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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
124/152

小動物と小動物


王宮の一室にて、赤髪と白髪の可愛らしい二人が顔を合わせている。


「ご機嫌よう、聖女様。お会いできて光栄ですわ」


「ごきげんよう。ありがとうございます」


謙遜し過ぎずお礼を言って笑顔で流したフィオナさんにトレッサ様は僅かだけれど表情を緩くされた。


最初の第一関門は突破出来ましたねぇ。と喜ばしく思いながら二人の間に立つ私が交互に紹介をする。


「フィオナさん、学園の同級生であるトレッサ・レジャール侯爵令嬢ですわぁ。トレッサ様、ご存知でしょうが此方聖女のフィオナさんです」


「初めまして、レジャール様!あたし闘技祭でレジャール様を見たことがあって、火で戦う姿が格好良かったです!」


「有り難うございます。聖女様も闘技祭に出られる時はお互い頑張りましょう」


「えっ、いやあたし全然戦えないですけど…」


「学園の生徒は全員参加ですから鍛練をひたすら頑張るか、すぐに棄権ですわね」


「そうなんですか……」


肩を落としているフィオナさんとそんなフィオナさんを少しだけ不思議そうに見ているトレッサ様。


なんだか、か弱い小動物に興味を持った子猫みたいですわぁ。



王宮のメイドさんが淹れてくれた紅茶を楽しみながら目の前の小動物お二人の様子を眺める。


「トレッサ様は学園でたくさんの学科を受けていると聞いたんですけど、トレッサ様が受けて良かったって思った学科ありますか?」


「政治科と侍女科ですわ」


「そうなんですか?」


きょとん、と目を丸くしたフィオナさんに「何か疑問が?」と目を細めるトレッサ様。


顔立ちがハッキリとされているのもあってその顔は少々圧を感じる。

だから初対面の令嬢からはキツい方なんだと思われてそれから他所他所しくなられてしまっているのだけれど、


「魔法が凄いから魔法科なのかなって思ってたんです。何で政治科と侍女科なんですか?」


「…………」


フィオナさんは気にも止めず更に話を聞き出されたからトレッサ様が僅かに眉を寄せられた。


それが不快感からではなく、嬉しさから照れたのだとわかって思わず頬が緩む。


けれど流石に眉を寄せた表情は不快にさせたかと感じられたのか、フィオナさんは慌てて口を開く。


「ごめんなさいっ、あたし学園に興味があっていつもルーナリア様にも質問攻めしちゃってて…!」


「…別に、構いませんわ」


「ふふっ。フィオナさん、トレッサ様は不快であれば口にされる方ですから、言われない限り不快になられていませんから大丈夫ですよ」


あまり口を挟むつもりはなかったけれど、最初が肝心なのだから言っておかないといけないところはしっかり言う。


これで拗れてしまうなんて勿体ないもの。


「そう、なんですか…」


「ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢様はいつもいつもあたくしを何だと思っているのよ不快だわ」


眉を寄せて不快感満載に言うトレッサ様にいつも通り微笑みながら、「ね?」とフィオナさんにしてみるとちょっとだけ顔を強張らせながらトレッサ様をチラッと見る。


想像できるわぁ。きっと赤い目を吊り上げて私を睨んでいるのでしょうねぇ。


「あ、ああ、あのっ!あのっ、レジャール様は侯爵家の方だって聞きました!侯爵家って貴族の中でも上位なんですよね!なのに侍女科を選んだ理由はなんですか?」


「……目利きを良くさせる為ですわ。貴族の女性は将来的に当主を支える身。当主が居ない間家を切り盛りするのも役目。だからこそ全てのことに関心と知識を持っていたいと思ったのが理由ですわ。それに同じように時間を過ごしていれば優秀な方と知り合えますから」


「すごい、です…」


目を丸くさせてトレッサ様を見つめるフィオナさんと、そんなフィオナさんを気にせず肩に垂れていた結った赤髪を緩く振り払いながらトレッサ様は私に視線を向けられた。


どこか呆れを含んだその瞳。


「誠に遺憾ではあるけれど、そういった考えを持つようになったのはルーナリア・アクタルノ公爵令嬢が先です。あたくしはその姿を見て考えを改めて行動に移したまでです」


初めて知った事に紅茶を飲もうとして一瞬動きが止まる。


視線を向けた先、赤い瞳はもう私を見てはいなかったけれど、彼女の隠れていない耳が赤くなっているのを見て胸がふんわりと温かくなった。


私の行動理由を理解して、自分にも反映してくださっていた。しかも限りなく完璧に近い形で。


「大変ではあるけれどその分身に付くものはあたくしだけの財産ですから。嫁ぎ先がなかったとしても一応は安泰ですので」


そう言って珍しく目を伏せたトレッサ様。


何故その表情でそんな言い方をされるのかしら。

ご自身でも自分が第二王子殿下の最有力婚約者候補だって自覚されているはずなのに。



疑問に思った事に頭が巡りかけた時、控えめなノックが部屋に届いた。


扉横に控える王城騎士の方に頷き通すように促すと素早く扉を開かれて、そこから見慣れたふわふわの金髪を持つ御方が現れた。


「ごめん、待たせた?」


手を緩く上げながら気軽にそう仰る第二王子殿下に私達は席から立ち上がりカーテシーをする。


フィオナさんも慣れたもので表情は固いものの動きは当初よりずっと滑らかだ。



「ご機嫌よう、オスカー殿下。待っていませんでしたからお気になさらずとも結構よ」


「王城でも変わらないね、トレッサ嬢」


済ました顔のトレッサ様と苦笑いのオスカー殿下は学園で見かける様子そのまま。


基本トレッサ様は誰に対してもつれない。

まさしく猫ねぇ。可愛いわぁ。


「フィオナ嬢もこんにちは」


「こっ、こんにちは!」


頬をほんのり赤らめさせたフィオナさんは深い水色の瞳をキラキラと輝かせていた。



…………あら?



「アクタル…ん"んッ!………義姉上も、その………その顔は止めてほしい」


「ふふふっ、ごめんなさい。何だか面白くって。同年代に義姉上と呼ばれるとは思わなかったものですから」


「僕もだよ…けど兄上がそう呼べってうるさ、ん"んッ、失礼。そう仰るので!」


「王太子殿下は狭量ね」


下手な誤魔化し方をするオスカー殿下に緩く微笑んでいると、明らかに呆れを表したトレッサ様がハッキリと物を言う。


あのリアム殿下にそう言える人って限られてると思うのだけれど、聞く分には面白いわぁ。


フィオナさんは顔を真っ青にされているけれど。

苦手ですものねぇ、リアム殿下のこと。


「あの鉄仮面王子様にそんなこと言えるなんて…ッ!レジャール様すごいッ!!」


「プッフク、プハッ、アハハハハッ!!」


耐えたけれど耐えきれずに盛大に笑い出したオスカー殿下の影に隠れて私も笑いそうなのを耐える。


鉄仮面、リアム殿下が。あのリアム殿下を鉄仮面だなんて…物凄く合うわぁ、鉄仮面殿下。


「……一応、あたくしも聖女様のその言葉も不敬に当たりますので口にする場はお気をつけ下さい」



「その通りだ」



ピシッ、と三人が固まるのを見て今度こそ声に出して笑ってしまう。


それに気付いたトレッサ様が物凄い眼光で「気付いてたなら早く言え!!」と私に訴えている。


言い訳をするなら、その方が面白そうだったんですもの。


「ふふっ、ご機嫌よう、リアム殿下。顔を出されるとはお聞きしていなかったのでお会いできて嬉しいですわぁ」


「フォローが上手いな、ルーナリア」


「あらぁ。本心ですよ?」


微笑みそう言いながら、顔を真っ青にさせているフィオナさんと目を泳がせているオスカー殿下、カーテシーをしながら意識を扉へ向けているトレッサ様を見てほんの少しだけ申し訳なくなる。


アフターフォローはしっかりしなければ。


「フィオナさん、」


「はひっ」


ビクッと肩を震わせたフィオナさんに気付かない振りをして、ふんわりと微笑みを浮かべる。


「私が庭に造った花はまだ咲いているかしら」


「咲いてます!あの日からずっと綺麗で侍女さん達にも、女性騎士さん達にも人気なんです!」


パァッと表情を輝かせて言うフィオナさんは何故だか自慢気で可愛らしい。


「それは嬉しいわぁ。是非トレッサ様にも見ていただきたいのだけれど、フィオナさんに案内をお願いしても良いかしら」


「ハイ!もちろんです頑張ります!トレッサ様を庭まで案内します!すみません失礼します!!」


勘が働いたらしいフィオナさんは高速で頷くと、リアム殿下に勢いよく深く頭を下げた。


その表情は安堵に満ちていてわかりやすくって面白くて可愛くて。

トレッサ様もその様子に何とも言えない顔をしながら、カーテシーをして「失礼致します」と流れに乗った。


そして残ったオスカー殿下はと言うと、


「ハハハ。兄上、今日はトレッサ嬢をエスコートするのが僕の役目なので僕も行きますね。ごゆっくりどうぞ!」


「……そうか」


自分で流れに乗られたようだ。


乾いた笑い声と無感情なリアム殿下の声に何とも言えない面白さを感じて笑ってしまいそうになる。


琥珀の瞳に見つめられているから笑えないけれど。



「失礼します!!」


元気なフィオナさんの後ろ姿に手を振り、三人が部屋を出て行ったのを見送ると扉で護衛をしている騎士の表情が何とも表現し難い顔でやっぱり面白い。


何だか今日は面白いことがたくさんねぇ



「で、ルーナリア。恋人が鉄仮面と言われた感想はどうだ?」



鉄仮面を崩して微かな笑みを浮かべるリアム殿下を見てそんなこともないかもしれないと思った。


護衛騎士さんが気不味そうなのが申し訳なくも、ちょっと面白くもあったけれど今は目の前の楽しそうにしている御方をどうにかしよう。



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