パーティ
第二王子様誕生パーティ当日。
私は予想通り侍女に磨かれて少しげっそりとしたけれどそれを表に出すことはせず、いつもの微笑みを浮かべていた。
身に纏うミントグリーン色の生地で作られたドレスは見事でそれだけで少し私の気分は上がる
足首が見える丈のチュールの下にパニエでふんわりと広がるスカートには花が散りばめられ、腰の後ろに大きめのリボンがつけられていて、トップスはレースが重ね付けられ、肘辺りまでのチュールの袖がひらひらと舞って可愛い
髪もこの時は侍女がしてくれて、腰まで伸びたウェーブのある艷やかな銀髪はアレンジされたハーフアップにされ、小花やパールが飾られた。
首に付けられた白のレースチョーカーも、パールのイヤリングもとても可愛くて、私は大満足。
流石にお化粧はしないけれど唇にはグロスをつけられた。
やっぱりこの可愛い容姿に似合わない物はない!!
珍しくアーグも驚いた顔をして「似合ってる」と褒めてくれたし、ケルトル様は顔を真っ赤にして私が驚くほど可愛いと褒めてくださった。
可愛いと自覚していても人に褒められるのはやっぱり嬉しくて、照れて微笑むとアーグに何故か心配されてケルトル様に頑張れとまたも珍しく力強く言っていた。
今回のパーティにアーグを連れて行くことは許されず、ケルトル様だけが私の従者、護衛として付いてくれる
元からお父様がお許しになられるとは思っていなかったし、アーグを連れて行く気はなかったけれど…
私やケルトル様が居ない間、絶対に殺されないように約束して逃げ回るように言った。
屋敷の者が私とアーグに良い感情は持って無い。
私に対しては出来ないからその矛先はアーグへ向かうとわかっているから、約束をした。
『私が帰るまで生きていること』
絶対に死んではならないと誓わせた。
王城へ向かう馬車に乗る別れ際、大きくしっかりとしてきたアーグをギュッと抱き締めて祈る
無事にまた会えますように。
馬車の中では静かに外を眺める私は久しぶりに顔を合わせたお母様とお父様と会話をすることなく沈黙していた。
紫色のドレスで着飾ったお母様は初めて綺麗だと見惚れたけれど、私を見て嫌そうな顔をしたのを見て一瞬で冷めていった。
倒れた事も知っているはずなのに身体の調子はどうかとも口だけでも言わない姿にまた私のナカで何かが壊れていく
どれだけ壊れるのかしら、私のナカは。
「ルーナリア。」
「はい、お父様。」
名前を呼ぶお父様を振り返れば私を横目で見て眉を顰めたかと思えば、
「殿下への対応、期待している。」
そんなことを言う。
期待?お父様が?私に?
……………ソレ、なんて冗談かしら。
冷えていく身体と頭に拘わらず私の顔はいつもの微笑みを浮かべていて、それに満足したのかお父様は私から目を外した。
何なのかしら、この両親は。
前世の記憶なんてほぼ覚えていないけれどこの人達よりは愛してくれてたはず………わからないけど。
溜息をつくことも出来ず、私はいつもの緩いふわふわとした表情で窓の外に視線を戻した。
ロズワイド王国王城は百年以上の歴史も持つ国の象徴であり、とても立派なものだ。
王都に着いたときに遠目で見た時も大きいと驚いたけれど近くで見れば更に広く大きく、馬車は王城の門を超えて城へ向かう
石畳を囲う花壇や木が美しく育てられていて馬車に乗って初めて心が安らいだ。
馬車が停まり扉が開いてお父様が降りてお母様の手を取り降ろした後、私へ手を向けることなく城の案内人へ顔を向けた。
落胆することはないけれど、少し高いこの馬車を降りれるかが不安。乗るときはアーグとケルトル様のお二人が両手で支えてくださったから…
意を決してドレスを軽く摘み脚を踏み出そうとすると、その前に私の身体が浮いた。
驚きながら見上げると少し困った表情のケルトル様の顔が近くにあって、足が地に着いたと同時にお礼を言う
「ありがとうございます、ケルトル様。」
「いえ。…公爵は中に?」
「ええ、先に行かれましたの。」
微笑む私に優しいケルトル様は悲しい顔をしていて思わず微笑ってしまった。
本当に優しい人ですねぇ
「エスコートしてくださる?」
「っ…、喜んで。」
少し慣れない手つきで掌を私へ向けるケルトル様にくすくすと微笑って、私よりも大きな手にそっと手を置いた。
慣れていない馬車に疲れやすくなった私の身体は思いの外疲れていたのか、少し息切れをしてしまう
それに気づいたケルトル様が休める所を探すと仰ってくれたけれど、
「もう時間だ、休む暇はない。それと殿下へのプレゼントは王族御用達店のハンカチーフだ。……わかっているな。」
「わかっていますわ、お父様。」
お父様の言葉に逆らえるわけもなく、申し訳なさそうに眉を寄せて私を気遣ってくれる
ケルトル様が悪いわけではないのに、どうしてそんな顔をなさるのか…本当に優しい人。
10代前半の男の子がこんなに紳士的なのにこの父親と言ったら…自分が私をこんな身体にしたくせに嫌な人ねぇ
ゆっくりと呼吸をしてなるべくゆったりと歩き息切れもしなくなってきた頃、会場へと着いた。
なんて広いのかしら…ちょっと勘弁してほしい。
きらびやかな輝く壁の飾りや会場の広間を照らす豪奢なシャンデリアに内心引いてしまう
最近は質素な物しか目にしていなかったからかしら
そんなことを考えていると会場の扉前に立つ方が高らかに声を上げる
「アクタルノ公爵当主様、並びに公爵夫人様、御息女様、御到着致しました。」
あらぁ、聞き取りやすい良い声ねぇと思いながら会場内へ向かったお父様の後をケルトル様にエスコートしてもらいながらいつもの緩いふわふわの表情で続いた。
会場内の視線を一気に浴びてエスコートしてくださっている手が少し強張るのを感じて自然に見えるようにふらっとよろけてみると、瞬時に肩と腕に手を回して支えて下さったケルトル様に柔らかい微笑みを浮かべてお礼を言うと私の意図がわかったのか、少しだけ申し訳なさそうな表情をした後、いつものように笑ってくださった。
「護衛として立派ですよ、ケルトル」
「…っありがとうございます、ルーナリアお嬢様」
心底嬉しそうに笑うケルトル様に微笑み返し、私はお父様とお母様の後を追った。




