崩壊
朝起きて1番に視界に写ったのは紅色
その色の彼は不機嫌な顔で私を見ていた。
「おはよう、アーグ。よくねむれましたか?」
「人の気配がして寝れねぇよ」
そう言われて私は自分が浮かれて自分勝手なことをしたと反省した。
「ごめんなさい、あなたのことをかんがえずにじぶんかってなことをしてしまいました。」
「…いや、べつに…」
顔を背けるアーグに申し訳ない気持ちを抱いたけれど、私は良く眠れた。頭も体もスッキリしていて、人の体温ってなにか凄いものなのだと思った。
だからアーグには申し訳ないけれど後悔はしてない
ベッドから降りて侍女が来ないから嫌そうなアーグに髪を梳かしてもらった。
ぎこちなく櫛を扱うアーグに微笑ましく感じて私は終始微笑んでいた。…睨まれてしまったけど。
その後サーナがアーグの服を持って来て、私はアーグを着替えさせてから私も自分の服を着た。
淡い水色のワンピースは全体的に水色系統の私をより薄くするけれど儚い雰囲気を漂わせるからこの顔は本当にすごいと思う
そしてアーグの服は白シャツに黒ズボンとシンプルだったけれど、とてもしっくりくる装いだった。
「お嬢様、旦那様が朝食の際に話を聞いてくださるとのことです。」
「そう、ありがとう」
「……そのような下賤な者を旦那様の前に連れて行くなどと…お嬢様、正気でございますか。」
険しい表情で私を睨むサーナ
いつも優しくて側に居てくれた大好きな人のその表情に私のナニかがツキンと痛む
知っているの、サーナがお父様を一人の男性として慕っていることくらい
私がその娘だから、お父様に頼まれたから優しくしているのだと、わかっているの
だけど、
「ごめんなさい、サーナ。」
私は“ひとり”が怖いから突き放すことができない。
曖昧に微笑み謝罪を口にする私をサーナは溜息をつきお部屋を出て行き、お部屋に残った私とアーグは妙な沈黙を保っていた。
なんだかアーグの視線が痛いような気がするわ…
どうしようかと頭を悩ませるも人との関わりなんて数える程で良い案は浮かばない。
そして何も言えないと自己完結するとアーグの手を取り
「いきましょう」
いつものように微笑んだ。
お部屋を出てすぐにケルトル少年が居てアーグを見て複雑そうな顔をしながら話しかけてくれる
「お前の食事はお嬢様方が食べ終わられたあとに出される。…お嬢様もご理解ください。」
「ええ、わかっていますよ。きのうはわたくしのわがままです。」
「……お嬢様の我儘ならば聞いて差し上げたいですけどね。」
「…まあ。ふふ、ありがとうございます、ケルトルさま」
微笑む私をケルトル少年は少し困った顔で見ていたけれど、本当にこの人は優しい人だと思った。
朝食の席には王都に来て最初の挨拶以来のお父様がいて、既に食べ終わる頃で少し残念に思った。
朝食の際とサーナは言っていたから一緒に食べながら話を出来るのだと思っていたから…
でもお父様はお忙しいのだし仕方ないと微笑みを崩さずに挨拶をする
「おはようございます、おとうさま。」
「報告の貧民街の子供はそいつか?」
「…はい、そうです。わたくしがめをつけひろいましたの。アーグとなをつけました。」
「名など聞いていない。利用価値はあるのか」
「…みみもめもよくけはいにもびんかんでかくれるのにもすぐれています。ごえいとおんみつ、どちらもできるいつざいだとわたくしはみました。」
「お前のような子供にわかるはずはないだろう。」
「こどもとてみてかんがえることはあります。そのようにするのだとならいましたわ」
言い返した私にお父様は少しだけ目を瞠ってすぐに無表情の冷たい目を私に向けた。
娘に対して向ける目ではないとナニかが痛む
「私の邪魔をするならば消すということを頭に入れておけ。私の邪魔をしないのならば好きなようにすれば良い。私は一切口を出さん。」
「ありがとうございます、おとうさま。」
頭を下げ感謝を表する私を一瞥して、お父様は席を立とうとされたのを一歩前に進み踏み止まるよう頼み、私と同色の瞳を見つめる
その目はお母様のように鬱陶しそうだった。
また、私のナニかがズキズキと痛む
「スラムでのできごとはおみみにはいっていらっしゃるとおもいますが、おとうさまはどのようにおかんがえでしょうか」
「子供のお前に話す必要はない。」
「“ひのこうしゃく”とスラムのしょうねんはいっていましたわ。それをきいておもいつくのはおひとかただけでしょう?」
「黙れ」
「…、ひとがしんでいますわ。」
建物を燃やされたと言っていた。
だけどきっとそこには“人”がいたはずだもの
貧民街の所有者のいない建物には住み着かれたスラムの人がいるのだと、私は知っている
貴族のマナー講師が穢らわしいモノの話をするときに貧民街の話を出すときに話させるから、多少のことは知っているのだとお父様だって聞いているはず
人が死んでいる
その言葉がどれほど重く辛く苦しいものか、お父様は絶対にわかっていらっしゃる。
貴族は人を守り道をつくるものだと教えられたもの
ねえ、そうでしょう?
「失って困る者でもあるまい。ましてや貧民街のことよりも私は国を守るための地位にいる。そのような事に時間を割く暇はない。」
「………」
ガラガラと崩れる音がする
ヒビ割れた亀裂が音をたて崩れていく
少し乾いた口の中とじっとりとする掌と背中
小刻みに震える身体に僅かな笑みをこぼす
「きぞくはたみをまもるそんざいでしょう…?」
「違うな。“国”と“王族”に仕える者だ。
護るだのと甘い考えは持ち合わせていない。」
ガラガラと崩れて
「お前は余計な事を考えるな。ただ役に立て。」
世界から音が消えた。




