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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
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雨の精霊



「雨に濡れると風邪を引いてしまうから、お姉さんの上着あげるわねぇ」


「えっ?でも、お姉さんのでしょう…?」


「大丈夫。お姉さんは雨に濡れてもへっちゃらなの」


私がしていたボレロを着さすと、ルーナはキラキラと表情を輝かせた。



「お姉さんは雨の精霊さまなの?」



純真無垢な可愛らしいその問いにこんな状況なのに思わず笑ってしまう。



「精霊様に見えるかしらぁ」


「うん!だって、お姉さんすごくかわいくて、キレイなんだもん」


「まあ。ありがとう」


泣きじゃくっていた名残りで目は真っ赤に腫れているけれど、被害のあった場所から離れて少し落ち着けたのか強張っていた表情がほんの少し和らいでいた。


私の降らす雨のせいで体は濡れてしまっているけれど、火の近くにいたからかなり熱を持っていた体が冷えて安心した。


温度差に体調を悪くしてしまう前にちゃんと休める場所に連れて行かないと。



「お姉さん、ルーナ、ちゃんとお家に帰れるかなぁ…」


「ルーナ…」


この子は変わり果てた自分の知っている場所を目の当たりにしている。


それがどれほど辛くて、悲しくて、苦しいことか。


こんなにも幼いのに…


掛ける言葉が見つからない。


きっと大丈夫、なんていくらでも言える言葉しか思いつかないけどその言葉を言うのは憚られる。


だけど、



「ルーナ」


「なぁに?」


「ルーナは玩具を壊しちゃったことあるかしら」


「うん?おもちゃ?うん、あるよ!お母さんがくれたぬいぐるみのね、手が取れちゃったの」


悲しい顔をするルーナの頭をよしよしと撫でて微笑む。


「そのぬいぐるみ、どうしたの?」


「お母さんが治してくれたよ!ルーナのお母さんね、魔法みたいに手をくっつけちゃったんだ!」


キラキラと輝かせて話すルーナは本当に嬉しそうで、子供特有の純真無垢な姿に胸が温まる。



私はこういう姿を守りたい。



「お姉さんもルーナのお母さんみたいに、ここを魔法みたいに治すからね」


「ほんとっ!?お姉さん、この街なおしてくれるの!?」


「ええ、絶対に治すわぁ」


「ほんとのほんとっ!?」


「ほんとのほんとよ」


小指を向けるとパアッと満面の笑顔を浮かべ、その小さな小指を絡めてくれた。


「約束!」


「約束ね?」


乱れている髪を直してあげながら見えてきた王城門付近に、大勢の国民が騒ぎ立てているのを見つけた。


無理もない。

唐突な王都の大規模な火災。

助けを求めようと、事態を把握しようと城へ来るのは当然の事だ。


けれど押し寄せ過ぎは危険過ぎる。



「おねぇさん…っ、」


ビクッと身体を震わせたルーナは大勢の人達の怒声や悲鳴を目の当たりにして怯えていた。


目を潤ませて泣いてしまいそうなルーナを抱き上げるときょとんと目を丸くさせて固まってしまう。

至近距離で見つめると何故かアワアワと慌てだすルーナを落とすまいと抱え直す。


「大丈夫よ、ルーナ。お姉さんに任せて?」


ふわ、と穏やかに微笑むとルーナは少し身体の力が抜けたのか、その分私の腕に体重がかかった。


子供を抱っこするのは久しぶりだ。

最後に抱っこしたのはメグだったけれど、それも何年も前のこと。


抱き抱え腕に収まるその小ささに背中を押される。




「皆様、」



不思議と私の声は喧騒の中でも届く―――




「早くなんとかしてくれ!!」


「娘と息子がいないのッ!!!」


「衛兵はなにをしてるんだッ!!!」


「私たちはどうすればいいのよ!!」




―――わけもなく。




大勢の声にかき消されてしまう。


全員が必死に自分の事を、自分の大切なものを守ろうと必死な証拠だ。


けれどその思いを一人一人慮り気遣い、親身になる時間はない。



多少の荒事、多少の反感、多少の恨み。


そんなもの怖くはない。




「耳を傾けられないのなら、耳に入れるまで」



王都全域に振らせていた雨は国民の事を考え強過ぎないように降らしていたけれど、その雨を豪雨に変えた。


傘を差さないと、くらいの降水量だったものを遥かに上回れば全員が何事だと動きを止める。


現に、王城門付近の国民は困惑と苛立ちを顕にして少し声は小さくなった。


その隙を逃すものかと足を進めて口を開く




「皆様、」



今度こそ私の声が届き、人々の視線が私に向く



彼等の表情は様々で私の予想通りの視線だってある。

けれどそれがなんだというのか。


その矛先が他に向かってしまうより全然良い。



「ルーナリア様!?」


門の奥、国民で見えなかったけれど門の前で必死に国民を宥めていたらしい騎士や侍従、侍女が数十名いて、私を見て愕然としていた。


その中には慣れしたんだ人もいる。


自然と道を開ける国民の皆様の間を歩き、呆然としていた中の一人が慌てて此方に駆け寄って来てくれた。


「アイサさん、リアム殿下はいらしたの?」


「はい、城を開けろと…ですが国民の皆さんは状況の説明をと従ってはくださらなくて…」


困り果てたアイサさんはいつもキッチリと着こなしている侍女服が引っ張られたように乱れていて、纏められていたであろう髪も解けている。


豪雨のせいで髪はペタンと張り付き、侍女服も張り付いてしまっているけれど、その前から酷い追求があったのだろうと察する。



「ご苦労様でした。此処からは私が引き継ぎますわぁ」


「いや、ルーナリア様…っ!?」


目を瞠るアイサさんに抱っこしていたルーナを引き渡す


不安そうに表情を歪ませるルーナの頭を撫でて微笑み、背を向けて国民の皆様と対峙する。



勢い良く振りつける雨に負けないように背筋を正し、

負けてしまわないように声を上げる。




「ロズワイド王国の皆様、私はルーナリア・アクタルノと申します。次期王妃となる者です」




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