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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
137/152

王太子



私のその言葉にその場にいた全員が声を失くしていた。


雨にずぶ濡れではそうは見えないかもしれないけれど、そんな事を言えるのは本物か自殺志願者だけだとわかっているだろう。



「次期王妃様がなんでここに…?」


「街の方から来たよな?」


「しかも子供を抱えていたわ」


疑心暗鬼で私を見やる人達の心情は複雑なのかもしれない。


何故こんなことが起こったのか、近頃貴族は騒がしかったからそのせいか、なんて考えてしまっている人もいるかもしれない。


あながち間違いではないのだけれど、そんな事を正直に話すわけには行かないのだ。



「現在、国王様と王妃様、側妃様は仕事で王都を離れています。その代わりに王太子であるリアム王子が指揮を取り、国民の皆様の安全を優先し城を避難場所とされました」


「城が避難場所…?」


「私たち平民が城に?」


驚きにざわめく国民を見渡し、深く頭を下げた。


私のその姿に驚愕の声が上がるのを聞いた。

信じられない光景だと皆が思うのも無理はない。


貴族が、しかも王家に連なる者が民に頭を下げるなど前代未聞だろうから。



「皆様どうか、お願い致します。安全な場所へ避難してくださいませ」



頭を下げた状態で人の表情はわからないけれど、殆どの方が困惑しているのを感じる。


あと一手あれば進んでくださるかもしれない。


頭を巡らせていると、物凄い速さで此方に近付いてくる魔力を感じ取り頭を上げてその方角を見るとものの数秒で目の前に現れた。


金色の髪は濡れ、前髪から除く琥珀色は鋭く辺りを見渡した。



周りにいた人達は突然現れた人に驚き、尻餅を付く人までいる。


けれどそんな中で耳を疑う言葉が聞こえた。



「お前、リアムか…?」



王太子をお前、しかも呼び捨てで呼ぶなど不敬極まりない事を口走る人物を見ると、リアム殿下と同年代程の青年が目を瞠り此方を指差している。


その表情は驚愕と動揺と、歓喜が垣間見れた。


「ラージ、久しいな」


「!?」


驚くことにリアム殿下が親しげに目の前の青年らしき名前を呼び、僅かに目を和らげた。


私はその姿を見て言葉が出ないほどに驚いた。

リアム殿下が私以外に表情を和らげさせることなど今まで一度もなかったのに、と少しだけ胸に棘が刺さる。


けれどそんな思いは目の前で繰り広げられる会話に数秒で飛んでいってしまった。



「お前が!?王太子だって!?冗談言うな!!やめろマジでお前、マジで捕まんぞッ!?」


「俺を捕まえられるのは両陛下か妻になるルーナリアだけだ」


「バッカ野郎!!!お貴族様の名前を呼び捨てにしちゃなんねーんだって!!まだ世間知らず治ってねーのか!?あれから何年経ってると思ってんだよ!」


「お前こそいい歳にもなってまだ気付かないのか」


「おお、おお、おお!馬鹿にしてんのか!?」


……何でしょう、この会話。



「殿下、話はそのくらいで。救出にも行かなければ…」


隣に立つ殿下を見上げ進言すれば、その琥珀色を細めて私の頭を撫でられる。


この状況ですることか、と非難の目を向ければ僅かに笑った彼は未だ困惑している国民の皆様に向かって声を上げた。



「ロズワイド王国王太子、リアムが誓おう

誰一人として、この国の国民を死なせはしない」



淡々とした短い言葉。


いきなり現れて、言い合いを繰り広げ、何だコイツはと思われても仕方ないはずなのに―――



「だから皆に頼む、死んでくれるな」



その瞳から真剣に、熱いものを感じられた。




静まり返るその場で誰も口を開かなかった。


けれど、場が動いた瞬間に事態は急速に進んだ。



「お前が王太子ってのは信じらんねーけど、俺の知ってるリアムの言葉は信じるぜ」


リアム殿下と言い合いをしていたラージという青年の言葉に周りの人達が顔を見合わせ、戸惑いながらも頷いた。


それを逃さないように私は一歩進み、此方を伺っているアイサさん達に頷く


「皆様を案内する者達です。王城は広いので逸れてしまわないようお気を付けてお進みください」


「こちらです!」


数名の侍従と騎士が国民を誘導する中、私はアイサさんや他の侍女に指示を出す


「王宮の食材全て使って構いません、皆様に提供できる分の食事の用意を」


「はい!」


「料理長には具材多めの温まるスープだけで大丈夫だと伝えて。それと城にある全てのタオル、毛布やシーツを掻き集めてくださるかしら、足りない分はアクタルノ公爵家から持ってきてもらうわぁ」


「他の家にも要請してみます」


「ええ、お願い」


指示を出す合間、アイサさんに抱っこされているルーナがきょろきょろと周りを見ている。


誰を探しているかなんて明白だけれど、こんなにもいる中で見つけるのは難しいかもしれない。


なんて、言っていられない。


「ルーナ」


「なぁに?」


「ルーナのお母さんは必ず見つけるわ。だからもう少しだけ、我慢できる?」


「……うん!できるよ!!」


目に涙を浮かべながら強く頷いてくれたルーナに喉がグッと熱くなって痛い。


それに見渡す限り自分の子供と、そうではない子供を数人見ている人が何人かいらっしゃる。


きっと逸れてしまった子を保護してくれたんだ。


自分達のことで精一杯だろうに、優しい人達がこんなにもいるのだと感動した。



「アイサさん、こんなに大勢の方々相手に大変だけれど、全員のお名前とご家族の名前を書名してくださるかしら」


「もとよりそのつもりでしたよ、ルーナリア様」


そう言って頼もしい笑顔を見せてくれるアイサさんにほっと胸を撫で下ろす。


「では私は街に戻って火を―――」


「――その必要はない」


私の言葉を遮った彼は濡れた髪を乱雑にかきあげて此方を見ていた。


妙な色気と貫禄を見せつけないでほしい。


「オスカーに学園の中等部と高等部の水属性の生徒を呼んだ。火を消すくらいなら出来るだろう」


「ですが救助は…」


「騎士も十分に揃えたが、冒険者ギルドにも要請した。冒険者は街に詳しい、知り合いもいるだろう。率先してやってくれている」


「では救助された方は」


「神官を数人残して全員連れ出した。重傷者は聖女が請け負ってくれている」


「………、」



全て手を回したの?この短時間に一人で?


貴族の中には私を一番恐れている人も多いけれど、実際一番恐れるべきはこの御方でしょう。



「俺は街に戻る。ルーナリア、此処は任せた」


「承知致しました」



だからこそ、その信頼を誇りに思う。




「お気をつけて、リアム様」


「あぁ」


頭頂部に落とされた口付けは一瞬で、離れた次の瞬間にはその姿は目の前から消えていた。





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