式典準備
「あの文官引き込むかァ?」
リアム殿下の執務室でのやり取りを外から聞いていたアーグの問には緩く首を振る。
「あの方の処遇は先程言ったことだけねぇ。無断は駄目って言う事と、ちょっと恩を売っておこうと思って」
平民初の王城勤務の文官
勿論それをよく思わない貴族の者達は除け者扱いをするし、ほんの少しの労働を押し付けたりしている。
今は大丈夫でも、それが積み重なれば?
バレないくらいの少しが取り返しのつかないことになってしまったら、なんて考えもしない無能より優秀な方を取る。
「リアム様も大変だわぁ」
「使えねェのばっか侍らしてっからだろ」
「古い考えをお持ちの方々の嫌がらせねぇ」
王太子がリアム様に決まってからも正妃の子ではないからと頭の固い老害達の嫌がらせがたまにある。
実力で勝ち取った王太子の座なのに、鬱陶しい。
無駄に権力を持つ無能な人間ほど厄介で面倒で、鬱陶しいものはない。
「それで実務が滞って及ぶ被害を考えない能無しばかりで嫌になるわぁ」
「王宮で物騒な発言したら怒られんぞ」
そう言いながらも顔は笑っているアーグも同意見なのだろう。
ただ私自身に害が及んでいないから行動に移すという考えにならないだけで、私が頼めば夜にさくっとしてきてくれそうでもある。させないけれど。
「ルーナリア様!」
少し大きな声で名前を呼ばれて振り返ると侍女服姿のアイサさんが急ぎ足で向って来た。
「動き回れるほど元気になられたのは喜ばしい事ですがもう少し安静になさってくださいませ」
「ふふっ、ごめんなさい。リアム様の所に用があったの。もう部屋に戻ろうと思っていたのだけど、何かありましたの?」
「来月の式典に使われる衣装の事で急ぎ御相談したいと担当の者が言っておりますが如何なされますか?」
国民と周辺国に私が正式に王太子妃に任することを知らせる式典を急遽来月にすることになったのは、リアム様だけでなく陛下に王妃殿下、お義母様、宰相閣下の催促に根負けした結果だ。
事件の前に報せを出す筈が、状況が状況なだけに流されていき、私が目覚めたのならすぐにでも、と言うことらしい。
アーグやオリヴィアが言うには逃さないためらしいけれど、当の本人が心の底から喜んでいるのだから問題はない。
「お会いするわぁ。私が行った方が早いでしょうし、今から向かいます」
「え!?え、っと、まあ、でもそうですね、ルーナリア様が大丈夫でしたらお願い致します。私は先に知らせに行きますので失礼致します」
優雅に頭を下げたあと、またも急ぎ足で去るアイサさんはとても忙しそう。
優秀な方だから上の方々があちこちで欲しがっているとか。私も挙手したいほどだけれど、政治方面にも強いアイサさんはリアム様に付いてほしいと思っている。
「優秀な方がもっと増えれば良いのねぇ」
「増やせばいーだろ」
欠伸しながらどうでも良さそうに言うアーグにそれもそうと微笑いながらゆっくりと歩き出した。




