王族
アッシリア家、サンディア家と挨拶が終わり最後にアクタルノ家が王家への挨拶をする
お父様とお母様の少し後ろに続き深いカーテシーをしてお父様のアクタルノ公爵家からの挨拶を聞く
「オスカー殿下、六歳の誕生日おめでとうございます。並びに国王陛下、王妃様、おめでとうございます。アクタルノ家一同祝させて頂きます。」
「おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
カーテシーのまま祝いを述べると「ありがとう」と簡単な返事だけをした第二王子に王妃様が困った顔をして、丁寧な礼の言葉を下さった。
自分を見てほしいなら自分で自分が素晴らしいのだと証明して見せれば良いものを、親に尻拭いをさせている時点でありえない。
国王陛下や王妃様は必ず貴方を見てくださるのに何を甘えているのだと言ってやりたくなる
そんな事をすれば今度こそ殺されてしまいそうだから言わないけれど。
「こちらは娘から殿下へのプレゼントです。」
お父様の視線に私は一歩前に進みケルトル様から綺麗な包装のされた箱を受け取り、柔らかい微笑みを浮かべて第二王子へ渡した。
「お誕生日おめでとうございます。」
たった一言。
それで終わらした私をお父様の鋭い視線が射抜くけれど変わらない微笑みを浮かべたまま、第二王子からの返事を待つ
「…中身は?」
「王家御用達店のハンカチーフでございます。」
「………あっそ。」
まあ。なんて返事なのかしら。
これにはお父様も眉を顰めて第二王子を見て、またも王妃様が尻拭いのために私へ声をかけてくださった。
「アクタルノ嬢は社交の場は初めてよね?お茶会に出席されたこともないと耳にしているけれど、初めての社交の場が王宮主催は緊張するわよね」
少し焦っていらっしゃるのか少しだけ砕けた口調の王妃様にふわりと自然の笑みが溢れる
「こんなにも大勢の方々の空間は初めてでとても緊張していたのですけれど、皆様が心広く穏やかに見守ってくださって、少し緊張が解れました…」
「そう…。ふふっ アクタルノ嬢はとても可愛らしいから皆の注目の的だけれど、貴方には見守っていると捉えられるのね」
「か、可愛らしいだなんて…。」
本気で照れて頬が熱を持ち咄嗟に俯いてしまう
私が可愛いのはわかっているけれどお世辞でも何でも人に言われるのは慣れなくてとっても嬉しい。
「あらあら、可愛いわねぇ。ねえ、スカーレット様」
「えぇシリス様。とても愛らしいですわ。」
王妃様のシリス様と側室様のスカーレット様に微笑ましそうに見られて顔の熱が上がる
お母様世代の方に褒められるのがこんなにも嬉しいだなんて…駄目ですわ、しっかりしなければ。
「あ、ありがとうございます…」
「…やはり女の子は可愛らしいな。」
少し震えてしまった声に国王陛下までも微笑まし気に言われて目が泳ぐ
何かしら、今日の私はハッピーデーなのですか?
慣れない、ちょっと勘弁してほしいです
「アクタルノ嬢は初めて領地を出たのだろう?王都では満喫しているか?」
「はい、陛下。目に写るもの全てが新鮮でとても楽しかったです。」
「本日のパーティ前までに体調を崩されたと耳にしたけれど、お身体は大丈夫なの?」
「ご心配をありがとうございます、王妃様。…お恥ずかしながら、初めての王都ではしゃいでしまいまして……」
「まあ!可愛いわねぇ」
微笑む陛下と王妃様や側室様の傍ら、第二王子が私を凝視しているのに気づく
お父様は王子に気に入られろと仰られたけどこの方に好かれるより王妃様方とお話をしている方が余程有意義だと思うのですけれど。
そんな事を思いながらも優しく声を掛けてくださる陛下や王妃様に応えていると、誰かの手が私の手に触れた。
ハッとして触れられた手の先を見て驚きに固まってしまう
サラサラと流れる美しい金髪と稀な琥珀色の瞳
造りもののように麗美な容貌は動くのかと思うほどに端正で私が思わず見とれるくらいに綺麗な方
第一王子のリアム殿下が私の手に触れていた。
「………あの…?」
「顔色が悪い。座った方が良いぞ」
「あらやだ!ほんとだわ!気付かなくてごめんなさいね。隅で休んだ方が良いわ」
王妃様がそう言って側室様が給仕の方に温かいものを頼んでくださった。
そんなに顔色悪いのでしょうか、私。心配してくださっているのに平気だと言うのも失礼でしょうし、…申し訳ないですけれど有難く失礼しましょう
「申し訳御座いません、とても楽しい一時を過ごさせていただきました、ありがとうございました。」
「まあまあ、私達もとても楽しかったわ!やっぱり娘も良いわよねぇ!ねえ、スカーレット様」
「はい、シリス様。女の子は可愛いですわ」
「次の話す機会を楽しみにしていよう」
御三方の有難い御言葉に最上級の礼を優雅に、淑やかにして失礼させていただいた。
お父様の「休んでいろ」という一言に小さな返事を返して、私一人では心配だというお母様の逃げの口実になった私は気づいてくださった第一王子に視線を向け、その琥珀色の綺麗な瞳を見つめて微笑み深く礼をする
言葉のない感謝の思いを受け取ってくださったのか第一王子は一つ頷くと初めてその麗美な顔に笑みを浮かべた。
僅かに口角が上がっただけの微笑み
だけれどその微笑みは息を呑む程に綺麗で、とても素敵だと思った。
リアム・ロズワイド殿下
私より三つ年上の九歳の彼
彼だけが私の顔色が悪いと気がついてくれた。
私自身も気づかなかった私を。
それが何故か嬉しくて、悲しかった。




