僕の夢
ケルトル視点
ルーナリア様が眠っていた一年間は大きな感情とともに記憶に残った。
鮮明に浮かぶルーナリア様の血の気のない顔
日に日に荒んでいく弟みたいな友達
無理を重ねる尊敬している年下の御方
窶れながら微笑う仲の良い少し変わった同志
ルーナリア様の快気を望み祈りながら、今までで最も長い一年を過ごした。
そうして目覚めてくださったルーナリア様は今日も―――
「動いてはいけませんとお医者様に言われたでしょう、お嬢様」
「うふふ。ごめんなさい、オリヴィア」
たおやかに微笑み侍女の注意を流している。
陽射しの温かい昼過ぎにルーナリア様お気に入りの庭園で散歩をすること約十五分、今まで以上に過保護が増したオリヴィアがストップをかけた。
リハビリも兼ねての散歩だが、先日散歩途中に躓いて膝を擦りむく事件が発生し、全員が厳戒態勢になっている。
当の本人はにこにこ微笑っていらっしゃるけども。
「一昨日と昨日と今日と、アーグくんが休暇中に限って動かれるの心配ですお嬢様」
「まあ。だからこそよ、オリヴィア。アーグがいたら無理矢理止められちゃうもの」
頬に手を当て朗らかに言うルーナリア様に返す言葉が出てこない。
暗にオリヴィアや僕では言う事聞かないと仰られているのだ。正直落ち込む。
「ふふふっ、お二人とも私にはとても甘いもの」
そう微笑うルーナリア様に今度こそ言葉を無くす
解っていながらそういうことをする、言う。
それがルーナリア様の一種の甘えだと解ってしまってからはもう僕も駄目だった。
「…あと五分だけですよ」
「あら本当?私あちらのエリアまで行きたいわぁ」
楽しそうに指を指すルーナリア様の後を付きながら、後ろの護衛が二人静かに下がったのを確認し周囲の様子を魔力感知で探れば不自然な離れ方をする魔力を感じた。
ルーナリア様が目覚めてから何度も送られる貴族、商人、裏社会、他国、あらゆるところからの刺客。
全く持って不愉快極まりないが、程度の知れている相手に梃子摺る実力の者はルーナリア様の近くに付けていない。
あの事件から一掃された騎士団は人数は減ったものの実力ある者は多く残り、上下関係、貴族平民の隔て、蟠りのあったものが団結され今まで以上に関係は良好だ。
僕自身実績と実力、推薦から王族身辺の護衛をする近衛隊の一隊を受け持つことが出来た。
普段なら王太子であるリアム殿下に付いているが、近衛隊は王族を守る部隊であり、次期王太子妃であり既に城に居しているルーナリア様も護衛対象だ。
そのルーナリア様の護衛騎士筆頭のアーグが数日休暇を取らされた為に僕の部隊が遣わされた。本当に光栄な事だと思う。
そんな時にルーナリア様のお身体や心情に何かあっては僕の問題であり、責任であり、僕の心情に反する。
敵は全員生かして捕らえることを義務付けているのは一回目の時点で終わらせるためだ。
またあの惨事が起きないように確実に。
「部屋に戻りましょうか」
そのルーナリア様の言葉が此方を気遣う為の言葉だと解るから、僕はつい笑ってしまう。
本当にこの方はずっと優しい人だ。
「必ずお守り致しますので御心配には及びません、ルーナリア様。あのエリアはあと少しで見頃が終わるそうなので行きたい時に行きましょう」
「わたしとしては戻ってくださるなら今すぐ抱えて戻りますよ、お嬢様」
柔らかく微笑んでいる同志はきっとルーナリア様が言いやすい様にそう言っているだけのようで。
そしてそれを解りながらルーナリア様は嬉しそうに、少しだけ恥ずかしそうに微笑って足を進められる。
「またオリヴィアに抱えてもらうの申し訳ないわぁ」
「そんな事言わないでくださいよぉ!わたしはいつでもお嬢様に合法的に触れるの大歓迎です!!いつでもどんなときでもどんなところでだって準備は出来てますよ!!?」
「お止めなさいな」
たまに僕は身近な人ほど捕まえなければならない気がしている。
それでもそんな僕の生活が、あの頃を生きた僕の夢を描いているようで胸を弾ませ続けている。
「ケルトル、数日オリヴィアを騎士団で預かって下さらないかしら」
「そんな…ッお嬢様!!」
「側付きを数人探してからで宜しいですか」
「同志、わたしを捕らえられると思ってるんですか?わたしこれでもアーグくん仕込みですよ?」
「大丈夫。ルーナリア様には君同様に力を持つ人を付けるよ」
「えっ少しも安心できませんけど!!!??」
「ふふっ、」
声を上げ目を細めて笑う姿に、今日も僕は自分の誓いを再度胸に灯す




