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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
134/152

襲撃


闘技祭は終わり、気に掛けていた彼女も騎士団の屯所で意気消沈の様子で素直に話をしていると聞いている。


アーグやオリヴィアは彼女に対して思うところはあるようだけれど、私が何もしないと言ったからそれに従ってくれた。


彼女には何もしないのが一番の薬だろう。

薬にも、毒にもなりえるけれど。




「これでひと段落ついたな」


「そうですねぇ」


王宮の一室でリアム様とお茶をしながら事の話を終えて一息ついた時だった。



――――ドォオンッ


遠い場所から爆発音のようなものが聞こえ、瞬時にアーグが私の側に寄り剣を抜いて構える。


リアム様の傍らにはミリナ魔道士とザリウス騎士が構えを取っていて、他の護衛は素早く的確に状況把握の為の行動に移している。


「この音三番棟からだぞ、お嬢」


「なんですって!?」


そう声を上げたのはミリナ魔道士だけれど、他の騎士たちも動揺を隠せない様子。


それはそうだろう。王宮を守護する者達が集まっていると言える三番棟をわざわざ狙うなんてかなり面倒な事になる。


重要人物の隔離、そして保護もしている場所だ。

そんなところから爆音なんて厄介事でしかないでしょう



「前日から両陛下は視察に出向かれ、側妃様は今朝近隣からの使者の持て成しで城を出ている。聖女様も一時間前に街の神殿に行かれた」


「手薄なの突かれたかァ?」


「だからといって残っている戦力だって並大抵のものじゃないはずだわ」


主軸護衛の三人の会話にも耳を傾けながら張り巡らせた魔力感知を最大限に広げていく


感知する魔力の量が増えて幾度、一つ、一つと消えていく魔力が不快で堪らない。


そんな中で物凄い速さで此方に向かってくる魔力を感知して立ち上がり向かってくる方向へ魔力を向ける。


「オイお嬢――」


―――バリバリバリッ


アーグの声をかき消した硝子の割れ散る音と同時、現れた黒装束の侵入者を氷で捕えた。


動きを止められた侵入者は瞬時に自分が動けないと理解したのか暴れる事なく大人しくなった。


けれど、


「自死は許可していないわぁ」


歯を食い縛ろうとしている侵入者の口内に大量の水を生み出して口を開かせる。


咽ているのを横目にもう一つ向かって来た魔力を感知したけれど、其方は知った魔力だ。


現れた私の影の一人が捕らえられている侵入者を見て目を見開き、私を見て膝を付いて報告をくれる。



「三番棟に数十人の手練が襲撃。保護対象のトレッサ・レジャール令嬢を誘拐。横領の件の貴族が逃走」


室内の騎士達が息を呑む。

三番棟でそんな事が起きたなんて信じられない


けれど、実際に起きている事。

固まっている暇はない。



「追っているか」


「令嬢に二人。他貴族に三人。王宮騎士は応戦中」


リアム様の問にも素直に答える影は優秀だ。

セスとリダ仕込みの実力は近衛騎士としても十分。そんな影を無傷で振り切りここまでやって来る侵入者。


「貴方は何方の差し金でしょう?」


一歩、二歩と近付くに連れて咽こんでいた侵入者はその顔に焦りを見せていく


そうよねぇ、こんな魔力放出されて近付かれるなんて嫌よねぇ、怖いですものねぇ


「冷たくなってしまう前に言ってしまいなさいな」


揺れる瞳孔を見下ろして微笑む。




青褪め汗を吹き出しながらも喋らない侵入者にアーグと代わる。


私と違って最初から手が出るアーグに侵入者は悲鳴を上げているけれど知ったことじゃない。


「おっかねー…」


「女帝の姿見たわね…」


「軽口叩く暇あるならお二人も情報を吐かせなさいな」


いつもなら軽口は聞き流すけれどそんな事態ではない。

そんなことはちゃんとわかっているだろうけれど。


実際、二人の表情はとても厳しいものだ。


「殿下、私達も侵入者を捕えに行きましょう」


人が多ければ多いほど情報を掴めるし、誘拐された彼女の身も心配だった。


襲撃されて保護対象と捕縛対象を奪われたとはいえ、この国の騎士達は優秀。

既に三番棟の侵入者の確保と王宮の警備への準備は滞りなく出来てきているだろう。


逸る気持ちで注意を怠っていたのかもしれない。

それは静かに私に向かって来ていた。



「何してんだテメェ」


低い唸るような声と共にゴキッと鈍い音、声のない悲鳴が室内に響き侵入者に目を向けて気付く


侵入者が手に持つ細い針。

銀製のそれが光るのは反射か、塗られているものか


私の背後にバチバチと放電している焦げた残骸を見つけてリアム殿下にも助けられたのだと気付いた。


申し訳ない、気を引き締めなければ。


謝罪と感謝を伝えると頷きだけが返ってきた。



「チッ。お嬢、コイツいらねェだろ?」


「話さないなら必要ないわぁ」


バキン、と氷の壊れる音と同時に私はアーグに抱き上げられ大きく開かれた窓から飛び降りた。


吹き付ける風に目を閉じかけ、空の異変に気付く



何故、赤いの―――




視線の先、多くの人々が暮らす王都の空が真っ赤に染まっていた。




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