その裏に
遅くなってしまい本当にすみません!
ケルトル視点
王城の奇襲。王都の火災。
最悪と言える事態が襲い掛かり、その事件で本性を顕にした者達の顔に胸を踏み潰されたような気がした。
情けなさ。
悔しさ。
悲しさ。
虚しさ。
それを上回るあらゆる事に対しての怒り。
頭を掻きむしりたくなる歯痒さを凌げたのはするべき事が明確であったこと。
自分が守るべき方達が自分より、誰よりも一番早く行動されていたこと。
そんな御姿に感化された僕を含む騎士たちは全力を尽くした。
だけど、結局守るべきものを守れていない。
「離せっつってんだろが」
「離すにはまだ殺気立ちすぎだ」
こちらを睨みつけるアーグの目は血走っているようで、酷く淀んで見えた。
今までもルーナリア様が危機的状況に陥ってしまった事はあるだろう。
けれど今回は重傷を超えた状態だ。
まだ会話が出来るだけアーグはマシかもしれない。
それさえなくなってしまったら、と考えてやめた。
自分の先、いつもより早い歩幅で歩いて行くリアム殿下は肌がひりつくような空気を出されている。
首を絞められても未だに狂ったように笑い、妄言を叫び続けているアクタルノ公爵家の元侍女。
まだ幼かった僕の記憶にいるこの人はいつも穏やかに、常にルーナリア様の傍らにいた。
はずなのに、牢屋のような部屋も、ルーナリア様の身体も心も、水のように流れて消えてしまいそうな孤独さも全てそのままだった。
あの頃はただルーナリア様のことを嘆いて、当然傍にいる貴女も嘆いているのだと思っていた。
幼さ故大人の裏を見ず、自分の見たいように見ていた。
それが、この様だ。
「アハッ、アハハッ、アハハハッ!!!」
狂い笑う姿を見て此方が狂いそうになる。
アーグの脚が犯罪者に当たりそうなのを見そうになって、すぐに視界から離す。
見たら止めなければならないから、見なければいい。
気づいていないふりをするそんな自分にも心底反吐が出そうだ。
「たかが小蝿だ」
耳を塞ぎたくなる狂った笑いが響く中、この言葉はやけに大きく聞こえた。
僕達より先で歩みを止めた殿下が此方を振り向いて、
「ッ――、」
僕もアーグも剣に手をかけたのは防衛本能だったと思う
護るべき主君だが、その異常なまでの威圧に身体が勝手に反応しただけ。
「そう思って放置していたのを後悔している」
いつもの無表情なはずなのに、琥珀の瞳が異常なほど狂気を孕んでいるようで肌が粟立つ
その目を一心に向けられている当人は反乱狂になり狂い叫んでいる。
「たかが蝿でも気付いた時点で殺すべきだった」
そう言葉にする殿下の表情は変わらないのに、雰囲気や目の様子が正常とは言えないものだと感じた。
これは、駄目な方向に進んでしまうのではないか
ルーナリア様の危険な状況にアーグだけでなく、この方も狂われてしまったのだろうか
あり得なくはない最悪の状況に冷や汗が止まらない。
「後付などどうとでもなる」
その一言に含まれる意味がわからないほど僕も鈍くはないつもりだ。
きっとルーナリア様は困った顔で何も言わないだろう
心の内は何もわからないまま、隠されてしまうだろう
昔は心配して何かできないかと藻掻いていたけど、今はもう安心して任せられる人がいる。
裏で何をしていようと、どれだけ黒い事をやっていようと、この方がルーナリア様の為にならないことをするはずがない。
そんな信頼を僕も、横にいる苦労性の弟分も抱いてる。
だから口裏合わせも証拠収集もなんだってする。
今度こそルーナリア様を守れるように僕はこの方についていくと決めたんだ。




