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道導


慌てたケルトル様にエスコートされて隅の角に置かれたテーブル席に座ると、お母様が溜め息を付きながら隣に座られた。


「ルーナリアちゃん、陛下や王妃様方とお話をするのは大変結構だけれど、もう少し気を遣ってくれても良いんじゃなくて?わたくし、楽しくもないお話をずっと聞くの嫌だったわ」


「…申し訳御座いません、お母様。」


「次からは気を遣ってね」


「はい。」


どうして私の母は自分ばかりなのかしら。

王妃様や側室様はご自分の息子を慈しんでいるのが見てわかるというのに…


わかりきっていた事なのに先程の優しい方々を思うと少し気が沈んでしまう


「お嬢様、温かいお飲み物を持って来てくださいましたよ」


ケルトル様の気遣うような優しい声と言葉に顔を上げ、王宮メイドの方が持つトレイに乗った湯気のたつ紅茶に頬が緩む


「ありがとうございます。」


柔らかい声でメイドさんに言うと頬を赤らめてさっと私の前に置いてくださった。

有難く頂こうと手を伸ばして気づく


手が震えている


「……、お母様が召し上がってはいかがでしょう?今日は少し冷えますから」


「そう?そうね、頂くわ。」


不思議がることもなく私の前からカップを取り優雅に飲むお母様の姿にホッと息を吐いてしまう


私、アーグやケルトル様が毒の検査をしてくださっていることに安心していたんですね…

自分では気づかなかったけれど怖いと思っていた。


人の作ったものが

人に差し出されたものが

またあの痛みを、苦しみを齎すのではないかと考えると恐ろしい


「…ごめんなさい、ケルトル様。温かいものを持って来ていただけますか?」


「…はい、お嬢様。少々お待ちください。」


…こんなにも、弱かったの?

私はアーグとケルトル様に甘えてばかりいた?

守られてばかりで私は何も…


なんて情けない。

なんと不甲斐ない。



「アクタルノ令嬢。」



すっと耳に通る子供らしい高い声に俯いていた顔を上げると目に映るサラサラの金色と琥珀色


「第一王子殿下…」


「どうした?」


麗美な顔を僅かに顰めた殿下に私の声が掠れていたことに気づき少し狼狽え、すぐに立て直しいつもの微笑みを浮かべる


「少し緊張が解けて気が緩んでしまいましたの。ご心配ありがとうございます。」


「……護衛はどうしたんだ。」


「え…?あ、温かいお飲み物を頼みましたの。」


そんなことを聞かれるとは思わず僅かに言葉に詰まり、それでも微笑みは崩さなかった。


すると殿下は何を思ったのか、お母様とは逆の私の隣の席へ座られる

驚いて今度は微笑みが崩れて困惑の表情を浮かべてしまう


「初めての公の場なんだろう。一人で居ると面倒なのに囲まれるぞ」


そう言って殿下が僅かに向けた視線の先にはこちらを興味深そうに見ている同年代くらいの子達


…なる程。仲良くなれと親に言われた子達ですね。

私一人ならともかく、第一王子と一緒ならある程度の爵位の子は話しかけづらいと……


「お心遣い、感謝致します。」


「気にするな。陛下に言われたから来ただけだ」


「まあ。では、陛下にも感謝をお伝えしなくてはいけませんね。」


「俺から伝えておく。まだ顔色が悪い、大人しくしていろ」


淡々とした返事をする殿下は私を視界には入れていないけれど、見てくださっている


九歳にしてこれはさぞかし持て囃されるでしょうね

王宮の事は詳しくは知りませんけど今の時点で第一王子を国王にと押す声は多いのでしょう。


気を遣ったのか王族が嫌だからなのかわからないれけど、お母様が席を離れテーブルには殿下と私だけになってしまった。


沈黙はいけないと当たり障りのない話を振る


「殿下は来年から学園に御入学されるのですよね。おめでとうございます。」


「ありがとう」


「学園では魔法、騎士、執事侍女、政治などのコース選択があるとお聴きしているのですれけど、殿下はご存知ですか?」


「あぁ。個々で自由に選択出来るらしい」


「殿下はもう決めていらっしゃいますの?」


「学園に通う事で考えが変わるかもしれないが、今のところは政治コースだな。」


「将来の為にですか?」


「そうだ。王位を継ぐにしろ継がないにしろ、勉学の心得があって損はない。」



真剣な顔で、強い目で、真っ直ぐ前を見据えた言葉を口にする目の前の人がとても、とても綺麗で眩しく思えた。



「私も、将来を見据えて今からでもしなくてはいけませんね。」



護られてばかりの“お嬢様”なんていらない。


力を。知識を。経験を。

貪欲に求めて己の物にして生きていかなければ。



「ありがとうございます、第一王子殿下」


「…何の礼だ。」


「私のこれからの道導をいただきましたの。」


美しいお顔を訝しげになさる殿下にふわっと頬が綻び、それに僅かに瞠目された事に気づかず、戻って来られたケルトル様に微笑みを浮かべた。



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