再会
「ルーナリアさまぁあああああぁっ!!!」
目が覚めてから一週間ほどが経ち、以前のような日常生活を送れるようにリハビリを始めた私の元に元気な方が会いに来てくださった。
大きな声で私の名前を叫んだ彼女はボロボロと涙を流して脇目もふらず全速力で走ってやって来る。
場所を庭園にしておいて良かったかもしれない。
室内であれほどの大声、きっと頭がくらくらしてしまう
想像して笑っていると目の前の彼女が腕を広げて飛び込んで来る―――
「――へぶぅっ」
「止めろバカか、お嬢殺す気かテメェ」
その前に立ちはだかったアーグに顔を鷲掴みにされて強制的に止まった。
「あらあら、女性の顔を掴むのは良くないわぁ」
「びゅらりらたまぁあ…ッ!!!」
「誰かしらその方」
鷲掴みにされたまま涙を流して叫ぶから、色々なものがついたアーグが顔を顰めてオリヴィアに擦り付けて足を踏まれているのを横目に、今度は優しく飛び込んできたフィオナさんを受け止める。
「ぅうゔうゔうっ」
「まぁ…動物のような唸り声ねぇ」
「お、起きないからッ!!おきっ…ッ、ず…ッ、ずっどぉっおぎないがらぁあ!!!うゔぅッ、ばがぁあっ」
話す内に昂ぶったのか、まるで幼子みたいに泣き叫ぶフィオナさんの頭を撫でながら背中をぽんぽんと軽く叩く
全て聞いている。
瀕死の私に、目覚めない私に、彼女がずっと治癒魔法をしてくれていたこと。
そして身体の傷は完治したのに目覚めない私に治癒魔法をし続けるのは良くないとされてから、ロズワイド王国を周り無償の治療をしていたのだと聞いた。
それが全て自分の意志からだと聞いてどれほど胸を打たれたか
「フィオナさん、会えてとても、とっても嬉しいわぁ」
腕の中、私を見上げた彼女の深い水色がまたうるうると滲み、崩壊したような涙を流した。
「びゅらりらたまぁあああぁっ!!!!」
「ふふ、誰かしらその方」
未だに泣いている彼女を抱きしめて言わなければ行けない言葉を紡ぐ
「ありがとう、助けてくれて」
そんな私の言葉に、まるで花が咲いたように笑顔をみせた彼女に私も笑顔が溢れた。
落ち着いたフィオナさんが隣に椅子を置いてにこにこにこにこと報告をしてくれる。
「なるほど。それで各領の調査を?」
「そーなんですよ!王太子殿下の指示なんですけどあの人いっつも、いーっつも!怖い顔してて!」
「あらぁ」
「会うの怖いから報告は全部オスカー様に丸投げしてるんですよー」
「あらあら」
素直な感想を教えてくれるフィオナさんは楽しそうだけれど、背後の人に気が付いて失神しないかしら…
「正直者だね、フィオナ」
「あっ!オスカー様来た、ん、です、ネ……え?」
振り向いたフィオナさんの視線の先、翡翠の瞳と琥珀の瞳を持つ二人の王子が対象的に立っていた。
翡翠の彼は随分と面白そうに笑みを浮かべ、
琥珀の彼は無表情で見下ろしている。
「あ、ぁ、あぁ…あ、」
「フィオナさん、人の言葉をお喋りになって」
目を見開いて二人の殿下、主に琥珀の彼を見るフィオナさんは言葉を失くしてただ一音だけを繰り返している。
それがとても面白くて思わず笑ってしまった。
そんな私を見て無表情だった彼が表情を和らげ、私の頬に小さなリップ音をのせて唇を落とす
そのお返しにと顔を上げると待ち構えていたかのように彼の頬がすぐそこにあって、それが可愛くてくすくす笑いながら頬に唇を強めに当ててリップ音を鳴らした。
以前恥ずかしくて当たらないギリギリで終わらした時に散々な目にあってから彼より強めにしている。
そんな私のお返しに満足したのか、離れる寸前に今度は額に落とされた唇に照れてしまう。
「……人の目気にしようよ…」
「言ってやるなよ…お互いやっと会えた感じだろうし」
そんな会話を耳にしながらも、満更でもない私は何も言えずにいた。




