報告
アーグに休暇を与えたその日の内にセスが私に報告に来てくれた。
本当に良くやったと感謝を述べたあと、セスの提案に心底安堵して受け入れる。
「セスがそうしたいのなら勿論よ。あの家はまだ私の私有地だもの、好きに使って良いわぁ」
「ありがとうございます」
フランさんや子供達との思い出のある家で住んで見ることや、長期休暇中の影のまとめ役の事など一通り話をしてまた話を戻した。
だって気になるんですもの。
「お名前は変えないのかしら」
「そう、ですね。自分の名前は認識しているようなので変えるつもりはないです」
「ふふっそうよねぇ、三歳ならおしゃべりしてるわよねぇ、可愛いわぁ」
出会った頃のメグが四歳になったばかりだったから、それより幼いなんて可愛いどころじゃない。
会ってみたいけれど外出する許可を与えてはくれないでしょうし、流石に王城には呼べない。
そもそもまだ会ったこともない小さな子供を呼び付けてどうするというのか
こちらから会いに行って遊んでお話して仲良くなる以外に接触方法はないと思う。
「…思ってた以上に喜ばれてて少し驚いてます」
「セスはきっと今後あの子が良からぬ輩に使われないかと心配と予防でのこの選択をしたのでしょう?」
サーナが産んだ子はアクタルノ家にねじ込めるようにと水属性の強い力を持つ人との間に出来た子だ。
父親も判明している。
銀髪にサファイアの瞳を持つ水属性の家系なんて一目瞭然だもの。
その貴族があの子の存在を知って引き取るとして。
そこで子供に降り掛かるのは良くないものだとわかりきっている。
引き取らないとしてもひと目でわかるその家の色に周りを気にして排除しないとも限らない。
その家が関わって来なかったとして。
後ろ盾のない強い力を持つ三歳児なんて大人からすればどうとでもできるものだ。
周りの環境がその子の人生を良い方にも悪い方にも道を与えてしまう
今回の事件もそう言ったものが絡んでいた。
幼少期に強い力を制御出来ず貴族に売られた人や孤児院に置いて行かれた人、突然攫われた人
そういった子供が騎士団で裏切り者として切り捨てられた人達の過去だった。
どれほど悔やんだか
どれほど怒りを覚えたか
防げたはずで、守れていたはずで。
だから守りたい。
「それもありますし、境遇が近いってのも理由の一つ、かと思います」
「あら、はっきりしない物言いねぇ」
「昔約束をしたんですよ、自分から悪いことはしない、って子供にするような約束を」
「セスの大切な人とかしら」
目を瞠ったセスに微笑む
「忘れないわ、貴方が話してくれた事だもの」
「そういう人だよ、お嬢は」
久しぶりに砕けた言い方をしたセスに微笑って続きを促すと少し照れたように目を背けてボソッと言う
「自分から良いことをしてみようかと思って」
「そう、ならその第一歩ね?」
初めて出会った頃の死んだような顔をした暗殺者の姿は見えず、表情を、感情を、考えを教えてくれることがとても嬉しい。
生まれてから誰かに守られてこなかったセスが、それでも誰かを守ろうとする優しさに胸が暖かくなる。
「私も早く元気になって会いに行くわぁ」
「無理しない程度にお願いします」
「ふふっ、たくさん作ってあげたいものがあるの。そうだわ、その子のサイズは?髪の長さはどれくらいなの?髪飾りとかまだ早いかしら?飾り紐くらいなら遊ぶのに邪魔にならない?」
「あー、まぁ、追々連絡します」
セスはそのままアーグやオリヴィア、他の影たちに挨拶をしてから研究院で保護されているあの子を迎えに行ってそのままアクタルノ領地へ向かうようだ。
この一年時間を作って会いに行っていた間に仲を深めていたみたい。
「じゃあ、また近い内に」
「ええ。道中気を付けて」
緩く手を振ると目を和らげて応じたセスは瞬きの間に姿を消していて、そういうところを幼い子どもに見せたら大盛り上がりじゃないかと考えて一人で笑ってしまった。




