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8、異変

 父は勇者様を歓待しているという。私はお母様と一緒に控えの間にいた。


「勇者様って、どんな人なのかな。お母様」


 お母様は首を(かし)げる。元は父の侍女をしていたお母様は苦労人だ。十四歳で私を生んだお母様は二十八歳。私たちはよく姉妹と勘違いされている。


「あんまり人相(にんそう)はよくないわ。女の子を二人連れているけど、まるで女を奴隷みたいに。気をつけなさい。ティナ。あんな男とは関わりを持っては駄目」


 お母様は辛辣(しんらつ)なことを言った。私は従者たちとパーティーを組んで魔物を退治している。子爵令嬢・ティナ・エンブレズといえば、この街では有名だ。レベルでは勇者様に遠く及ばないが、私は勇者様のパーティーに入れて(もら)いたい。


「えー、勇者様はお優しいです。笑顔を絶やさない方だとお父様も(おっしゃ)っていますし」


「それは私たちを油断させるためです。あの勇者は宰相と組んでいる。宰相の馬鹿息子が王女様に言い寄ったこと、あなたも知っているでしょう。宰相一族は汚職を極め、民のことなど考えません。宰相の娘・ルナなど親の七光もいいところです。あんなパーティーに入ってはいけませんよ」


 お母様はお父様と正反対のことを言われる。お父様は私に勇者様のパーティーに入るように命じた。


『お前の美しい容姿ならば、勇者様も気に入るだろう。それにあのパーティーには弓使いがいない。弓使いのクラスを持つお前はパーティーで重宝(ちょうほう)されるはずだ。パーティーの中ではルナ様に近づけ。ルナ様のお父上は宰相閣下だ。ルナ様のコネで私は王都に戻り、大臣の職をいただこう』


 お父様に言われた言葉を私は反芻(はんすう)する。


「ティナ様、子爵様がお呼びです」


 侍女が呼びに来た。私は席を立つと、客間に向かった。


*****


「おい、この()、好きにしていいらしいぜ」


 私は声のするほうに目を向けた。(まぶ)しい。陽の光に私は目を細める。私はいつものように冒険者たちに捕まっていた。今度のパーティーは優しくしてくれるだろうか。私は助けを求めるため、口を開く。


「こいつがギルドで話題になってた奴隷ちゃんか。『どうぞご自由に』だってさ。この街の連中は趣味が良いね」


 私は喉から声を出そうとするが、ぱくぱくと口を動かすだけになってしまった。


「何でも両親が魔族に挑んで返り討ちにあったらしいぜ。イルバンシュ子爵の命令で王国に泥を塗った恥さらしってわけで街中の見世物になったって」


「声も潰してあるし、左目も(えぐ)られてんのか。魔族ではなく、街の者の仕業か。怖いねえ」


「一応、元は貴族のお嬢様らしいぜ。かわいそーにな。乞食みてえ」


 若い男たちは笑い声を上げた。駄目だ。この人たちも私を助けてくれなさそうだ。私は逃げようとする。


「広場に連れて行ってやろうぜ。こんな美少女とヤるのにこんな路地裏じゃ、味気ねえ」


 私は両手両足に鎖があるのに気が付いた。これでは逃げられない。


「ひッ」


 広場を掃除していたギルドの受付の女の子が短く悲鳴を上げた。広場に連れてこられた私は強引に立たせられ、受付の女の子の方を向かせられる。


「受付さん、こんにちはだってさ」


「そ、その()とは関わり合いになりたくないんですよぉッ」


 受付の女の子はギルドの屋内(おくない)に引っ込んでしまった。


「やれやれ。嫌われたもんだぜ。なあ?」


 男たちが私を笑い物にした。反論したい。それでも、声は出ない。悔しい、とも思えない。最初の頃はそういう気持ちはあった。今は痛ぶられて、感覚が麻痺(まひ)しているようだ。


「ほら、見ろよ。こいつの泣きそうな顔。笑えるわ―。俺たちイケメン勇者たちに話題をさらわれて、イライラしてるんだよね。ちょっとストレス解消させてよ」


 リーダー格の男がにやにやしながら、剣を私に突きつけてくる。


「美少女の解体ショ―だ。へへっ、まずは耳からな」


 通行人たちは見て見ぬふりをしている。嫌だ。死にたくないっ、誰か助けてっ。


「あー、何言ってんだか、全然わかんね―」

「おい、片耳だけにしろよ。耳が聞こえないと、俺たちの言葉でこの乞食(こじき)ちゃんが傷つくとこ見たいんだからさ―」

「へへっ、わかってるって」


 私は目をつむる。だが、男の手が(まぶた)をこじ開ける。


「おい、しっかり俺らを見ろよ。楽しませろ」


 男が剣をかざした。


「いっくよーん」


 嫌だよ、やめてよ。私は助けを求めるように男たちを見た。男たちはにやにやしているだけだ。

 (なま)(あたた)かい血が私の全身にかかる。あれ、耳が痛くない。


 剣を持った男はゆっくりと倒れた。


「勇者レミットちゃんじゃない。ああ、全くみじめな姿で劇的ビフォーアフターってヤツね。でも、大丈夫。この街は私たち魔族が支配に置く」


 聞き覚えがある声。魔王の幹部・浅黒い肌の美女・ビゼルッテだ。両親の仇で私がかつて戦った宿敵。


「ひいいいいいいいいっ、リーダーがああああああっ」


 男たちがあとずさる。ビゼルッテは私の前に立った。私を守ってくれるの?


「大広場を占拠する。みな、行動を開始せよ」


 ビゼルッテがよく通る声で告げた。城門の辺りが騒がしい。一体、これから何が起こるというのだろうか。私は恐怖に体を強張(こわば)らせた。



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