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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
127/152

卒業

明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。

久しぶりの投稿になり申し訳ありません!



冬を終える頃、別れの季節を迎える学園はほんの少しだけ静かだ。


まだ続く寒さのせいか学園の花壇にも花は咲いておらず、なんだか華やかさが足りない気がする。


それでも学園のこの場所は私にとって特別で。



「風邪を引くぞ」



きっとそれは貴方様にとってもそうなのだと思う。



「私は昔から寒さに強いのですよ」


ふんわり微笑んだ先、学園の冬制服を身に着けたリアム殿下が微かに微笑んでいる。


その首元には私の手作りの紺色のマフラーが巻かれていて嬉しさと照れくささが入り混じって恥ずかしい。



西棟の精霊の林近くの花壇は私と殿下がよく話をする場所だ。


リノさん曰く、こう言った場所のことをデートスポットと言うらしい。



「お話は終わりましたの?」


「あぁ。陛下からの短い言伝だけだ」


王城の影から言伝とは早急事案ではないのかしら。


情報、伝達、暗殺などを手早く熟す影部隊のことは既に教えられている。

使用許可は正式に婚姻してからになるけれど、彼ら彼女らは婚約が決定されてから常に私に付いてくれている。


「ではお早くお帰りになられませ。私も戻りますわぁ」


「寮まで送ろう」


そう言われ、断る間も無く差し出された掌。


その好意を断る期間も躊躇う期間もとうに過ぎて、素直に手を重ねられる。


落ち着かないのは変わりないけれど、それだって愛おしいと思えるのだ。



寮の帰り道を手を繋いで歩くのは今日で最後。

明日は三年生が卒業されるから。


おめでたいことで悲しむ事ではないけれど、寂しい。

先程まで生徒会メンバーで最後のお茶会をしたけれど、リノさんとレオン先輩が気を遣って下さって二人で先に抜けさせてもらった。


と言っても、私は全く会えなくなる訳でもないので良かったのだけれど、ご厚意は受け取らなければ。


それに、「自分の力で会えるまでお元気で」なんて言うのを聞いたら何も言えない。


本当にかっこいい先輩方だ。



「…………」


「…………」


特に会話もなくゆっくりとした歩幅で歩いている。

無言でも気不味くなくなったのは最近。


無理をしていた訳ではないけれど、会話が途切れないように話題を振り続けていた私にリアム殿下はいつも穏やかに、楽しそうに相槌や返事、時には御自分が話をされる事もあった。


だけど特に理由があった訳でもなく、それでも何故か何も話さない時間があって。

その時に見たリアム殿下の表情や雰囲気に「あ、大丈夫」と思った。


それから話を振り続けることはなくなり、ただ会話なく手を繋いで歩いたり、お茶をしながら景色を眺めるだけの時間も多くなった。


オリヴィアに「熟年夫婦ですか?」と揶揄われたけれど、それもなんだか嬉しかった。



「学園であった事を覚えているか」


けれど今日はリアム殿下が話を振ってくださった。

しかも大分幅広い範囲だ。


「沢山ありますよ?」


「はは、すまん。一番最初だ」


「一番最初ですと、生徒会の害虫駆除ですか?」


一生懸命駆除に手を尽くした記憶がある。

あの時の被害者の方々はそれぞれ違う生き方をしているけれど、それでも最悪な未来を歩んでいる方は加害者の本人だけだ。


加害者であり、被害者でもあった彼女は辺境の修道院で真面目に過ごしていると報告がきている。

先の事は彼女が決める事だけれど、修道院から出られる日もなくはないでしょう。



「そうだ。あの時俺は君に全てが劣っていた」


「え?」


いきなりの自虐に一瞬足が止まる。


「情報網。人間関係。戦闘力。判断力。人柄から何まで全てが、ルーナリアに及ばなかった」


「それ、は…」


どう言えば良いのか言葉に詰まる。

今になって言える事だけれど、あの頃の私は全てを完璧にしていないと不安だった。


必死で、けれどそれが絶対に見えないように死に物狂いで完璧な令嬢でいた。


剥がれてしまわないように。

弱く見えないように、凛と強く正しくありたかった。


だから殿下にそう言って頂けるのは当時の私ならば最大級の褒め言葉として受け止めていたと思う。

もちろん今だってそう。


けれど、今はあの頃の私ではないから。


完璧でありたいけれど、死に物狂いでソレを手にしていたいとは思わない。


「…あの頃は私も必死だったのです」


「知っている。それに気付けたのは僥倖だった」


「え?」


今度こそ足を止めた。


それに合わせて殿下も足を止めて、私はじっと無表情の美しい顔を見つめた。


琥珀の瞳は柔らかさを宿して私を見下ろす

見慣れた瞳。きっと、この瞳は私が気付く前からもあったのだろうと思っていた。



「下手な笑い方が愛おしいと思った」



けれどそんな昔からだとは思っていなくて。


瞬時に染まった自分の顔の熱に気付いて更に熱を持つ。

そういった状況に慣れた今は自分の顔まわりを冷たい自分の魔力で覆って冷やす。


「あの頃は自分の手に魔力を纏わせて冷やしていただろう。その姿がとても可愛かったんだ」


「え、あの、殿下…」


気付いてたの、と動揺して魔力操作を誤り顔近くに小さな氷が数個浮かぶ。


動揺している証拠であり、何よりも誤魔化そうとしていた証拠が形となって現れてしまって羞恥心が私を突き破ってしまいそうだ。


なのにリアム殿下は楽しそうに、嬉しそうに笑って氷をパクっと食べてしまわれるから思考が停止する。


別に害はないけれど!ないけれどそれってどうなのでしょうねぇ、ええ?ちょっと。



「あの頃から今まで、沢山の君を見てこれた」


「…あ、の」


「押し殺していた想いは無駄ではなかった。何より、今がもっと大切で愛おしいものだと思える為の期間だと思える」


何です、この時間。

私を悶えさせるこの時間、何ですか。



言葉を発せない私の手を繋いでいた手が離れて、自然と離れた手を目で追う。


その手は殿下の上着の裏ポケットへいき、何かを手にして私の手へと戻ってくる。



「この先も沢山のルーナリアと出会えることが俺にとっての幸せだ」



琥珀色のバングルが私の手首に嵌められるのを見て胸が熱くなった。


再び包み込まれた手にぎゅっと力を込めると優しく微笑まれる。


「私も、リアム殿下の新しい一面を知れる事がとても楽しみです…」


「あぁ。…まだ共に暮らせるまで三年ほどあるが、その間もきっとかけがえのないものだ」


私の手首で存在を表すバングルと同じ琥珀色の瞳が愛おしそうに細められて私を見つめる。



嬉しくて、恥ずかしくて、幸せで。



「リアム殿下」


「ん?」


「好きです」


素直に言葉にした想いに目の前の好きな人はほんの僅かに目を見開いて、すぐに蕩けるような笑顔を浮かべた。



「俺も好きだ、ルーナリア」





顔に落ちてきた影に目を伏せて、


「寮の近くだが良いのか?」


吐息のかかる距離でそう言われる。



……あらぁ、言われてみれば寮の近くですることではないですねぇ。


言われて我に帰って距離を取ろうと目を開けた瞬間に触れた柔らかいモノに顔が真っ赤に染まる。


「で、でんっ、殿下が仰ったのに…っ!」


「ふはっ。ん、その顔が見たかった」


「意地悪しないでください…!」


繋がれていた手を離して今度こそ両手に魔力を纏わせて頰を抑える。


どうしましょう、誰かに見られていたら。

近くには影しかいないけれど、窓から見られていたらどうしましょう。


明日の卒業式でこそこそ噂されてたら…

あぁなんて恥ずかしいの、やだ。


「悪かった」


「そんなこと微塵も思ってないでしょう?」


「ん?まあ、俺は気にしないからな」


「殿下はそうだとしても私が気にしますから!そういうとこですよ、そういうとこ!もうっほんっとに!」


「ははっ、最後の牽制だ。許してくれ」


そう言いながら両手を取られてしまう。

まだ真っ赤なままの顔を見られてさらに熱が上がった気がする。



本当にこの人……


睨むように見てしまってもこの方は嬉しそうにするだけだからどうしろと言うのでしょう。


一泡吹かせたい、絶対。

今は無理でもいつか。



「ほら、行こう」


「………ばか」


「ははっ、そうか」


「……でもすき」


「……………」


黙ったリアム殿下にあら、と首を傾げる。


これが効くの?これで一泡吹かせられた?


なんて油断したのがいけなかったのか。



「本当に可愛いな、ルーナリアは」



甘ったるい声と共に降ってきた柔らかい唇は、先程より長く私の唇を奪った。





コロナ感染対策、皆様一緒に気を付けましょう!

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