5、参謀・シドニックは本性を露わにする
「アイリスめ、やはり裏切ったか。ま、計算通りだな」
俺はつぶやくと、水晶を覗き込む。視覚共有という特殊な魔法がアイリスにはかけてある。アイリスの視覚・聴覚はすべて俺に筒抜けというわけだ。間抜けなアイリスは俺のスパイを無自覚にやっている。馬鹿な女だ。
そして、アイリスはあっさりと裏切った。おかげでアスコットを処分するのが遠のいたぞ。全く、アイリスにはあとでお仕置きが必要だな。
しかし、アスコットのパーティーもクズ揃いだな。アイリスが普通の女の子に見えてくるくらいだから、まともな連中じゃない。しかも、妹のアルメナもどこかに消えている。まともなのがルナティック・ローランドくらいだ。彼女には恨みがないから、殺さないで性奴隷くらいで勘弁しておいてあげよう。
俺は満足すると、外に出る。
「大賢者よ、勇者アスコットの様子はどうだ?」
「相変わらずですよ。女をはべらせて、良い気なものです」
「取るに足らん、小物という訳か。女は余に仕える奴隷として飼ってやろう。ウワハッハッハ」
魔王は大笑いした。角が生えているが、人間態であまり怖くはない。魔王ザルキア、複数いる魔王の中でも最弱でアスコットにやられそうになっている落ち目の魔族だ。俺がアスコットの元パーティーということで重宝してもらっている。
さて、どうするか。アスコットのお手並み拝見だな。
*****
私の名はシドニック、勇者アスコットの参謀だ。
「アイリスを囮に使う、か。相変わらず発想がおかしいな」
アイリスはやはり使い捨ての道具のようだ。婚約者への扱いとは思えない。
「モルドアに脅迫させる。女に飢えているあいつのことだ。乗ってくるさ」
モルドアは元荒くれ者の犯罪ギルドにいた男だ。殺人、強姦などの犯罪歴があり、死刑執行される予定だったところ、ローランド宰相に命を救われた。宰相は勇者パーティーの育成、支援に力を入れており、パーティーに多額の援助金を支出している。宰相の勧めでモルドアは私たちのパーティーに入ってきた。
こんな裏事情を知っているのは私とアスコット、そして宰相の娘・ルナくらいだ。他のメンバーは知らない。爽やかな王子様キャラのアスコットは王国の女性たちに人気がある。しかし、裏の顔は平気で人を使い捨てる悪魔の様な男だ。自己中心的で病的なまでにナルシスト。出会った頃は真面目な青年だったアスコットも宰相たちと付き合いはじめて、歪んでしまった。
宰相は犯罪ギルドのパトロンとなって、金儲けにせいを出している汚れた政治家だ。前の宰相を罠にかけて、失脚させ、王国を思うがままに操っている独裁者である。国王も王女もお人好しなので、そのことに気づいていない。
「アイリスは伯爵令嬢だぞ。実家のオーギュスト家が黙ってはいまい」
「そこは宰相を使って黙らせるさ。ルナは俺の言いなりだ」
「・・・・・・」
私は沈黙した。ついにこの男は伯爵家すら乗り越えた。もはや、言うことなどない。私もそのおこぼれにあずかることにしよう。
「何っ、モルドアと一緒にアイリスを調教するだと?」
「ああ、いいだろう?あの豊満な胸をいいようにできるのだからな。お前についてきたのは女をいいようにできるからだ。あと財宝と地位かな」
「クク・・・・・・いいだろう。好きにしろ。ヴィルを誘き寄せるためにしっかりとしつけるんだぞ」
私は笑みを浮かべて、うなずいた。