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悪役令嬢ですが気にしないでください。  作者: よんに
学園中等部編
116/152

私の生き方

お待たせしてしまって本当にすみません!

元気に過ごしています。

ただ物語の続きに苦戦していまして…今後もスローペースになってしまいますが、気長にお待ち頂けたら幸いです。



「――今なんと言ったのかしら。」


領地から王都へ戻りその脚でリアム殿下と共に王城に来て、両陛下と側妃様に謁見の機会を頂き話をした現在。


優しい笑みを見せる王妃様はその表情に反して硬い声でそう仰られた。


それに対して言葉を発したのは私の隣に凛とした佇まいで正々堂々と立つリアム殿下だ。


「側妃を迎える事はありません。私が王位に就いた際はルーナリアだけを伴侶とします。」


「……。」


言葉を発することなく翡翠の瞳が細められて、その視線がリアム殿下から私へ移り、その目に宿る思いはすぐに感じ取れた。


以前から話していたはずなのに何故、と。

貴女は重要性を理解しているはずでしょう、と。


前から覚悟をしていたけれどいざとなって怖くなったんです、なんて言える訳がない。重要性だって理解しているのに諦めることができないです、なんて我儘が許される訳もない。


そう、許されないことだけれど、諦めることも容易に出来ることじゃなかった。


「貴方の話が事実だとして、アクタルノさんは子宮を――」 


「――聖女に話は通しているので長期の治療は可能です。」


「いつそのような話を?貴方達がフィオナさんに会ったという報せはきていないわ。」


「以前からルーナリアの為なら力を貸すと言っていたので。証拠は此方です。」


契約書を見せて淡々と話を進めていくリアム殿下に私は口を挟めなくて、王妃様は指で顳顬を押さえて息を吐かれている。


知らない間に聖女が誰かと契約をしていることを知って頭を抱えたくなるのは私も同様だった。胃の辺りがチクチクする。例えリアム殿下相手だとしても駄目だ。


それにしても、フィオナさんには私の影も付いているのに報告がないのは何故なの。


そう思いながらチラ、と隣を見上げると琥珀色の瞳とかち合ってその目が細められたのを見て少し鳥肌がたった。

……まさか、そんな…えぇ…?


………深追いしない方が良い事もありますしねぇ、ええ、これから気を付けていけば良いのよ、そうしましょう。



「…フィオナさんの事は、いいわ。その契約なら問題はないもの。けれどアクタルノさんだけを娶るというのは私は反対するわ。理由は理解しているでしょう?」


そう仰られながら私を見た王妃様から目を逸らさず見返すと綺麗な翡翠が僅かに見開かれた。


「私は王妃の務めとは世継ぎを産むことであると考えておりました。国の未来を思い国民の為に尽くすことは勿論の事ですが、子を成せる女性である限りその役目は王妃の務めだと。」


「ええ。」


「ですが王位を継承されるリアム殿下は、信頼し支え合える者と国の為に生きることだと仰いました。王妃はそのような存在が良いのだと…、それは私の他にいないのだと仰ってくださいました。」


自分のことをそんなふうに言うのは気恥ずかしいけれど、嬉しい言葉だったから。


隣から向けられる甘い視線を感じてチラ、とだけ目を向けてすぐに背けた。だって甘すぎるんだもの、顔が熱くなって困る。


「感情論は求めていないのだけれど。」


酷く冷えた王妃様の声に初めて向けられたなと瞼を閉じて、ゆっくりと開く。


玉座から私を見下ろすその場所は感情論など不要なのかもしれない。けれど、私ももう諦められない。



望むことはとても怖いと知っている。


願うことが恐ろしく虚しいと知っている。


それでも望まずにはいられなくて、願わずにはいられなくて。


差し伸べられた手を掴むことを恐れて逃げるより、明るい未来を想像して掴み取りたい。



その為に、私は今よりもっと頑張らなければ。



「私は、跡継ぎを産めなかったとしても、国民に慕われ愛される王妃になります。」



今この国を担っていらっしゃる方々の前で堂々と言う言葉ではないだろうと理解しての言葉。


隣から噴き出し押し殺された笑い声と、予想外に国王陛下が口に手を当てて笑っていらっしゃった。


その事に驚いたのは私だけではなくて、王の玉座の隣に座られている王妃様まで目を丸くさせて笑う陛下を見ている。


唯一、王妃様の少し後ろで静観されていた側妃スカーレット様は「あらあら。」なんて微笑んでいらっしゃった。


何が何だかわからない。

嘲笑われることはあったとしても、笑われるようなことを言ったつもりはないのだけれど。


「いや、すまない。前にアクタルノ嬢と同じ事を言った者が居てな。」


「まあ…。」


それは陛下の隣で翡翠の瞳を泳がせている御方でしょうか。


先程までの冷えた雰囲気が消えて僅かに恥ずかしそうな王妃様に言及はせず、私は話を続けた。


「この国の為に私が出来る事を全て成し遂げてみせます。未来を歩む子供の為に、我が国に住む国民の安寧の為に。」


「跡継ぎの代わりに実績を積むと言うの?」


「はい。勿論、諦めるつもりはございませんが、私が王妃となった時は出来る精一杯のことを全て。」


「安易ではないけれど。」


「だからこそですわぁ。」


ふわり、いつものように微笑んでみせる。



ルーナリア・アクタルノとして変わらない信念。


私は私の為すべきことを全うする。


私の大切なもののために。



我儘に、貪欲に、手を伸ばす




「安易ではないからこそ、共存していけば良い。」



隣で手を繋いでくれる人も居るのだから。



淡々としていながら凛々しさと、どこか威のある声で言うリアム殿下が無表情のまま玉座を見て言う。


「何をどう言われようと側妃は迎えません。」


「出来なかった場合、どうするの。」


「他の者に。」


「………。」


口を噤んだ王妃様の表情は不安を表していて、母親心というものがあるのだろうと思った。


リアム殿下にもしもの事があった場合、オスカー殿下が王位につくことになるから。


けれどそんなことは少なからずお産みになられてからお考えした事でしょう。


「………わかったわ。もう口出しません。」


翡翠の瞳を伏せて仰られた王妃様の表情は何故か柔らかく、穏やかなものだった。


その意味を考えようとしたけれどその間もなく口を開かれたのは、ずっと静観されていた側妃様。


赤い瞳が緩やかに弧を描き、艶やかな唇が優しい声で告げる。


「ルーナリアさん。まだ先のことだけれど私とシリス様、二人分の役目を一人で抱えなければならなくなるわ。」


「はい。」


「それはとても難しくて虚しいことだと思うの。だから無理はしないで、周りを頼ることを覚えて欲しい。私はいつでもルーナリアさんの味方だから。」


ほんの僅かに揺れた瞳に宿る思いの優しさに胸がほんわりと温かくなる。


この御方はいつも私に優しい言葉を下さる。


微かに滲む視界に気付かれないように、感謝の思いも込めて深く頭を下げた。


「……私だけ意地悪したみたい…?」


「あらあら。これから挽回する機会は沢山ありますわ、シリス様。シリス様がルーナリアさんに王妃教育をするのですもの。私は外交面や王城内の規律などを教えるわね。」


「有難う御座います、側妃様。」


「うふふ、可愛い娘が出来て嬉しいわぁ。」


「あ、待って!私もちゃんと教えるからね!?意地悪しないから!私も可愛がりたい!」


「宜しくお願い致します、王妃様。」


先程とは別人のように慌ててそう仰られる王妃様に自然と笑顔になる。


本当に嬉しそうに笑ってくださっている側妃様からも、安堵して笑う王妃様にも情を感じられた。


『娘』と呼ばれたことなんて今まで一度も無くて、どうにも擽ったい。



「我も初めての娘と話をしたいが、息子はなかなかに嫉妬深いようだ。」


「王妃様方と同席すれば宜しいかと。」


揶揄いを含んだ陛下に淡々と応える殿下に如何反応すれば良いのかわからなくて曖昧に微笑む。


元々、お父様の年代の男性とお話をする機会が殆どなかったから、同じ異性である王妃様と側妃様以上に緊張する。


それに加えこの国の国王陛下ですもの。

好きな人の父親ですし…、側妃様は母親だわぁ。

………あら、どうしましょう。


明らかに異常な速さで脈を打ち始めた心臓に混乱しそうになる。


「用は済みましたので失礼します。」


「帰還して間もなく来たのだろう。ゆっくりすると良い。時間が合えば夕食も共にしよう。」


陛下の御言葉に深く頭を下げ、リアム殿下のエスコートで謁見の間を後にした。



バタンと重たい扉が閉まったと同時に張り詰めていたものが解けたのか、ふらついてしまって殿下の腕に添えていた手に力が入ってしまった。


「あっ、申し訳、ありません…、」


恥ずかしくて謝りながら手を離そうとして、それより先に大きな手が私の背中に回った。


「ひゃ、」と素っ頓狂な自分の声に羞恥で息が詰まって、熱くなった顔に真っ赤になったのがわかる。


そんな私を真っ直ぐ見ているリアム殿下はいつも紳士的なのに、こういう時は凝視なさるからいやだ。


今も見られているのがわかるから余計に熱くなる。

どうにも耐えられなくて俯くと、


「ルーナリア。」


「ッ、」


甘い、声が…!!声が甘過ぎる…っ!!

いつもの無感情な声はどうなさったの!?


内心大荒れの私に気付いているのかいないのか、リアム殿下が背中に手を回したまま私の顔を覗き見てくる。


そうすると必然的に私にもリアム殿下の御顔は見える訳で、その御顔が見た事もないくらいに甘いものだったら私はもう耐えられないわけで。



「見ないで、ください…」



震えてしまう声にまた恥ずかしくて、この無限ループがずっと続くと知っている。


そして、



「ふはっ、本当に可愛いな、ルーナリア。」



リアム殿下の声とその表情の甘さに私は声の無い悲鳴を上げた。




こんなふうに過ごせていけたら良いなと願いながら、リアム殿下と広い廊下を進み出す。


「疲れているなら抱えるぞ。」


「結構ですお止めください大丈夫ですから。」




甘さ増し増し頑張ります。

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