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子猫



かなりの距離を走り続け、人目の付かない建物の路地に駆け込みジグザグと走る


日傘はたたみ、走り辛いヒールのブーティに訓練が必要だと思いながら角を曲がりそこで足を止めた。


乱れた息を整えてふぅと息を吐き、



「おもったいじょうのさわぎでしたけれど…、ひがいはだいじょうぶですの?」



そう声に出して言う


誰も居ない空間で独り言と思われるかもしれませんが、私は気づいていますわ



上を見上げて目に写ったのは“紅”



今日一日、どこかしらで視界の端に写っていた色



「きょういちにち、わたくしについてなにかよいしゅうかくはありましたか?」


「…貴族のくせに変な奴だなぁ、とは。」


「まぁ。ふふっ」



声は声変わりのしていない男の子の声で、どこか緩い口調で言う“紅”の彼に私は笑ってしまう



その瞬間、上から飛び降りて来た彼


真紅色の長い髪に鮮血のような瞳

少し焼けた肌は健康的だけれど体格はとても細く、綺麗な顔だから女の子に見える彼


どこか緩い口調で緩い雰囲気だけど、その目は鋭く理性的



「…ねこみたい。」


「…は?」



どこか猫を連想させる彼にクスクスと笑う



訝しげに私を見る彼は何歳でしょうか…ケルトル少年よりは下でしょうねぇ


そんなことを考えながら彼をジーッと見ていると居心地悪そうに一歩退いた彼に申し訳なくて微笑む



「ごめんなさい。なんさいかきになりましたの。」


「……9歳。」


「あら、わたくしより3つとしうえですのねぇ」


「………、6歳、か?」


「はい。」



指を使い計算した彼は私を見て少し驚いた顔をされた。


そんなに年齢詐欺ってますかねえ、わたくし。



服は大きく汚れ、ギシギシの髪や所々に泥のついた肌の彼は私をジッと観察するように見ている


こんなに人に見つめられるのは初めてで少し照れてしまいます



「そんなにきょうみぶかいですか?」


「……そうだな、貴族の子供とは思えねぇ。けど、今まで見てきた大人より“大人”な気もする。…子供だけど。」


「あら…」



中々に良い目をしていますのねぇ

頭の回転も良くて………欲しいです。



にっこりと微笑んだ私に目の前の紅の彼は訝しげに顔を歪めてまた一歩退いてしまう


あらあら、逃しませんわ。



「ねえ、わたくしのモノになってくださらない?」



笑顔で告げた私に彼は少しの沈黙のあと、



「見返りは?」



何てこと無いような顔でそう言った。



あぁ良いですね…私が望む性格ですわ

利害関係の一致は大事です、私もそう思います。



「せいかつのほしょう、しょうらいのためのけいこ、べんきょうなど。そのときにあわせてあなたののぞみをききましょう。かなえられるものならかなえてみせます。」


「…アンタが叶えられんのか」


「ええ、かなえてみせましょう。」



にっこり微笑む私をジッと見たあと、紅の彼は軽薄そうな笑顔を浮かべた。



これで、独りではない……かしら。



「あなた、おなまえは?わたくしはルーナリアともうします。ルーナリア・アクタルノです。」


「オレに名前はねぇよ。……“赤鼠”って呼ばれてるけど。」


「あら、おうとについたとききいたなですわ。けいびへいによくおせわになられるようね。ふふっ たのしみねぇ」



きっと、新しいことばかりのはずですわ



こちらをキョトンてした顔で見る紅の彼に微笑み、鮮血のような瞳を真っ直ぐ見つめ考えて―――




「あなたのなまえは【アーグ】。」



「あーぐ…、」



無意識に呟くアーグは何度か名前を繰り返し、何度目かで目を瞬かせ、少し笑顔を浮かべた。



それは軽薄そうでもなく、作り物でもなく、


アーグの笑顔




「さあ、いきましょう?」




私の手よりも少し大きく温かい手を取り、日傘をさして私とアーグは路地から出た。







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