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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
126/152

お嬢様っていうより

フィオナ視点


「……あたくしと?」


「は、はいっ!レジャール様と!」


「…………。」


赤い瞳が真っ直ぐにあたしを見つめ、その後眉を顰めて何も言わなくなったから気不味い空気が漂う。


これは嫌がられてるの?どうなの?

ルーナリア様はレジャール様は不快なら不快だって言うって言ってたけどこれは何?


そう単純に聞けば良いだけなのに、レジャール様から感じる圧から口を開けずにいる。


ルーナリア様が来て通訳してくれないかな…なんて逃げた思考をしていると、ようやく落ち着いたらしい王子様が膝辺りを叩きながら起き上がる。


「はーっ、笑った。で、通訳欲しい?」


「欲しい!……です!」


「プハッ、素直!」


また笑い出し始めそうになった王子様の肩をパシパシ叩いて促す。

なんかもうこの人相手に敬う態度とれる気しない。


「ッ、アッハハハハハハ!!」


しかもなんかまた笑ってるし!!何で!?


こわっ、と二、三歩くらい離れたところでレジャール様が口を開かれた。


「通訳なんて必要ないけれど」


「アッ、ハイ。ゴメンナサイ」


「あたくしが黙ったから悪いのだけれど、そこの王子に代弁されるなんて御免よ」


「ハイッ」


ハキハキと話すレジャール様にシャキンッと背筋が伸びると同時に元気な返事が自然と出た。


そうなると、あれ?と首を傾げそうになる。

なんか話し方、変わった?


「貴女と話をするのは構わないわ。そもそもあたくしはルーナリア・アクタルノ公爵令嬢から話し相手として紹介されているもの」


「あ、そうだったんですか……」


「会ってみて嫌ならしなくて良いとも言われているわよ。あたくしに全て任せると」


「イヤでした、か…?」


恐る恐る、伺うように聞けばレジャール様は赤い瞳を細めながら言った。


「構わない、と言ったのよ?二度も言わせないでちょうだい」


「ハイッ!!」


女王様だ……!!この人、お嬢様っていうより女王様だよ!!


………………カッコイイッ!!!!



こうして、あたしの初めてのお友達デビューは幕を閉じた。


「アッハハハハ!ハハハッ、ハッ、ハハッ、プァッハハハハハハッ!!」


爽やかだったはずのふわふわ金髪王子の止まらない笑い声と共に。








寒い冬が終わり、過ごしやすくなった春。


「トレッサ様ー!こんにちは!」


「ご機嫌よう」


「今日もポニーテール似合ってますね!」


「…そう、有り難う。貴女もその髪飾り、似合っているわ」


「ンフフッ」


「何よ」


「この髪飾り、ルーナリア様から頂いたものなんですよー!」


「………あの人は昔から手先が器用だったけれど、髪飾りまで作るようになってたなんて」


そう言って目を細めるトレッサ様は相変わらず圧があるけど、それももう慣れれば可愛く思えてきた。



初めてのお茶会からルーナリア様を交えて何度かお茶会を開いてもらって、四回目以降は時々あたしとトレッサ様の二人だけになって、徐々に打ち解けていった。


今ではあたしもトレッサ様にビビることはないのである!


「課題は終わったのよね?」


「……あの、その、ですねぇー…」


「ハッキリ仰い」


「わからないとこがいっぱいあります!」


正直ビビることは多々ある。

怖じ気付くことはないけども!!

だってトレッサ女王様圧が凄いんだもん!


「どこがわからないのよ」


「この数式が理解出来ません!リリア様に教えてもらった数式使っても解けないです!意味わかんないです頭破裂しそうでした!」


「頭は破裂しないわよ。どの数式使ったの」


つっけんどんな言い方をしながらも優しいところを見せるトレッサ様にあたしは沼っている。


圧のある女王様が優しく接してくれるって、感動するというか嬉しいんだよねぇ…


って話をこの間ルーナリア様にしたところ


「それは萌えねぇ。私もトレッサ様の子猫みたいなところが可愛くて」


と言われた。


いやいや、あたしが女王様っていってる人を子猫扱いって最強過ぎじゃないですかね?

しかもトレッサ様ってルーナリア様に対して結構当たりキツイとこあるのに。


…………それもまた萌えなのかな?



「集中なさい」


「あいたっ」


バチッとかなり勢いのあるでこぴんをされて反射的に口に出たけど実際は全然痛くないのだよ。


……そう、これが萌えだ。


「ごめんなさぁい」


にやけそうなのを隠すようにおでこを押さえて謝ると、トレッサ様は少し眉を顰める。


「………そこまで強くしてないわよ」


強くしちゃったかしら、って顔ですね!


「ン"ッ。」


「何よ、どうしたのよ」


「なんでもありませんよぉー。ちょっと唾が変なとこいっただけですー」


可愛すぎるんだよこの女王様!!!


こうして一対一の萌え摂取兼勉強会が始まった。



元々はリリア様があたしに勉強を教えてくれていたんだけど、そのリリア様になんと赤ちゃんが出来たのだ。


とってもおめでたい事なのに、リリア様はあたしのことを心配してくれて、勉強もまだ途中なのに…って落ち込まれたから、ルーナリア様にどうにかって頼んだところ、トレッサ様が後を引き継いでくれることになったのです。


ルーナリア様も最初はスパルタなトレッサ様で大丈夫?と心配されていたけど、あたしがトレッサ様に萌えていることを知ってからにこにこと応援だけしてくれている。


なんか同士を得た!みたいな顔されてたなぁ

……同士ではあるかもしれない。


「ンフフフっ。トレッサ様、今日は勉強会のあと魔法の練習手伝ってくれる約束してましたよね!覚えてます?」


「ええ。時間通りに終わればね」


「楽しみー!」


治癒魔法しか出来ないあたしにトレッサ様が魔法を教えてくれるのだ。


ルーナリア様曰く、水属性だったんだからコツさえ掴めば簡単だから教えるって言ってくださってたんだけど、学園の生徒会の業務が忙しいらしいと王子様が言ってたから申し訳なくて、駄目元でトレッサ様に話してみたところ了承してくれたのだ!


やっぱり優しい女王様!


ちなみに王子様も教えようかって言ってくれたけど丁重に「大丈夫でーす」と断った。爆笑された。



「…貴女、本当に飲み込みが早いわね。アクタルノ公爵令嬢が提示した範囲まで安定したから、学園でも頑張れば付いてこれるわ」


「ほんとですか!良かったぁ!」


ホッと一息吐いて侍女さんが淹れてくれたベルガモットの紅茶をゴクッと飲みたいのを我慢して、一口飲んで一回口から離してからもう一度。


目の前で同じように飲んでいるトレッサ様は指先から背筋から、どこを見ても凛としてて綺麗。


ルーナリア様もどこを見ても柔らかくて優雅で綺麗だから、幼少期からお嬢様教育されてる人達って凄いなぁって改めて思う。


一回お二人のお父さんとお母さん見てみたいもん。絶対美形だよ、美形!


あ、でも今まで一回もルーナリア様からご両親の話聞いたことないから…どうなんだろう?亡くなられてるとかかな…


「トレッサ様、聞いて良いですか?」


「何かしら」


「ルーナリア様ってご両親います?」


ぴく、と傾けていたティーカップが止まる。

赤い瞳があたしに向きはしなかったけど、その目が少し剣呑な眼差しになったのに気が付いた。


聞いちゃダメなやつだ、コレ…どうしよう。


「あの、ごめんなさい。あたしの親の話をする事はあってもルーナリア様のご両親の話って聞いたことなかったからその、亡くなられてるのかなって…」


「御二方共ご健在よ、一応」


「……一応?えっ!?もしかして病気とかですか?だったらあたしが――」


「――駄目よ」


「ッ、」


初めて耳にしたトレッサ様の本当に厳しい声にビクッと身体が跳ねる。


驚いて見つめた先、トレッサ様は眉を寄せて赤い瞳をあたしに向けていた。


その瞳に宿る感情は複雑でわからないけど、良い感情じゃないってことだけは確か。


「…聞いても良いですか?」


「……貴女って本当、肝が座っているわね」


呆れたように息を吐くトレッサ様に「お城で過ごす武器です!」と笑ってみせた。


そんなあたしにトレッサ様はやっぱり呆れたような顔をしたけど気にしない!


「本人のいないところで話をするのは好きではないけれど、あの人に直接話させるよりは良いわ」


そう言ってカップをソーサーに置いてあたしに目を向けたトレッサ様の目を真っ直ぐに見つめる。


「あの人のご両親は領地で療養中なのよ」


「やっぱり病気なんですか…」


そうだとしたら、離れて過ごしてるルーナリア様はすごく心配してるだろうな…

治せる病気ならあたしが治すのに。


「治癒魔法では治せない病気よ。…取り繕わずに言うなら“心の病”かしら」


「心の…」


それはあたしにもどうにも出来ない事だ。

人が抱える苦しい感情を癒してあげられるような人間じゃないって自分でわかるもん。


「ルーナリア様、いつも微笑っているからそんな苦しい悩みを抱えてらっしゃるなんて思わなかったです」


「知られたくないでしょ、そんな事」


淡々とそう言うトレッサ様に「そうかもしれないですけどー…」と言うものの、他に言えることなんてなくて。


あたしが!なんて口が裂けても言えないし。

大丈夫ですよ!なんて無責任な事も言えない。


あたしはルーナリア様にいっぱい助けてもらってるのに……


「ルーナリア様の為に何かしたいなぁ…」


「あの人、誰かに何かを求める事って殆どないわよ。学園でだって自分でしていることが多いみたいだから」


「そーなんですね…なんか、想像出来るかも」


代わります!って誰かが言っても微笑んでお礼を言いながら大丈夫ってそのままやっちゃうの。


力になれる隙がないって、ルーナリア様どんだけ完璧なんだろ…?


「だから自分で考えて動くしかないのよ」


「えっ?」


「貴女は自覚がないのかもしれないけれど、確実にあの人を助けているわ」


「……そう、ですかね」


「学園であの人が庭園を長い間歩いているのを見かけたわ。五年間通っていて初めて見たのよ?それは貴女があの人を癒したからでしょう」


それは極秘のはずなんだけど…ルーナリア様が話したのかな?


でも、そうなんだ…学園でも初めてお散歩出来たんだ…!


嬉しくなってニヤニヤと緩む顔を抑えられないでいると、トレッサ様は呆れたような顔であたしを見ていた。


「自分で考えて…時には誰かに相談して。そうやっていけば良いわ」


でもやっぱりかけてくれる言葉は優しくって、ニヤニヤ緩んだ顔はしばらく元に戻せそうもない。




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