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19、ヴィルは勇者ファ―レを屈服させる

勇者パーティーのユマの悲痛な叫び声が響いている。


「ルナ様、少しでも妙な動きをしたら、お仕置き決定ですよぉ~、さあ、目を開いて、この状況を楽しんで下さいね~」


 兎耳の獣人・トリュクが私の耳に(ささや)く。私は強制的にユマが強姦されるところを見せられていた。私の体は恐怖に強張り、何もできない。こうなる前に父の命令で勇者パーティーに入るんじゃなかった。他の貴族令嬢と同じでお茶会に興じていれば良かったのに。


 調子に乗ったティ―チ・トラントがユマの首を締め始めた。ユマは苦しげに(うめ)くだけだ。


「さて、勇者ファ―レよ。魔王様に忠誠を誓え」


「そ、それは」


 七魔将はすでに勇者パーティーの面々を確保していた。レミットをはじめとして、勇者パーティーは地面に抑えつけられている。


「まだ抵抗するか。仕方あるまい」


 七魔将の一人・斧を担いだ悪魔・シラクゼ―タが笑みを浮かべた。妖艶(ようえん)な美女で胸元を大きく強調している。高級娼婦のような格好で下品に思える。


「ギャアアアアアアアアッ」


 美女の斧がファ―レに襲いかかった。右手首から先が切断される。


「ほう、なかなか良い悲鳴を(かな)でてくれる。今日からお前は豚だ。四肢(しし)を切断し、飼育しよう。王都を占領したときにアンジェシカ王女に見せたら、喜ばれよう」


 その言葉にファ―レの目が大きく見開かれた。


「痛いいいいいいっ、そ、それだけはお許しをッ何でもしますぅ、何でもしますからぁっ」


 ファ―レは涙をこぼしながら、ヴィルの足もとに屈み、ヴィルのローブにすがりついた。血がヴィルにもかかる。


「クックックック。見たか、キュリランスの住民よ。勇者は魔王様に屈服したッ、次はこの王国を呑みこむ。アンジェシカ王女も奴隷とするッ、勇者などいう弱者を持てはやすなッ、これからは魔王様に従えッ」


 シーンと静まり返る群衆。まさに地獄絵図と言えよう。そのうち、ヴィルはファ―レの装備をはぎ取り、一糸まとわぬ姿となって、(はずかし)めた。


 残酷な魔王の手先・ヴィル、それは勇者アスコットにすがるついてきた気弱な村人の少年と同一人物とはとても思えない変貌ぶりだった。


*****


 あれから一カ月が過ぎた。都市キュリランス陥落後、十七もの都市が陥落。王国は大賢者ヴィル率いる悪魔の軍団に蹂躙(じゅうりん)された。


 男は労働奴隷として、女はヴィルにかしづく性奴隷、あるいは悪魔たちの玩具となっていた。王国の領土は大きく削られ、王都にも難民が押し寄せた。


 その中で王女アンジェシカや宰相の責任追及の声が上がった。


『無能な王女の勇者パーティーがヴィル様の怒りに火を注いだのだ!王女を生贄(いけにえ)に捧げよ!ヴィル様に降伏しようではないか!』


『そうだ、あの小娘の責任だ!』


 王国内部の恭順派は第二王女、すなわちアンジェシカ王女の妹・十六歳のクラウディアを代表に結集して、アンジェシカ王女に対するクーデターが勃発する危険性を(はら)んでいた。

 

 アンジェシカ王女はテーブルについた面々を見回す。剣聖に秘密警察のトップ、大賢者に大魔導士に宮廷魔術師、いずれもアンジェシカと年の変わらぬ少女たち、その実力は勇者パーティーと比較しても遜色(そんしょく)がない。


「アスコットの行方はまだ分からないの」


「はっ、目下捜索中ではありますが、見つかっておりません」


 女騎士、シ―リンが応じた。


「忌々しいことね。あの男さえ、差し出せば私は許されるというのに」


「降伏なさるのですか!?」


 シ―リンが驚いたように声を上げた。これだけのメンバーを集めたのは戦うためとシ―リンは思っていたのだ。


「当り前でしょ!ヴィル様の奴隷にしていただくの!どうせあんたたちだって勝てっこないんだからさあ。あはは、ヴィル様に奉仕する内容を今から考えておかなくっちゃ」


「姫様、お気を確かに」


 シ―リンが思わず声を上げるが、アンジェシカ王女はへらへらと笑う。


「手土産だって用意してあるのよ。ほら」


「ひい、あなたはレイナ子爵令嬢ッ」


 手枷と足枷をつけた少女が連れてこられた、彼女の眩しい肌は拷問によって痛ぶられたことを想像させる痛々しいものだ。


「姫殿下、アスコットの妹君ですが。これが手土産というわけですか」

「そうよ。兄のしでかした不始末の責任は取ってもらうわ」


 アンジェシカ王女の物言いにメンバーの中に動揺が走る。


「姫様、レイナ子爵令嬢の責任には及びません。このファルティナ・エンダ―ラッドの父祖をより受け継いだ大賢者の能力をもって、ヴィルを殺します」


 碧い目をした金髪の少女が静かな声で言った。家が代々大賢者を輩出してきたエンダ―ラッド家、その中でも神童とうたわれ、魔王に匹敵する実力を持つファルティナ・エンダ―ラッド。アンジェシカにとって、最終兵器ともいうべき、人物である。


 アンジェシカは目を見開く。


「それ故にレイナ子爵令嬢への暴虐は無用と心得ます。私がケリをつける」

「・・・・・・」

「敗北があったとしても、私の独断で動いたということにしてください。姫様の責任には及びません」


 アンジェシカは何も答えない。


「ヴィルという卑劣な男をこのまま、のさばらせていくわけには参りません。このファルティ、エンダ―ラッド家の家名をかけて奴を仕留めて見せます」


 普段な物静かな少女の決意にみんな気押されたかのように黙ってしまった。ファルティナだけが涼しい顔をしている。これが新しい惨劇の始まりとなるのだが、アンジェシカ王女はじめ予知できるメンバーはこの中にはいなかった。


これで一章は終了です。次章からはヴィルが本格的に復讐をはじめていきますので、よろしくお願いします。

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