3、ヴィルは役立たずの伯爵令嬢に二度目のチャンスを与える
アイリスを支配下においてから四日後、アスコットに送った招待状に返事があった。
「なに、お断りします。だと」
アイリスが震えながら、俺の足元にはいつくばっていた。内容は魔王討伐の高レベルクエストをこなすために忙しい、というものだ。体の良い断りの返事だった。
アイリスが土下座している脇にはアイリスのお世話をしてきたメイドたちが並んでいるが、俺の支配下にある。皆、アイリスを馬鹿にしたように見ていた。この女、相当、嫌われていたみたいだな。身分の下の者に嫌われるというのはその人物に徳がない証拠だ。
アイリスは身分は伯爵令嬢のままだが、服はメイド服に着替えさせて、こき使っていた。自分が主人の屋敷で雑用係というみじめな身分に転落している。
「予想が外れたようだな。アイリス、どうする?」
「そ、それは・・・・・・」
アイリスはおどおどとして言葉に詰まったようだ。あまりの恐怖に思考停止状態というわけか。俺は杖をがんっと打ち鳴らす。
「ふむ。魔法炎速球の練習台になってもらおうか。安心しろ、すぐに蘇生させてやるからな」
「わ、私がアスコットのところに出向きまぁすっ、そ、それでアスコットを誘惑してヴィル様のところに連れてきます。どうかそれでご容赦下さい」
「ふむ」
「くすくす。命乞いとは何て見苦しい」
「アイリス様、無様すぎ。かわいい顔が台無しよ~」
メイドたちの嘲笑が俺の耳にも届いた。アイリスは顔を赤くしている。アイリスの胸は大きく膨らみ、男を誘惑するには十分だ。
「良かろう、アイリス。必ずアスコットを連れてくるのだぞ」
「はいッ、必ずや」
傑作だ。アイリスは高位の魔法使いだが、アスコットはその上をいく実力者だ。そのアスコットを美少女のカルデや聖女エレノアから引きはがすというのか。そんなことできるわけがない。カルデやエレノアは大貴族の娘で家の格もアイリスよりも高い。
冷酷なアスコットのことだ。アイリスを切り捨てる算段を進めているのだろう。ここでアイリスがアスコットを連れてこればそれでいいし、もし失敗すれば、アイリスにはお仕置きをしてやろう。この女も悪人だから、罰を受けるべきだ。
俺はアイリスを見下しながら、そんなことを考えた。
*****
勇者アスコットは魔王ザルキア討伐の計画を進めていた。
そのためにザルキアの魔王城のすぐ側・キュリランスという都市に滞在している。
アスコットは豪華なベッドで寝ていた。その横には魔法使いにして、恋人のカルデがいる。アスコットもカルデも衣服をまとっていない。カルデは甘えるようにアスコットの右腕に頭を載せていた。
「アスコット、起きてくれ。私だ。シドニックだ」
「うーん」
アスコットは目を覚ます。そして、カルデも目をこすりながら、目を開いた。
「どうしたんだよ、シドニック。まだ討伐は明後日のはずだ。今はまだ寝させてくれ。疲れてるんだ」
「アイリスが来た。お前にどうしても屋敷に来てほしいんだと」
「ちっ、アイリスめ。空気の読めない気の利かない女だな。・・・・・・いや、待てよ」
アスコットは笑みを作った。
「いいことを思いついた」