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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
120/152

牽制の仕方

リノ視点。

後半客観視点。


会長が戻って来て一週間が経った。

差して変わらなかった生徒会の職務も、会長が居るとよりスムーズで気合が入る不思議。


レオン先輩はそんな会長の後を引き継ぐことになる事が重荷だと言っていたけれど、あたしからして見れば会長の些か無理難題だと思う事も自分で何とかしながらあたしにも気を遣ってくださるところを見てる限り杞憂だと思う。


今だって―――



「ルーナリア・アクタルノはどこにいるんだ!ボクが会いに来てやったのに!」


「言葉遣いがなっていない者と話す気はない。そして生徒会会員ではない者が用もなく入室する事を許した覚えはないぞ、バズル・クレスコ。」


「お前こそ伯爵家の三男が次期公爵当主であるボクに対する口の聞き方がなってないぞ!!」


「学園ではある程度の敬意を示すだけに留められている。君に対する敬意などありはしないが。」


眼鏡の奥で細められた鋭い眼光が苛立ちをわかりやすく表しているのに、馬鹿なクレスコ子息は気付いていないのかまた罵っている。


平民出身のあたしでさえ知ってる常識でしていることなのに、貴族出身のこの人は知らないの?って思ってから馬鹿なんだろうな、って呆れ果てたのは最初の方だ。


「ボクはお前ではなく、ルーナリア・アクタルノに会いに来たと言っているんだ!!」


「アクタルノは会長と資料を取りに行っている。」


「ッ!!」


その言葉を聞いた瞬間、酷く顔を歪めて会長の席を睨み付けるクレスコ子息


前からもしかして、とは思っていたけど会長が戻られてから呆れるほどわかりやすい思春期の彼。


今の自分の言動が嫌われるものだとわからないのかと思うけれど、レオン先輩やアーグ先輩曰く自分でも気付いていないんじゃないかとのこと。


ここまで執着しといてそんなことあるの?って思ったけど、好きな子に好かれようって言うより、好きな子を手に入れたいって思いしか無いのかなと思ってほんの少しだけ腑に落ちた。好きだって気付いてないみたいだけど。


そもそもルーナリアさんも気付いてないらしい。

あの人はそういうとこあるから。



「ボクがいるのに何故なんだッ!!!」


「そもそも君は何故リアム殿下がいらっしゃるのにそういった考えになるんだ。」


呆れ果てたレオン先輩の言葉に完全同意だと頷いてしまう。


この子も政治的なものだと思ってるのかなぁ。

だから自分がルーナリアさんを…みたいな?

いやあ、馬鹿なのかな。


顔を真っ赤にして喚き散らかしている子に貴族だとか関係なく言いたい。


ルーナリアさんは君みたいな常識のない人、眼中に入ってないよ。って。



「お待たせ致しました、戻りましたわぁ。」


五年目にもなれば聞き慣れた丁寧でゆったりとした心地の良い彼女の声。


「また来ていたのか、クレスコ子息。」


六年目にもなれば慣れる起伏の無い口調の完璧に終えた声変わりで低く圧を感じる会長の声。


資料を取りに行って戻られる間にやってきた厄介事をこの人達ならあっと言う間に撃退出来るから感心してしまう。



「ルーナリア。」


「何でしょう?」


困った顔で子息を見ていたルーナリアさんの名前を呼んだ会長に、軽く首を傾げて見上げるルーナリアさんの姿は堪らなく可愛い。


それを見つめる会長の目は蜂蜜かってくらいに甘々トロトロで。


「資料室が埃っぽかったか。…ん、ついてた。」


ルーナリアさんの綺麗に結われた銀髪の三つ編みに触れて、何かを摘む動作をしただけなのに―――


「ありがとうございます、殿下…。」


頬を赤らめてほんの僅かに俯くルーナリアさんに、一気に甘い空気が広がった。


可愛いんだよ、ものすんごく。同性のあたしでさえ可愛くてしょうがないのに、ルーナリアさんを特別な目で見ている人なら相当だろう。

しかもその反応をさせたのが自分なら尚更の事。


だってもう目が言ってるもん。

可愛過ぎる。好きだ何だこの可愛いのは、って。



そしてそんな光景を見せられたら


「ッ〜!!!!!!」


怒りが湧くに決まってる。



例えようがないくらいに顔を歪ませた子息が声にならない怒りを抱いて会長とルーナリアさんを睨みつけているけれど、不敬ってことわからないのかな。


学園じゃなかったら近衛騎士にマークされて声掛けられてるよ。今でもマークされてるのに。


酷い顔で睨み付けている子息に会長は気づいているはずだけどそんなことを微塵も感じさせずに、ルーナリアさんにだけ見せる表情を浮かべている会長に牽制してるなぁと目を逸らす



会長が戻ってきてから幾度となく見る子息に対する牽制。


付け入る隙はないんだって。

彼女は自分が好きなんだって。


そうわかりやすく牽制している会長。



そのお陰で二人の中は甘い空気が漂っているし、子息も嫉妬心を溢れさせているけれども…。


「ゴホン。そろそろ職務を進めたいので資料を見せていただけますか、会長。」


あからさまなレオン先輩の咳払いに会長は視線だけを向け、ルーナリアさんは気恥ずかしそうに説明をしようと机に置いた資料を手に持ち、そこで困った微笑みを浮かべて子息を見る。


それに気がついた子息が一瞬で歪めていた表情から尊大な態度に変わったけど、


「役員ではない生徒の前で話せませんので退室して頂けると助かりますわぁ。」


そんなルーナリアさんの出て行け発言にまた顔を歪ませた。


ルーナリアさんも最初は柔らかく優しい回りくどい言い方をしていたけどハッキリ言わないと伝わらないと判断してからは、普段のやんわりさのままハッキリ言われるようになった。


まぁそれもこの子息には効かないんだけど。



「このボクに対して―――」


案の定得意気な顔でそう口にしだした子息は何故かルーナリアさんに強気だ。


「――一般生徒は出て行けと言っている。」


「ッ、」


それも会長の前では形無しだけど。


目を向けずに冷淡なのに圧を感じる会長の声に子息は身を固まらせ、忌々しそうに会長を睨み付けて何も言わず荒々しく生徒会室を出て行った。



……いや、小物感ハンパないなぁ…。



「申し訳ございません、皆様。」


閉じられた扉を見て酷く疲れた様子で謝るルーナリアさんの背中をポンポンと撫でて「気にしてないよ」と慰める。


今までどんな時でも優雅さや穏やかさを失わなかったルーナリアさんが日に日に僅かでも疲労を見せる姿に胸が痛む。


次期当主に上がっている問題ばかりのクレスコ子息に手を焼いているルーナリアさんを助けてあげられたらいいんだけど、平民のあたしが貴族の後継者問題に首を突っ込む訳にもいかないから歯痒い。


あのルーナリアさんが困っているのに手助けしてあげられないなんて。

あたしはルーナリアさんの先輩なのに…


せめて、


「で、会長はさっきルーナリアさんの髪触ってましたけど、どーでした?触り心地は!」


「え、あの、リノさん…?」


「言うまでもない。」


「……、」


違うことに意識を持っていってあげたい。



顔を真っ赤にする貴重なルーナリアさんが見たいっていうのもあるけどね。


















「くそっ、くそくそっ!!何なんだアイツ…ッ!!あの人はボクのモノなのに…!」


夕暮れの校舎で一人ブツブツと呟く深い水色の髪の少年は顔を歪ませ怒りを顕にしていた。


「ムカツクムカツクムカツク…ッ!!なんであんな無愛想で人間味のない王太子の婚約者に…!!ボクのモノなのに…!!」


公の場で口にすれば白い目で見られる言葉も夕暮れ時の人一人いない校舎では消えていく



――はずだった。



「自分のモノにすれば良いじゃないですか。」


「なに…?」


少年の背後、いつの間に居たのか赤いリボンを着けた下級生の女子生徒がにこやかに笑っていた。


態とらしく感じるほど明るい笑顔で近付く女子生徒に少年は先程言われた言葉に身体は動かない。


「自分の、モノに…?」


「だって、先輩は水のアクタルノ公爵家の次期当主なんですよ?ルーナリア・アクタルノ様はアクタルノ家の人間なんですから、先輩のモノですよ!」


「そうだ、そうなんだよ…!ボクは次期アクタルノ公爵の当主なのに…なのに、アイツが…ッ!!」


脳裏に浮かぶ金色に苛立ちが募る。


平然とあの人の隣に立ついけ好かない、地位と顔が良いだけの無愛想な男。



あの人の隣はボクのモノなのに、なのにアイツが、アイツが…ッ!!



「奪っちゃいましょうよ!」


「え?」



夕日に照らされた廊下で明るい笑顔を浮かべ、奪おうと言う女子生徒に少年は目を瞠る。


そんな少年の姿にも笑顔を絶やさずに話を続ける女子生徒。



「知ってますか、先輩。貴族の子女はキズが付くと婚約を破棄されるんですよ。」


「婚約を、破棄…」


「アクタルノ様は破棄された後、行き場を失くして縋り付く場所は何処だと思いますか?」


「公爵家…あの人の…!そうか、そうすれば…!」


表情を輝かせる少年に女子生徒はニッコリと笑う。


「ルーナリア・アクタルノ公爵令嬢は先輩のモノになりますね!」


「キズモノになればあの人はボクのモノに…!……でも、誰があの人をキズモノにするんだ?」


「クレスコ先輩がしてあげてください!アクタルノ様もそれを望まれていますよ、きっと!」


不思議なほどに望む言葉をくれる女子生徒に少年は笑顔を溢れさせた。


「だけど一つ問題があります。」


「問題…?」


「アクタルノ様には優秀な護衛騎士がいらっしゃるでしょう?」


「ああ…あの狂犬…ッ!いつもいつもボクの邪魔をするんだ!!」


金髪の王太子の次に忌々しい奴。

力だけはあるから余計に忌々しい。


「騎士様は私が引き留めます!だから先輩はその隙にアクタルノ様を。」


「お前があの狂犬を?」


「私、結構強いんですよー!」


拳を作って笑う女子生徒に少年は鼻で笑いながら、それでもあの狂犬が彼女から離れるのなら―――




「レイナは賢いな」


「ありがとうございます!」



人気のない校舎で密かに行われた密会。


それを見ていたのは夕暮れと―――



皆様御自愛下さい。

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