社交の場
ロズワイド王国の国王陛下は若くして王位継承され、今尚素晴らしい知恵で国を築いている
見事な金髪と金の目をした彫刻のような美しい顔立ちの国王陛下は王の証である豪華なマントを違和感無く身に纏い、王の風格を醸し出す方だった。
その傍らに第二王子の母である金髪に翡翠色の美しい王妃様が寄り添うように歩き、その少し後ろに第一王子の母である赤髪赤目の美しい側室様が続きその後に二人の王子が歩いている
第一王子であるリアム・ロズワイド殿下
サラサラの金髪に珍しい琥珀色の瞳の国王陛下と側室様の美しいお顔が見事に合わさった芸術のような姿で、そのお顔には微笑みも何もなく無表情だけれど堂々と歩いていらっしゃる
そして記憶にある小説のヒーローで私を断罪する人
第二王子であるオスカー・ロズワイド殿下
ふわふわの金髪に王妃様譲りの翡翠色の瞳でお二人をとても可愛しくしたようなお姿で、そのお顔は少し不機嫌そうにしていらっしゃる
その姿だけを見ていれば王位につくに相応しいのは第一王子であるリアム殿下だと思うけれど、王妃様との子供というだけで王位継承権はオスカー殿下が一位だ。
王家の四人が上座に登り玉座に座ると女性はカーテシー、男性はボウアンドスクレイプをする
私も片足を後ろに引き背筋は伸ばしたまま片膝を曲げて少し頭を垂れ完璧なカーテシーをしてみせた。
一歩後ろではケルトル様が騎士の礼をしている
今王家以外に頭を上げている者は一人としていないでしょう
お父様やお母様だってしておられる。
それはそれだけ国王陛下を仕えるべき君主と認めているからこそで、決してその息子が偉いわけではないということを第二王子は理解しておられるのかしら。
「楽にして良い。今日はよく来てくれた。我が次男、オスカーの六歳となる誕生日だ。盛大に祝い、今後とも宜しく頼む。」
「オスカーと同年代のご子息、ご令嬢も来てくださってありがとう。是非楽しんでくださいな。」
国王様と王妃様の御言葉に会場の人々が柔らかい雰囲気で微笑むのを感じて感嘆した。
これ程の信頼と好意を持たれるのにどれほどの実績を積んでこられたのでしょう…
貴族マナーや勉学の講師から陛下方の素晴らしいお話は聞いていたけれど実際にお姿を見るまで信じることも無く特に尊敬はしなかったけれど、今は心から尊敬致します。
オスカー殿下の短い感謝の言葉の後、男爵家から順に王家へご挨拶をしてそのあとにパーティを楽しむのが流れ
アクタルノ公爵家は一番最後らしく、上座から少し離れたところにいた。
「お嬢様、お身体は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます。」
心配性なケルトル様が椅子に座るよう勧めるのをやんわりと断っていると、お父様の元へ赤茶色の髪をした男性と女性、女の子が近付いてきた。
そのちょび髭と髪、そして魔力からしてこの方々は“火を司る侯爵”と呼ばれるレジャール家の皆様ですね。
スラム街に火を放った禁則破りの恥知らず
蔑むけれどそれを表に出すことはなくお父様の少し後ろでいつもの微笑みを浮かべる
「やあ、アクタルノ公爵家の皆様。アクタルノ公爵夫人、お久しぶりですね。相変わらずお美しい。」
「お久しぶりでごさいます、レジャール侯爵。貴方は相変わらずね。」
軽薄そうな当主にお母様が愛想笑いで返し扇子でそっと口元を隠されたのを見てこの人も社交できるのかと驚いていると、視線を感じてそちらへ目を向ければ赤髪の女の子が私を興味深そうに見ていて、ふわっと綺麗に微笑みかけると顔を赤らめた。
やっぱり同い年にも有効ですね、この顔。
「おや、お初にお目にかかるね、愛らしい小さなレディ。病弱と噂の令嬢かな?」
レジャール侯爵の少し嫌味っぽい言い方の挨拶に柔らかく微笑みお父様の隣へ出て、僅かに足を曲げて軽いカーテシーをしてみせる
その姿に目を見開く方数名。目の前のレジャール家の方々は勿論、遠目に見ていた方も、様子を見ていたお父様も。
それにほんの僅か喜びを感じて、それが表情に出たのか息を呑む気配を感じ、六歳の少女が完璧なカーテシーをするのに驚き感心すると同時に見惚れたのだとわかる
この見た目だもの、見惚れない者はいないでしょう
自画自賛ですけれど、客観的に見て私の顔は本当に美を詰め込んだ人形のようですもの。
「お初にお目にかかります、レジャール侯爵家当主様。アクタルノ公爵家が長女、ルーナリアと申します。初めての公の場で“火を司る侯爵”と謳われる侯爵家の皆様にご挨拶をさせて頂けたこと、光栄に思いますわ。」
ふわりと優雅に微笑むと目の前の侯爵当主は少しの間のあと、ハッとしたようにぎこちない笑顔を浮かべた。
「驚いたよ、娘と同い年なのにカーテシーも挨拶もとてもしっかりしているね。」
「まあ。初めての社交の場で緊張していたのですけれど、ホッと致しました…」
頬に手を当て僅かに俯きはにかむように言えば周りの大人達は微笑ましいものを見る目で私を見る
たったこれだけでこんなに好印象を抱かれるとは思いませんでしたわ…
侯爵がお父様の相手になると、今度は赤い髪を巻いてポニーテールにした勝気そうな少女が私の前に来られた。
「あたくし、トレッサ・レジャールと言いますの。レジャール侯爵家の長女ですわ!」
ふふん、と腰に手を当て言うその姿は子供らしいけれど、この場では少し良くないもの
大人達が赤髪の少女から私へ視線を移し見極める、と言うよりも確信を持った目で見てくる
お前はできるだろう、と。
ええ、私はできますよ。
認められるために頑張ってきましたもの。
「初めまして、レジャール侯爵令嬢。私はアクタルノ公爵家が長女、ルーナリアと申します。以後よしなに。」
完璧な言葉。完璧なお辞儀。完璧な表情。
その全てに私に注目していた者達が感嘆するのを肌で感じた。
けれど私が一番に望む人は見てくれない。
そんな事はもう期待していないけれど。
目の前の少女がほうっと私に見惚れているのに気づき、ふわっと柔らかく微笑む
「レジャール侯爵令嬢とは同じ年ですの。」
「えっ、ええ知ってるわ!お茶会で噂になっているもの!病弱な引きこもりの公爵令嬢って!」
その言葉に後ろに控えていたケルトル様が僅かにピリッとした雰囲気になったのに気づき、素敵な護衛だと思った。
まぁケルトル様だけでなく周りの聴いていた者は不躾だと不愉快そうに赤髪の少女を見ているから特に気にすることではない。
「お恥ずかしながら、レジャール侯爵令嬢の仰る通り私は領地から出たことがなくて…。お茶会にも出席したことがありませんの。ですから今回の第二王子様の誕生日パーティに出席できたことがとても嬉しいのです。」
嬉しいなんて1ミリも思っていませんけど。
なんて思いは一切表に出さずに花が咲くような可憐な笑みを浮かべている
そんな私を微笑ましいと見ている大人達に掴みは上々だと感じてこれならお父様に小言は言われないだろうと一先ず安心した。
「そっそう!ならせいぜい楽しむことね!」
「えぇ、ありがとうございます。」
終始上からなレジャール侯爵家の皆様は少し逃げるように王家へ挨拶をしに向かった。
侯爵家の次は三大公爵家
“水を司る公爵”アクタルノ家
“土を司る公爵”アッシリア家
“風を司る公爵”サンディア家
現在は三大公爵と呼ばれているけれど本来ならば、四大公爵家なのだ。
“火を司る公爵”レジャール家
しかし数代前のレジャール家当主の不正や横領、詐欺紛いの悪事により侯爵へと成り下がった。
爵位があるだけマシなのだけれどその屈辱は今尚レジャール家に強く残っているのだそう
『我等は公爵だ』と宣う輩もいるという
馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばせぬ程の実力を持つこの国で厄介な家の一つである。
王家に素晴らしい狸笑顔で挨拶をしているレジャール侯爵に侮蔑の目を向けないよう、ぼーっとキラキラと光る美しいシャンデリアを見ていた。
誤字報告ありがとうございます。
感想ありがとうございます
とても嬉しかったです☺




