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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園高等部編
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新しい学園


冬が終わり、春を迎え、卒業生を見送り新しい生徒を迎え、また新しい学園へと変わっていく。



「会長が抜けた穴ってやっぱり大きいんだなぁ…って思っちゃいそう…」


「あの方は一人で仕事を抱え込み過ぎだ。気付かなかった自分が情けない」


「僕は生徒会長とか絶対出来ないです」


リノさん、レオン先輩、ゾイさんと続く元生徒会長に対する思いに微笑みながら同感する。


卒業される前の引き継ぎの時点でこの量は…と思ってはいたけれど、あの御方は出来る範囲だと言っていた。

生徒会の業務と王宮での職務もしていたリアム殿下の“出来る範囲”の幅が信じられない。


人には頼れと言っておいて自分は頼らないなんて。

あの方にとって頼るほどのものじゃなかったのかもしれないけれど。


私はいつも自分でされてみて痛感する。

それでは遅いのに。


手首で輝く卒業式の前日に贈られた琥珀色のバングルをツン、と突いた。




「今年の中等部一年生は生徒会の補助という形になったのもあるかもしれませんねぇ」


「僕の年からそうしてほしかったな…」


遠い目をするゾイさんに何とも声を掛け難い。

ゾイさんの負担の半数は私個人の事情によるものだと思うから。


「弱音吐いてないで手を動かす!今年一年この体制で頑張るんだから」


けれど頼もしい先輩がいるから大丈夫。


私は私の役目を完璧にやり遂げる。


「アクタルノは聖女殿を迎えに行かなくて良いのか?」


「あっ、そうだったそうだった!聖女様も今年からだったね!やっぱりルーナリアさんのクラスになったの?」


「フィオナさんは同じクラスになったトレッサ様にお願いしていますの。学園の案内や同級生の顔見せもトレッサ様とオスカー殿下が引き受けてくださって」


いつの間にか仲良くなられた様で、トレッサ様の刺々しい口調や態度にフィオナさんは好印象だった。


とてもわかる。そこが可愛いのだトレッサ様は。

なかなか分かり合える人が居なかったから嬉しい。


「レジャール侯爵令嬢が聖女様に…?わぁー…不思議。あんまり想像つかないなぁ」


「性格や考え方はともかく、態度や言葉が高圧的な貴族そのものだしな」


「僕ら下級生からすると高嶺の花、というか、高嶺の薔薇と言いますか…」


周りからのトレッサ様への印象が若干ではあるけれど誉められていて嬉しい。


「やるとなれば最後までやり遂げる方なので安心して任せられますよ。彼の方に対して難癖付ける度胸を持つ人もなかなか居ませんしねぇ」


「そこに第二王子殿下まで居るとなれば余計にな」


「その裏にはアクタルノ先輩ですもんね…」


「わーお!あたし絶対関わりたくないや!」


明るくそんな事を言ったリノさんに微笑みながら確認をし終えた書類を束で渡すと引き攣った笑顔を返された。


そんな楽しい生徒会室での時間。






「お嬢、帰んぞ」


日が暮れ書類整理が丁度終わった頃に卒業後、私の護衛騎士として学園の寮で待機しているアーグが迎えに来てくれた。


「こんばんは、アーグ先輩!今日はオリヴィア先輩からのお土産ないんですかー?」


「図々しいな。あったけど半分食った」


「うそぉッ!?普通お土産食べないですよ!?図々しいとかどの口が言ってるんですかぁ!」


リノさんが机に突っ伏したのを苦笑いして、飄々としたアーグから渡された一口サイズのパウンドケーキが3つほど入っているものを皆に配っていく。


「アーグが食べたのは私の分かしらねぇ?」


「お嬢最近飯食わねーから間食辞めさせようと思って。アイツは何でも良いから食べさせてェみてーだけど」


「え…ルーナリアさん、大丈夫?具合悪かったの?」


心配そうに聞いてくれるリノさんに「ダイエット中なんです」と言うと真顔で「喧嘩売ってる」と言われた。


「糖分補給出来て助かる、ありがとう」


「オリヴィアに伝えますねぇ」


「めっちゃウマいです!」


早速開けて食べているゾイさんにリノさんが「あたしもー!」と食べ始めるのを見て、机の整理を終えたのを再確認してから立ち上がる。


「では、お先に失礼致します」


「お疲れ」


「お疲れさまー!」


「お疲れ様でした!」


三者三様の返事を頂いて生徒会室を後にした。




「もう…。皆さんの前でそう言う事を言うのは止めてほしいわぁ」


「言われたくねェなら飯食って寝ろ」


心底怠そうに言いながらアーグも心配してくれているのだとわかるけれど…


「今は引き継ぎと各家への説明文書に忙しいだけだから。早く終わらしてしまえば私も楽だもの」


「お嬢が飯と睡眠は取れっつーのによォ」


「とってるわぁ。アーグと私の食事量、睡眠時間が違うだけ。頭もスッキリ、お腹も問題ないわぁ」


「あっそォ」


本当に大丈夫なのだけれど…。

心配症、というよりは過去の私の行いからくるものかもしれないから何とも言えない。



この会話を終わりにしたアーグにこれ以上言える事もなく、早く戻って終わらせようと少しだけ足を早めた。


生徒会室のある西棟を出てすぐの林と花壇をぼんやりと視界の端に映しながら歩いていると、見慣れた二人を見つけて歩みを止める。


「精霊様って御伽噺だと思ってました…!すごーいっ!すっごい気になりますね!」


「高等部生でも一部の生徒しか立ち入る事は出来ない場所よ。近年では王太子殿下だけね」


「やっぱり王太子様ってすごいんだなぁ…」


白い髪をハーフアップにしたフィオナさんと、ポニーテールの赤い巻き髪のトレッサ様が林の近くで話をしていらして、私達にはまだ気が付いていないようだった。


制服姿のフィオナさんを初めて見たけれどとてもお似合いねぇ


「声掛けねーのかァ?」


「お友達の時間を遮りたくないもの」


楽しそうに笑うフィオナさんといつも通りツンとした表情のトレッサ様。


なんだか私が嬉しくなるわねぇ


そんなふうに思いながらお二人の視界に映ってしまうことのないように西棟から離れようとして、困った人物を見つけた。


赤いリボンに水色の髪、瞳。

ニ、三年ほど続く彼女の嫉妬にはもはや慣れたものだ。


「お願いねぇ」


「おー」


基本的にいつもアーグが対処してくれるけれど、それが返ってあの子の癇に障って余計に私への悪意が募っていってしまう。


仲良くしようとしても駄目。

関わらないよう流しても駄目。


何をしてもあの子はアーグが私の傍に居る限り私が心底憎いのでしょう。


バズル・クレスコ侯爵子息の件もありますし、いえ、そうでなくてもアーグは必要な時以外は私からは離れませんからどうしようもないけれど。



気怠そうにアーグが足を踏み出そうとする前に、視線の先で赤髪の彼女が此方に向かって手を払ったのを視界に捉えた。


どうやら私達に気づいていたらしい。

それに加えて、さっさと行きなさい、と。



「まぁ。なんて男前なのかしらぁ」


「それ言ったらアイツ威嚇すんぞ」


トレッサ様を猫扱いするアーグに思わず笑ってしまう。

けれど折角彼女が引き受けてくださったのだから、早くこの場から離れないと。


水色の髪を持つ彼女が笑顔で話しかけた光景に背を向けて、寮の帰り道を急いだ。




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