の方に世話を焼く人なんて初めてではないのでしょうか……
そう思いふんわりと微笑みながらリアム殿下を見てみれば僅かに驚いてはいたけれど然程気になさることはなくて、少しホッとした。
「ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキと無難なものを選んで来ました!お嬢様、どれがお好きですか?」
「まあ!可愛らしいですねぇ」
小さなプチケーキは流石王宮シェフと感心する美しい飾りと出来で思わずきょろきょろと3つのケーキに視線を動かしてしまう
「殿下も召し上がられますでしょう?」
「…あぁ、頂こう。先に選ぶと良い」
一応声をかけると少し笑ってそう仰ってくださったので遠慮なくチーズケーキを手に取った。
殿下はショートケーキを選び、残ったチョコケーキはケルトル様へ
護衛として勤務中と断るケルトル様に私があーんをして食べさせる。
せっかくの王宮シェフのデザート、食べなきゃ勿体無いわ。周りの方々は小さな子どもの我儘として微笑ましそうに見てくださっているのだから大丈夫。
「まぁ…とても滑らかで美味しい…」
チーズが口の中で滑らかに広がりほんのり甘い香りがして、下地のサクッとしたクッキーシートがとても良いアクセントになっていて本当に美味しい。
食べ終え温かい紅茶を美味しく頂いていると、数人の男女を引き連れた第二王子がやって来た。
先程私の様子を窺っていた方々ではないところからして、高位貴族の第二王子の取り巻き子息令嬢ですね。
「兄上、特定の者と席をともにするのはあまり良くないと思います」
「陛下からの御達しだ」
「父上の…?」
顔を歪めて第一王子を見た第二王子はその目を隣に座る私へと移す。
「…具合は良くなったの?」
「第一王子殿下のお陰で酷くなる事もなく今は落ち着いておりますわ。ご心配をありがとうございます、第二王子殿下」
「……ふん。軟弱な身体でパーティとは余程僕に好かれたいんだね?」
…………まあ。
何なのでしょう、このお子様は。
とても気に食わないです。とても。
第二王子の周りにいる男女も嘲笑を浮かべていて、隣では第一王子が僅かに眉を顰めていらして、側でケルトル様が引き攣った笑みを浮かべている
この中でケルトル様だけが少し違ったニュアンスでしょうね。
「まあ。ふふふ。第二王子殿下はご冗談がお上手ですのね?私が貴方様を好いているとお思いに?」
「はっ?」
素っ頓狂な声を上げ口をポカーンと開けて私を唖然と見るお子様王子にニッコリと微笑み、
「王妃様に助けて頂かなければ社交も出来ないお方に好意を抱くことはあり得ません。」
ハッキリと口にした。
それ程大きくない声だったとしても二人の王子と今回の注目の令嬢が揃っている場を注目していないはずはなく、周りは耳を傾けていて、会場は驚くほどに静まり返っている
が、気にすることなく続けた。
「祝いの言葉へのお返事も「ありがとう」のたった一言で済まされ、プレゼントをお渡ししても「あっそ」などと仰られる姿に私、目を疑いましたの。よく両陛下方の前であのような恥を見せられるものだと。あら、もしかして恥だということもご理解していないのでしょうか?マナー講義は受けていらっしゃらないのかしら。公爵家の私でも受けているのに王族で第二王子であらせられる貴方様が受けていらっしゃらないはずはないのですけれど…マナー講義は受けていらっしゃいますの?」
ゆったりとした口調ながらも止まらない弾丸トークに第二王子が呆然として、徐々に顔を赤らめ怒りを表してきた。
「不敬だぞ!!僕は王族だ!第二王子なんだぞ!」
「王族の王子が公爵令嬢の私よりもマナーがなっていないとは笑えないですわねぇ。王子ならばお手本として立派なお姿を見せて頂きたいです。まぁ尤も、貴方様のような方をお手本などにすれば私達の代はこの国の恥になるでしょうけれど」
ずっと微笑みを絶やさず穏やかに話す私を周りの方々は驚愕の目で見て、第二王子の取り巻きはあまりの言葉に絶句か怒りのあまり震えていらっしゃる。
あらあら…後でお父様に殺されてしまうかしら。
「秀才とお噂の第二王子殿下に会えるのを楽しみにしていたのですけれど、とてもそうは見えない方でしたので驚きました」
「なッ、」
顔を赤くして絶句した殿下に柔らかく微笑み、ゆったりとした動作で席を立つ
「本日はご招待頂き誠にありがとうございました。私は失礼させて頂きます」
お子様王子へ優雅なカーテシーをした後、驚愕の表情で私を見ていた第一王子に深くカーテシーをする。
「お心遣い、ありがとうございました。一足先にお暇させて頂きますわ」
「君との話は面白い。また話をしよう。身体を大事にな」
「まあ。嬉しいです、是非機会があれば」
微笑み深くお辞儀をして、ケルトル様にエスコートされ少し遠くで見て居られた僅かに顔を青くしているお母様の元へ行き声をかける。
「お母様、先に屋敷へ戻りましょう?お父様に声を掛けてきますので馬車で待っていてくださいな」
「え、えぇ、わかったわ…」
若干の怯えを表すお母様に穏やかに微笑みその背中を見送り、ダンディな男性と話をされているお父様の元へ向かう。
「お話の途中失礼致します」
私へ厳しい眼差しを向けるお父様にも穏やかな微笑みを崩さずに帰ることを伝えると、辺りを見渡した後仕方がないとばかりに了承してくださった。
それに礼を言ったあと、静かに私とお父様の会話を見ていらしたダンディな男性に淑女の礼をしてお話の邪魔をしたこと謝ってその場を後にした。
あの方は“土を司る公爵”のアッシリア公爵家当主様だったはずですけれど、交友があるのでしょうか?
お仕事のお話をされている雰囲気ではなかったですし…あのような堅物に友人が居るとは思いませんでしたねえ。
そんなことを思って、視線を浴びながら会場を後にした。