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20、聖女VS大賢者


「悔い改めましょう、ヴィル様こそが私たちの新たなる統治者であり、仕えるべき主人です」


 聖女ミルティ―ニュは恍惚(こうこつ)とした顔を浮かべ、信者に語りかけた。


 ユーグリッド王国の王都テラノフェイス、大神殿の頂点に君臨する聖女はこの国に十三人しかいない選ばれし純潔を保ちたる聖少女だ。


 ミルティ―ニュはその聡明さと信仰の篤さで知られる王国の有名人であり、宗教界のアイドル的存在である。十七歳にして、王国内部の五千万人の信徒に影響力のある実力者だ。


「ヴィル様、万歳―。クソ王家出ていけー!」

「アンジェシカに天の裁きをーーーッ」


 信者、である王都民は口々に王家を(ののし)る。都市キュリランス攻略後、魔王軍に進撃に王国側はなすすべもなく、打ち破られ、王都とその東に広がる都市二十七か所残すのみとなった。王都には難民が流れ込んで、治安が悪化。公然とアンジェシカ王女とその一派処刑の機運が盛り上がった。


 ミルティ―ニュらパレス教首脳部は方針を転換。それまですり寄っていた勇者パーティーの司令官であるアンジェシカ王女と手を切ると、慈愛の王女・第四王女・クラウディアに乗り換えた。


 ミルティ―ニュの父親は十五人の枢機卿のうちの一人。教団にリーダーはおらず、枢機卿の合議によって決められる。つまり、ミルティ―ニュは最高指導者層の娘であり、この場において逆らえる者などいない。


「聖女様、ヴィルは元々は村人に過ぎない田舎者です。恐れる必要はございません」


 場の空気に冷や水をかける怜悧(れいり)な声、神童とうたわれた大賢者・ファルティナ・エンダ―ラッド。薄桃色の髪にすらりとした綺麗な手足、濁りのない瞳。まるで一国の王女とみまごう気品さを備えるファルティナは教義に従い、目立たない質素な服を着ているが、その滲みでる色気と気品は幼い彼女を場に輝かせるのには十分だった。


 そう、聖女がかすむ程に。


 聖女ミルティ―ニュの細眉がぴくりと動く。気に食わない、一瞬だが、そんな動作だった。しかし、顔には穏やかな微笑を張り付け、聞き分けのない子供を諭すように柔らかく話し出す。


「村人の出身であるから差別するというのは我が教団の教義に反します。教団は信徒に身分による差別を」


「それは綺麗事です。村人ヴィルは自分に逆らう者は殺戮し、女性は力任せに凌辱すると聞いています。彼が貴族の子弟であったとしたら、このような粗野な真似をするでしょうか。卑劣で野蛮、それは育ちの悪さからくる彼の劣等感の裏返しに見えます」


「・・・・・・私はそうは思いません。ヴィル様は王家に従い、人々を弾圧していた者たちを取り除いているだけでしょう。悪人を懲らしめること、これも我が教団の教義にかなう。私はヴィル様に服従することこそ、王国民にとっての幸せと考えますが」


「ヴィルは王国民にとっての災厄。取り除く他、ございません」


 聖女に対して、一歩も引かない大賢者ファルティナにミルティ―ニュの取り巻きたち顔色も変わってきた。


「ふぁ、ファルティナぁ、あんまり聖女様に盾突くのはやめようよぅ、みんな怖い目で僕らのこと睨んでるよう」


 ファルティナの隣に座る男が情けない声で懇願(こんがん)する。ジーン・ユーグリッド。国王の甥に当たるお坊ちゃまだ。魔法の能力も今一つだが、ファルティナの婚約者だ。もちろん、親同士の決めたことなので、ファルティナはこの男の言うことに耳を傾ける必要はない。


「ヴィルは私が殺します」


「ヴィル様と熱心な信徒たるエンダ―ラッド家のファルティナ様が。嘆かわしいことです。ああ、一体私はどうしたら」


 困った顔になったミルティ―ニュは引く気配を見せた。分からず屋の貴族令嬢に困り果てる聖女様の構図をうまく演出して、信徒たちを味方につける。うまいやり方である。


 ファルティナも馬鹿ではない。ミルティ―ニュの意図に気づいて、引きさがることにした。


「これから私は魔竜・ナザニスの力を借り、災厄たるヴィルを排除します。そのときに願わくばミルティ―ニュ様の目が覚めることを願っております」


 颯爽とファルティナはその場を立ち去る。ジーンが「ファルティナ~、待ってよぅ~」と情けない声を出しながら追いすがった。信徒たちの視線もファルティナを追う。信徒の注目を浴びるファルティナに憎悪のこもった目つきでミルティ―ニュは見ていたが、気づく者はいなかった。


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