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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
132/152

叫び




《さぁさぁやって参りました、闘技祭最終日!

決勝戦は最早常連の“氷の女帝”ルーナリア・アクタルノ令嬢!そしてこちらは初参加、中等部優勝者モニカ・アザハルン令嬢!》


会場内で湧き上がる歓声を目の前で私を睨む彼女は一切気にしていない様子。


いつもニコニコして人当たりの良い彼女が私を睨む姿に一部の生徒からヒソヒソと話されているのがわかる。

決勝戦でやる気がある、と言うには禍々しい気がするものねぇ



「こうしてアザハルン令嬢と試合するとは思いませんでしたわぁ。中等部での優勝、おめでとうございます」


「ありがとうございます、でもこの試合でも私が勝ちますから!」


水色の髪を一つに纏めてやる気に満ちている彼女はどうにもタガが外れているように感じる。


以前はまだ周りの視線も、家の事も気にしていたはずなのに今はそんな気が一切ない。

それは彼女の父親がレジャール侯爵の横領事件に深く関わっていたからなのか。



《では両者、構え!!》



試合開始前の声にいつも通り私はゆっくりと呼吸をして瞼を伏せる。


意識を目の前に集中させる。

負けない相手だとしても、油断は禁物。



《はじ―――》



―――ドバァン………バキバキバキッ



合図に被せて襲ってきた水の波を一瞬で凍らすと、背後から水塊が飛んできて相殺する。


連続で向かってくるのを全て相殺しながら私も水塊を相手に放ち、濡れた地面を凍らしていく


視線の先の彼女は氷が及ばない場所へ移動していて、それにあわせて水塊を放ちまくる。


「力技ですか!?魔力量に頼った乱暴な戦い方!」


「あらぁ。では優雅に美しい試合を致しましょうか」


手に魔力を集めてふぅと軽く息を吹きかけると氷の蝶が場内を悠々と飛ぶ


キラキラと輝いて見える氷の蝶は美しく、会場の方々が見とれているのがわかる。


けれど、高等部生は知っている。

この蝶は美しいだけじゃない危険を持つことを。



氷の蝶を見上げて固まっていたモニカ・アザハルン令嬢は何かに気づいて目を見開いた。


そしてギョロッと目を動かして私を睨む。



「ふふふ。身体が動きませんか?」


氷の蝶が振りまく鱗粉が身体に付けば後はそこから凍らして行けばいい。

簡単で、恐怖を煽る魔法だ。



ゆっくりと目に見えてわかるように彼女の体は凍り、胴体をすべて凍らしたところで止めた。


これ以上は命に関わるから。

試合にそんなもの必要ない。



「これで私の勝ちですねぇ」


身動きのとれない彼女は物凄い形相で私を睨んでくるけれど、結果は誰の目に見ても明らか。



《試合開始五分も経たずに決着!優勝は“女帝”ルーナリア・アクタルノ令嬢!》



アナウンスに会場は歓声に満ちた。


呆気なく終わった決勝戦に肩を落とす方も居れば、圧倒的な力量の差に憐憫を見せる方もいた。


中等部生が優勝進出するだけでも凄いのだと胸を張れるけれど、顔を俯かせている彼女はそんなこと思いはしないだろう。


「お疲れ様でした、アザハルン令嬢」


氷を解かしながら声を掛けると俯いていた彼女は顔を上げ、可愛らしい顔を歪めて声を荒らげた。


「私を馬鹿にしないでよッ!!!」


そんな彼女の声は湧き上がる会場内でもよく聞こえ、比較的闘技場から近い席の観覧者が何事かと注目するが、彼女にとってはそんな事はどうでも良いらしく私を睨み肩で息をしていた。


「馬鹿になどしていませんが…」


困ったように頬に手を当てると彼女は更に目を尖らせ、勢い良く立ち上がると私に向かって走り出し腕を伸ばす


けれどその手が私に触れる事はなく、私の視界は黒で遮られた。


見慣れた紅い髪の男性は伸ばされた彼女の腕を掴み捻り上げている。


「ッ痛い…!!」


「…………」


無言で骨の軋む音が聞こえてきそうなほど力を込めていくアーグは手加減するつもりはないらしく、ただ静かに彼女を見下ろしていた。


そんなアーグを見上げる彼女の水色の瞳からはボロボロと涙が零れ落ちている。


「いた、い…ッ!アーグ様っ、」


そう訴える声にはどこか甘さがあって、この子は変わらないのだなと呆れてしまう。


どんなに邪険にされても欲してしまう気持ちはわからないでもないけれど…



「アーグ、放してあげて」


「…甘すぎんぞ、お嬢。コイツ首狙ってたぞ」


隠す事なく苛立ちの篭った低い声が放つその言葉に身体をビクリと強張らせた彼女を見て、此方に責めるような目を向けるアーグを見て。



「彼女に私は殺せないわぁ」



そう微笑み、



「弱いもの」



なんてことないように言う。




その瞬間、強張っていた彼女が身体をグンと動かして私に向かって声を荒らげる。


「私が弱いわけないじゃないッ!!」


「でも実際に貴女は私に負けたでしょう?結果として出ている事よ?」


「ち、違うッ!!あんなの負けた内に入らないんだからッ!!あんな、あんな…ッ!違うッ!!私は負けてなんかないッ!!!」


頭を左右に振りながら滅茶苦茶なことを言っている彼女にアーグは顔を顰めて一歩引いた。


その事にさえ彼女の癇に障るのか、水色の瞳を見開いてアーグを見つめて震えた声で言う。


「どうして…ッ!?ねえ、アーグ様なんで…ッ!!?」


「あァ"?」


顔を顰め苛立った声を出すアーグにもめげない彼女は、ボロボロと涙を溢して繰り返していた。


どうして。なんで。

そればかりを繰り返して頭を抱えた彼女にどうしようかと思考してる間に、司会を務めているリノさんと様子を窺っていたレオン先輩が闘技場内に下りてこちらに来ていた。


お二人共、何処か疲れたように彼女を見ている。


「試合は終わりましたのでお二人には闘技場から退場して頂きます。ルーナリア様はないと思いますが医務室で怪我の確認して、その後に大会式に参加してください」


淡々と行動を促してくれたリノさんに従い、会場中の視線を感じる中で優雅にカーテシーをする。


拡声魔法は使わずに、ただこの姿だけで終わりなのだと理解してもらおう。


そんな私の考えに同意してくださる方が多く、会場からは盛大な拍手が送られた。



姿勢を戻してそのまま医務室へとアーグと共に向かう。


医務室へと向かう通路の入り口には拍手をしている見慣れた私の侍女が待ってくれているから、ほんの少しだけ足早に。



その姿がきっと、彼女には許せないものなのでしょうね




―――パキッパキッ…



私の背後で響く氷の音と、会場の悲鳴と怒声。



ゆっくりと振り返った先、アーグの剣先を喉に突き付けられた彼女が涙を流しながら私を睨んでいた。



「貴女がッ、貴女がいるから…ッ!!!!!!!!」



私より小さな女の子であったとしても、



「アーグ様もッ、…ッレイナも!!全部全部、貴女がいるから…ッ!!!!」



心の底から吐き出した悲鳴にも似た叫びでも、



「貴女なんか、いなきゃよかったのに…ッ!!!」



私の心は動かない。




だから私はいつものように微笑む。



「お疲れ様でした、モニカ・アザハルン令嬢」



ただそれだけを告げて私はまた足を進める。






「ぁあ…ァあああ"あ"ああああぁあああっ!!!!!」



私が振り返ることはもうなかった。




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