式典衣装
とてつもなくお久しぶりです。
「申し訳ございませんルーナリア様直々に足を運んで頂くなんて…!お身体は大丈夫ですか!?」
「御心配ありがとう、セリーナさん」
微笑みを浮かべて言えば頬を真っ赤に染める可愛らしい反応を頂いて嬉しくなる。
王宮服飾師であるセリーナ・タンセットさん
タンセット伯爵家の長女であるこの方は幼少の頃から一方的に知っている。
茶会などでお見かけする度に一番最初に目が止まるドレスを着ていた方だった。
いつもふらふら移動して色んな方とお話をなさっている方で、私もお話をしたことはあるけれど長く話したことは一度もない。
きっと他の方もそうなのでしょうが、どことなく掴めないという印象だった。
この前までは。
「ルーナリア様には白も良いとは思うのですがやっぱり白一色ならば結婚式の時だけにしたいと思うのです貴方に染まりますみたいに白一色の中に相手の色だけを入れるというアイデアが滾りまくった結果やっぱりそれでいきたいと皆と話をしましてそうすると今回の色に白を使いたいとの事でしたから白は白でも何色通りもありますのでどの色になさるかと御相談させて頂きたくお時間を頂きましたが御希望のお色は御座いますでしょうか此方に見本の布を御用意しておりますので是非手にとって頂いて――」
「――セリーナさん」
どこで息をしているのかと不思議なくらいの勢いがピタ、と止まり気が静まるのを待ちセリーナさんが深く息を吸うのを見て微笑む。
「では、式典はリアム様と揃いの物をお願いしても宜しいかしら」
「即決されてましたね!」
とても良い笑顔で言うセリーナさんの後ろでメモを取っている方々も思い出したのか頬を赤らめて私を見ていて何とも居た堪れない。
式典の取り決めの際、リアム殿下は衣装に関してただ一言「ルーナリアの色を入れてほしい」とだけ要求があったらしく、王城の女性が賑わっていたとオリヴィアから耳にした。
王城内、しいては貴族内でも、頓着がない関心がないと影で言われているリアム殿下の初めての意思表示
嬉しくもあり、気恥ずかしくもあった。
「ではそのようにさせて頂きますね!あぁ、これもドレスに合わせたいと思ってはいるのですが髪飾りをいくつかご用意致しましたのでご覧いただけますか?」
「えぇ勿論よ。ふふっ、着飾るのはとっても好きなの、見るのが楽しみねぇ」
「ルーナリア様はどんなものもお似合いになりますから選ぶのが大変で大変で幸せでしたわ!」
とても生き生きとした笑顔で言ってくれるセリーナさんと満面の笑みで複数の髪飾りを並べてくれる服飾師の皆さんに嬉しくなる。
側に控えるオリヴィアも柔らかい表情で並べられていく髪飾りを物色していた。
レースをふんだんに使い花を作ったもの
美しい宝石をまばらに嵌め込んだバレッタ
手触りの良い絹で作られた大きなリボン
他にもたくさんの美しく可愛らしいものばかりで全てに目がいってしまう
「素敵ねぇ」
「王国内に問わず腕のいい商会から集めたものにございます。一点物の作品ばかりで、特に私がオススメしたいものがございまして」
セリーナさんがそう言いながら私に手渡されたのは水色の蝶が彫られた白い箱だった。
「まぁ…とても美しいわぁ」
「この商会は出来て間もないのですがとても良い腕の者がいるようで、品も箱にも全てに妥協がなくとても凝っていて注目度の高い商会ですの」
「箱がここまで美しいと髪飾りはいったいどれほどのものかしら」
期待を胸に青い箱をそっとあけて息を呑んだ。
「ラナンキュラス…」
ヘッドドレスに銀細工で創られた幾つものラナンキュラスはあまりに美しく、僅かに散りばめられた色とりどりの小さな宝石
華美なはずのラナンキュラスは繊細に造られていて触れれば壊れてしまいそうなほどに美しい
そして散りばめられた宝石の色は全てラナンキュラスの花言葉に合わせてつけられているようだった。
「これを作った職人の方は?」
「リカというまだ若い女性の服飾師ですよ」
その名に胸が大きく高鳴った。
側にいたオリヴィアが私の顔を見て破顔させたのを視界の端で捉えたけれど、今どんな顔をしているのかしら。
「リカという服飾師はとても腕が良いわねぇ」
「ええ、他の作品も拝見したのですがどれも一等級でして王宮の服飾師にとお声掛けをしたほどですのよ!」
「えぇ、その価値がある腕だわぁ」
髪飾りから目が離せなくて、手からも離し難い。
「兄妹で商会を切り盛りしている根性のある若手なのです。是非ルーナリア様もお時間がございましたら商会へお声掛けなさってはと紹介した次第なのですが…お気に召されたようですね」
「もうこれ以外に目が行かない程には惚れてしまったわぁ」
そう言って顔を上げるとセリーナさんは嬉々とした様子で他の髪飾りを仕舞うよう指示を出した。
「ありがとう、とても気に入ったとお伝えくださるかしら。時間が空き次第お会いしたいとも」
「勿論です、必ずお伝えしますわ!」
あぁ、とっても嬉しい。
こんなに幸せが続くなんてと不安になるくらいだ
手元で輝く髪飾りを撫で溢れる笑みはしばらく続いていた。




