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わがまま



「お嬢さまぁあああぁっ!!!!! どこに行ってたんですかぁっ!!」


「あらあら、ケルトルさまったら。まわりのかたがおどろいていますよ?」


「そんな暢気な…ッ!!! どれほど驚いたと思ってるんですかっ心臓が止まりそうでしたよっ!!?」


「にんげん、かんたんにはとまりませんよ。」


「お嬢様ッ!!…………その子は誰です?」


「ひろいましたの。アーグとなづけましたわ。なかよくしてあげてくださいな。」


「どーも。」


「……………………………………………。」



路地を出て少し歩いた先で真っ青な顔色の死にそうな形相をしたケルトル少年に見つかり、この状態。


顎が外れるんじゃないかと心配になるほど口を開けて呆然と私とアーグを交互に見るケルトル少年


その後ろには険しい顔をした隠れていた護衛達



あらあら、戻らなきゃいけないですわねぇ



「では、ようじもすみましたからやしきへもどりましょう?おとうさまにアーグのことをはなさなければいけないわ。」


「このままか?」


「うーん…そうですわねぇ……おふろにはいってからにしましょうね。」


「おふろ、ってなんだ?」


「みずあびみたいなものですよ。」


「あぁ、なるほど。」



そんな会話をしながらまだ手を繋いだまま屋敷の方角へと向かう


後ろではまだ呆然としているケルトル少年がいますが………



「ケルトルさま、しっかりなさって?」


「…お嬢様、僕は……、護衛失格でしょうか…」


「そんなことないですよ。はなれてしまいましたけれどわたくしはこうしてけがなくぶじですし、このままやしきまでなにごともなければなんのもんだいもありません。きょうたのしかったですもの、わたくしからしてあなたはこうひょうかですよ。」


「ルーナリアお嬢様…!!」



感動したように目を潤ませるケルトル少年に微笑み、「さぁもどりましょう」と促すと大きく頷き、生き生きと前を歩いてくださった。


本当に素直で純粋な人ねぇ


微笑ましく眺める私を隣を歩くアーグが呆れたように見ていましたが、スルーですわ、スルー。




屋敷に着いてすぐお風呂の支度とアーグの服を頼み、私は顔を引き攣らせているサーナとお父様の執事であるマーカスに微笑む


二人の視線は屋敷を物珍しそうに観察しているアーグに向いている



「わたくしがひろいましたの。おとうさまにじゅんびがととのいしだいおはなしができるようとうしておいてくださる?」


「……お嬢様、そのようなものは…っ、」


「それじゃあいきましょう。」



何か言おうとするサーナを笑顔で黙らせてバスルームに向かう


その途中でも使用人達が驚いたように私とアーグを交互に見て、たまに悲鳴をあげる者もいた。


まるでバケモノでも見たかのような反応に不快というより、愉快に思ってしまう



「こんなかわいいこねこにおびえるなんて…ふふっ ネズミかなにかなのかしらねぇ」



微笑み笑いながら言う私に隣のアーグは呆れたように見て、少し後ろのケルトル少年は顔を引きつらせているようだった。



そして――――



「なりません!!お嬢様が一緒になどと…っ!!」


「まあ、こどもどうしですよ。なかよくするためにもわたくしがおせわしたいのですわ」


「お、お嬢様…、僕が一緒に行きますから!」


「わたくしがしたいのです。」



アーグと一緒に入るという私の我儘に侍女とケルトル少年が猛反対し、最終的には笑顔を消して真顔で眺めると認めてくれた。


あれですよね、いつも笑顔の人が真顔になったり怒ったりすると怖いって。



またも呆れ顔のアーグの手を取り広いバスルームに向かい、服を全部脱いで、脱がせて、手伝おうとする侍女を退けて私とアーグの二人で浴室に入った。



嫌がるアーグを丁寧に洗い、綺麗になったアーグを浴槽に入れて、私も自分で洗い浴槽に浸かる


子供二人でも十分に余裕のある浴槽は泡で溢れていてそれを両手で掬いふぅっと吹きかけ飛ばす


ふわふわとシャボン玉のように浮かぶ泡を眺め、同じように泡を追いかけていたアーグに微笑む



「きもちいいでしょう?」


「………まあ。」


「あらうのがいやなのですね?ふふっほんとうにこねこみたいねぇ」



くすくすと笑う私にぷいっと顔を背けるアーグ


あらぁ…可愛らしい。



微笑ましく眺めていると、浴室のドアの向こうにいた人の気配が消えたのがわかり、すぐにアーグに体を近づけた。


驚くアーグにしーっと人差し指を唇にあて、小声で話す



「このやしきのひとはだれひとりしんじてはだめですよ。いいかおをしてちかづいてくるものも、ふつうにせっしてくるものも、だれひとりとしてしんようしてはいけないわ」


「……アンタん家の者だろ」


「わたくしのではなく“おとうさま”のです。いちばんしんようしてはいけないのがわたくしの“ちち”です。これだけはかならずおぼえておいて。」



言い終えたところで人の気配が戻り体を離すと同時に浴室のドアが開かれ、侍女が入って来た。



「旦那様が明日にせよとの御達しです。」


「……そう。」


会ってくださらないとは思っていたけれど……


「アーグ、そろそろでましょうか。かみをかわかしてごはんをたべて、きょうはねましょうね。」


「…あぁ。」



侍女に二人分の食事の用意を頼みお風呂から上がると私の簡易ドレスとアーグの服が用意されていた。


用意されたのは貴族の最低限の服だけれど、アーグはどう着るのかわからないみたいで、私は嬉々として着させてあげた。


確かにボタンは平民ではあまり見ないらしいからアーグも知らなかったのだろう



浴室を出て食堂へ向かう間、ヒソヒソと話す使用人達をスルーして着いた食堂には一人分の食事だけが用意してあった。



「わたくしは“ふたりぶん”のしょくじをよういするようにいったのですが…」


「下賤な子供とお嬢様が同じ席に着くなどあってはなりません。別に用意してありますから、別室で食べなさい。」


「わたくしのものに、なぜおまえがめいれいするの?いますぐにここへもってきてくださいな。」



後半はアーグに向かって言った侍女に微笑みながら冷たい声で言うと一瞬顔を強張らせたあと、それでも侍女は持ってくる気配はなく、



「アーグ、ここにおすわりなさい。」


「お嬢様っ!!!??」



椅子を引いて促した私に侍女が悲鳴のような声を上げて、壁に控えていたケルトル少年が動いた。



「すぐにこちらへ持ってきてください。」


「そんなっ、」


「お嬢様は決めたことは必ずなさる方です。本当にあの食事をあの者にやるおつもりですよ。」


「ッ…、」



グッと唇を噛んだ侍女が私に一礼して部屋を出て行った。


その様子を冷めた目で眺めていると手を繋いでいた手を軽く引っ張られ視線を向けるとアーグが私を見下ろしている



「飯なくても良いぞ?」


「あなたはわたくしのものなの。けんこうでげんきでなくてはいけないの。ごはんもすいみんもしっかりとりなさいね。」


「……わかった。」


「いいこね。」



頭を撫でようと手を伸ばしたけれど届かなくて、その手を少し下げ頬を撫でた。


栄養不足で細く痩けた頬を撫で固まっているアーグに微笑む


こういうのは慣れていないでしょうね。

だからこれから私がたっくさんしますから



「さあ、いただきましょう。」



運び込まれた食事の前に座らせ、手を合わせるように促し不思議そうにしながらその通りにしたアーグに微笑みかけ、



「いただきます。」


「い、ただきます…?」


「しょくじをつくってくださったかたややさいやおにくをそだててくださったかたへのかんしゃのあいさつですよ」


「食える感謝…。」



そう呟いたアーグはもう一度「いただきます」と口にした。




「お嬢様!お待ちくださいっ!!お嬢さまぁ!」


ケルトル少年の静止を無視してアーグを私のお部屋に連れ込みベッドへ促す


呆れたような気味悪がるようなアーグの表情と視線に微笑み、動かないアーグの手をグッと引きベッドに倒れさせる



「ッ!?」


「きょうだけです。きょうだけ、いっしょにねましょう?いいでしょ?」



驚愕の目を向けるアーグに可愛らしく首を傾げてお願いしてみても、アーグは私を変なものを見る目で見た。


あら…、アーグにはこの顔効きませんのね。


そんなことを思いながら倒れたアーグの隣にコロンと寝転び顔と顔が近いことにクスクスと笑う



「……何笑ってんだ。」


「ふふっ こんなにちかくにひとのけはいがあるのは、はじめてだっておもいましたの。」


「………、」


「わたくしは“きぞくのにんげん”ですもの。そうかんたんにひとをちかづけるのはよろしくないことですわ。」


「…なら、」



コレは?と言いたげなアーグに微笑み、手を伸ばしてその頬に触れる


温かい、人の肌の温もり



「アーグはわたくしの“もの”ですかられいがいですの。」


「……意味わかんねぇ」


「ふふふっ」



眉を顰めるアーグが可愛らしくてクスクスと笑いが止まらず目に涙が溜まった気がした。


少し歪んだ視界に映る“紅色”


それをそっと優しく撫でて目を閉じる



「あしたはいやなことがあるわ。いまはゆっくりねて、きょうのつかれをとりましょう。」


「…なら一人で寝てぇ」


「まあ、それはだめ。わたくしがさみしいもの」



そう言いながら両腕を伸ばしてアーグを抱きしめる


ビクリと体を震わせ固まったアーグの背中をぽんぽんぽんとゆっくりとリズム良く撫でる



「おやすみなさい、アーグ。よいゆめを。」



耳元でそう囁く私の声は自分でも驚くほどに優しい声だった。



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