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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
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140/153

悲劇

寒波と各地大雪、皆様お気を付けて。


リノ視点



ルーナリアさん達から離れて先輩を探しながら騒いでいる人を見ると、若い男性が騎士相手に怒鳴っている。


周りの人は遠巻きにしていて関わらないようにしている様子からして暴動が起こる心配もないし、すぐに収まるだろうと考えた。


悲鳴が聞こえるまではそう、思ってしまっていた。



「きゃああああああああッ!!!」


急に上がった悲鳴に慌てて声の主を探して言葉を失くす



違う、リメリナさんの悲鳴だけど、違う、待って、



目にした光景に頭が回らない。



地面に倒れているいつも綺麗な頼もしい人。


可愛くて優しい、あたしの可愛い後輩



「ルーナリアさん…?」



淡い黄色のドレスが床に広がり、赤い色がじわじわと広がっているのがわかった。



「お嬢様ッ!!!!!!」


あたしより離れていたはずのオリヴィア先輩がルーナリアさんに駆け寄るのを見て息が吸えた。


固まってる場合じゃない!!


「リメリナちゃんその女捕まえられる!?」


「っはい!!」


リメリナちゃんが魔法を放つのに合わせて走り出しながら、ルーナリアさんの近くにいる刃物を持った女に火の魔法を放つ


それを軽々と避けた女に続けて放とうとして、ルーナリアさんと止血をしているノアンさんにあたりかねなくて強い魔法を繰り出せない。


しかも、それをわかってるあの女…ッ!!



「サーナァッ!貴女だけは絶対許さないッ!!!」


オリヴィア先輩の血反吐を吐くような強い声に身体が強張りそうになる。


ルーナリアさんが関わらなければいつも穏やかでニコニコと和やかな先輩からは想像もつかない怒りを孕んだ声


犯人の事を知っているみたいだし、一体何が…



「っ、ルーナリア様!!」


そんな思考は一旦止めて滑り込むようにルーナリアさんとノアンさんの元に辿り着けた。


近くで見てその出血の量に血の気が引く


「止血は出来てる!?」


「押さえてはいるのですが…ッ!」


顔を歪めるノアンさんの様子にルーナリアさんの容態が良くないことは理解した。


神官や医師でもないあたしでもこの出血量が尋常ではないことはわかる。


だからこそ、怖い。


今のルーナリアさんは魔力がほとんど残っていない状態

身体の弱いルーナリアさんが今まで病気になっても保っていられたのは多分、所持する魔力量が尋常ではないから。


それがない今、ルーナリアさんは耐えられるのか



「ルーナリアさん!大丈夫!?しっかりして!」


「ルーナリア様ッ、」


あたしとノアンさんで必死に呼び掛けてもルーナリアさんは意識を失ったまま微かな動きすら見せてくれない。


美しい顔が物言わず青白く染まっていく光景に泣きたくなって、縋るような声が出てしまう。


「おきて、ルーナリアさん…!」


力なく下に投げ出された華奢な白い手を取り握る。



お願い、お願い、お願い、お願い、お願い



ルーナリアさんがいないと、駄目になっちゃう人がいっぱいいるんだよ


ルーナリアさんにしか止められないし、止めないとあの女だって確実に殺される。


それは駄目だ、償わせないと。

ルーナリアさんだってそう思うでしょ?



だからお願い、目を開けて。




そんなあたしの祈りは叶わずに、



「お嬢…」



恐怖が訪れてしまう。





きっとこの場にいる紅髪の先輩を知る人はこの状況が最悪のものだってわかる。


飼い主が倒れていて、その犯人がまだ生きて近くにいる


それだけで狂犬のタガが外れてしまう。


そしてそれを止められるのは意識のないこの人だけ




「………ころす」




拾ってしまった呟きは息が詰まるほど何かが煮詰まっているような声音だった。


そして次にあたしの耳が聞いたのは女の悲鳴。

一瞬で喰われたんだ。



どうしよう、このままだと犯人殺されちゃう。


どうしよう、ルーナリアさんが死んじゃう。



どうしよう、どうしよう、どうしたら良い



どうすることも出来なくて涙が溢れてくる。


情けない、悔しい



ルーナリアさんの手を強く握りしめて涙を流すだけのあたしは、ルーナリアさんの先輩だって言えるの


「…ッアーグ先輩!!!」


腹の底から出した大きな声は掠れていたけど、それでもその声は届いたらしい。


女の髪を掴んで持ち上げていた先輩がその体勢のままあたしへ目を向けた。


紅い目は殺意に満ちていてゾワっと肌が粟立つ

今手にしている人間の次は自分なんじゃないかと思ってしまうくらいにはその目は危険だった。


でも、


「今すぐフィオナさんを連れて来てください!」


怯むな、あたし!!



「アーグ先輩が一番早くフィオナさんを連れて来れますよね!?早く行ってください!その女は拘束しますから早く!!」


離れた場所で顔を青くしていた騎士に「早く拘束してください!」と怒鳴るように叫んだ。


本当に申し訳ない、あのアーグ先輩に近寄って殺害対象を差し出してもらうのにどれほど勇気がいるか

あたしだって絶対にしたくない。


「ルーナリアさん、まだ息あるから!!」


「ッ、」


女の髪を掴んで持ち上げていたアーグ先輩が髪から手を放した。


女は勢いよく地面に叩きつけられてその瞬間を逃さなかった騎士とリメリナさんが女を拘束してくれた。


「行ってください!!!」


まだ、まだ間に合う、きっと、




「―――死ぬわ」



嗄れた声で恐ろしい言葉を発した女に息を呑む。


リメリナさんが酷い形相で口を塞ごうとするけれど、女は異常な力を出しているのか拘束されながら暴れていて口を塞げない。



「毒を塗った刃物で刺したのよ、すぐ死ぬわ!アハッ、アハハッアハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


壊れたように笑う女に言葉が出ない。


毒?毒って、そんなの、


「毒を出します、離れて」


回らない思考の中、いつの間にか側に来ていたオリヴィア先輩に言われて言われた通りに体を横にずらす


でも毒を出すって、どうやって…


目の前で掌に魔力を集めて傷口に手を当てたオリヴィア先輩を見て慌てて止める。


「何やってるんですか!?」


「風の魔力巡らして出します」


「ッそんなことしたら二人とも体内から壊れちゃいますよ!!止めてくださいッ!」


しかもルーナリアさんは魔力が殆ど無いのに、少しでも魔力が体の中に触れたら想像を絶する事態になる。


打つ手はもうフィオナさんしかいない。

なのにアーグ先輩は女の首を絞め始めてる。



誰かあの人とこの人を止めてほしい


それでフィオナさんを連れてきて。


そんな事できるの、貴女しかいないのに…



「……ッ、」


「ルーナリア様ッ!!」


意識のないまま口から溢れ出た血に悲鳴が上がる。


ああ、もう駄目だ。


強く握り締めた手に涙が落ちた。




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