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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
130/152

口にするのは



熱も下がりオリヴィアからの了承を得ていつも通りの生活を送るようになって数週間が経ち、アーグが根回ししてくれていた貴族全てにも返事を終え、新入生を迎えた学園も落ち着き生徒会も円滑に回るようになった頃。



「あの胡散臭い娘、何なのよ」


赤い瞳と迫力あるお顔いっぱいに苛立ちを込めたトレッサ様が昼食中にいらっしゃった。


西棟の林近くの木の根元でシートを敷いて食べるのが私の暖かい日の定番だと知っている彼女はご自分の分の昼食も持参していて、隣を開けると優雅に腰を下ろした。



「胡散臭い娘とはアザハルン令嬢のことかしら」


「そうよ、ニコニコニコニコずっと笑顔張り付けてる胡散臭い娘!おまけに口を閉じる事を知らない鳥だわ!」


「あらあら。いくら人が居ないからといけませんよ。耳の良い動物もいますからねぇ」


そう言いながらティーポットの温かい紅茶をカップに注いで手渡すとム、と口を引き結んでから「ありがとう…」と受け取り口を付ける姿に微笑む。


「ごめんなさい、厄介事を押し付けてしまって」


「押し付けられた覚えはなくってよ」


ツンとした言い方だけれど「あら、美味しいわね」と少し表情を和らげたトレッサ様に申し訳なく思う。



トレッサ様に胡散臭い娘と言われているモニカ・アザハルン令嬢はフィオナさんが学園に入学してからずっと彼女の周りに現れては可笑しな話をするのだ。


――アクタルノ先輩は初等部の頃、王太子殿下以外の男性が好きだったのに当時は王太子ではなかったから袖にしていた。


――闘技祭の圧倒的な実力は演出で、何人かの生徒を使っているため本人の実力ではない。


――身体が弱いのだと偽って周囲の同情を買っている。


事実と嘘を混ぜて話すから一部の下級生の間では少し噂になっているらしい。

まぁその一部も私を良く思っていない子達だけらしいけれど。


アザハルン令嬢の狙いのフィオナさんは余り見たこともない顔で「は?」と言われていてどうにも効き目はない様子。



「彼女は私を陥れたいのか自分が堕ちたいのか、早く気付くべきですねぇ」


「あの頭じゃ無理よ。都合の良い頭してるもの」


辛辣なトレッサ様を嗜める言葉は出てこない。

申し訳ないけれど事実そうなんだもの。



「……早く止めるのが優しさではなくて?」


そう言う彼女は優しい方。

見た目や言動に厳しさが表れて中々見つけ出してくれる人は少ないけれど、私なんかよりずっと優しい。


「これ以上粘っても成果は得られないでしょうから、次で終わりますよ」


「…やっぱり何か企んでいたのね」


目を細めて言う彼女に困った様に微笑みながらお昼のサンドイッチを食べる。


ん、美味しい。



「炙り出しが上手くいかねーんだよなァ」


木の上で寝そべっているアーグが口を滑らせたのを咎める様に見上げると、私のサンドイッチから抜いたらしいベーコンがアーグの口の中に消えていった。


……もう。


「手癖の悪い従者を持つと大変ね」


「普段は良い子なのですよ?」


そう言いながら残りのサンドイッチを食べても隣からの痛い視線は無くならなくて、結局根負けした。


「アザハルン伯爵を炙り出したいのです」


「…成程?それで野放しにしていると」


「ここまで噂が流されてその出所も分かっていれば伯爵を詰めるのも容易いですわぁ」


以前からアクタルノ家を良く思っていないあの人は良い噂を聞かないけれど、その逆は多々あるから炙り出したかった。


其方の噂の確認も優秀な影が見事捕まえてくれているから後はちょっとの騒ぎがあれば良いだけ。


いくら興味のない利用するためだけの娘であったとしても周りはそう受け取らない。


子の責は親の責。

親の責は子の責。


どちらも私には良いものには思えないけれど、そうなってしまうのだから。



「貴女も不器用なのね」


「まあ。私が不器用ですか?」


「本当は助けてあげたいのでは?だから最初は対処をして、次に放置をしてみた。どれも外れで打つ手がない…間違っていて?」


「ふふっ。概ね御明察の通りです。けれど打つ手がない事はないの、したくないだけで」


見上げた先の紅色が目を閉じたのにくすくす微笑って呆れた様子のトレッサ様に微笑む。


「優先順位が明確なのです、私」


「知ってるわ。昔から貴女はそうだった」


そう言って赤色の瞳を伏せたトレッサ様は少しだけ笑っていらっしゃって、どこか疲れているように見えた。


フィオナさんの事、アザハルン令嬢の事。

きっとそれ以外にもこの方には色々ある。


それが私のせいだってことも、知っている。

きっと彼女も私が知っている事を解ってる。


けれどそれを口にするのはお互いに憚られて。



昔ならそれで良いと割り切れていた。

でもそうするには一緒に歳を重ねて、沢山話をして沢山時間を過ごしてしまったから。



「知っていて、トレッサ様」


「何よ」


「私の中でトレッサ様は優先順位上位ですよ?」


「…………馬鹿ね」


そう言って笑ったトレッサ様の目は少しだけ潤んでいて私は気付かないフリをして紅茶を飲んだ。



口にするのは恥ずかしいけれど、私にとってトレッサ様は大切なお友達だもの。




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