17、ヴィルは美少女勇者レミットのパーティーを壊す③
「ティ―チぃぃぃぃ、起きてえっ、目を覚ましてえっ」
勇者ファ―レがティ―チの体にすがりつく。しかし、ティ―チは動かない。
「ティ―チ、何でどうして」
レミットもティ―チの手に触れる。ティ―チは何の反応も示さない。
「ダ、ダズゲテ、シンジャウ」
やっとティ―チが口を開いた。どうやら、生きていたようだ。
「ユマっ、回復魔法をかけてっ、傷を癒してあげて」
ファ―レの言葉に私は身を固くした。ヴィルや魔人たちの視線がこちらに釘づけになる。
それだけじゃない。群衆も私を見ている。ああ、何てことだ。本来は補助役に過ぎない私が注目を浴びるなんて。全く嬉しくない。
「ユマ、ファ―レのパーティーの治癒師か。ユマよ、チャンスを与えよう。私の部下となれ。魔族化し、ともに魔王様にお仕えしよう」
私は無言でヴィルを見る。
「レミットやファ―レなど、お前の回復魔法がなければ役立たずであったはずだ。お前の存在抜きにして、パーティーは成り立たない。それともここで私に逆らってティ―チを助けるのか。それもいいな。ユマ、そのときは魔王様のペットとして、お前を連れていく。極上の恐怖と恥辱を味わい、生まれて来たことを後悔するほどの絶望を与えてやる」
恐怖に足が竦む。この男は悪魔か何かか。もはや魔族すら超越している極悪非道ぶりだ。この男に逆らえば、凄惨な死が待ち構えていることは疑いようがない。
「ヴィル様、私は・・・・・・」
私は恐怖に逆らいながら、足を進める。そして、ヴィルの立っている場所に近づく。
「ユマ、裏切る気ですかっ、恥を知りなさいっ」
「そうよっ、今までファ―レに散々世話になってきたでしょう!?」
魔法使いのルキアと賢者のリヴァーティルが私を責める。絶世の美少女の二人は侯爵家令嬢だ。男爵令嬢の私のことは家格からして、見下している。
勇者パーティーの中でも見目麗しい貴族令嬢で編成されたファ―レのパーティー。実際はセクハラナンパ男のティ―チのハーレムだった。そう、私を除いては。なぜかティ―チは私には手を出してこなかった。私も容姿には自信がある。貴族や大商人から求婚されたこともある。
「よく来た。ユマ、歓迎しよう」
私はとっさに腰に下げたナイフを引き抜いた。狙うのはヴィルの側にいた女。ヴィルの妹、アルメナっ。
「ティ―チ、起きてえええええええええっ」
アルメナの首筋にナイフを突き付けて、私は遠くから回復魔法を唱える。すると、ティ―チの体から火傷の痕が癒えていく。
「こう見えても、私も勇者パーティーの一員よっ、誰が仲間を売ったりするもんですか、低脳な平民っ。殺されたって、あなたの奴隷なんかにならないわっ」
私は勇気を振り絞り、ヴィルを挑発した。ああ、お父様、お母様、アンジェシカ王女殿下、見てくれていますか。ユマは王国に忠誠を誓う勇者パーティーの一員としての責務を忠実に履行致します。
「ククッ、アッハッハッハ」
ヴィルが右手で顔を抑え、上を向きながら高笑いを上げた。余裕ね。少しでも動けば、妹が死ぬわよ?
「我が愛しの、未来の妻に迎えるアルメナを人質とは。アルメナに俺の子を産んでもらうことを知っての所業かね。ああ、君は本気で私を怒らせた。これはアンジェシカ王女殿下にお仕置きしてあげないといけないね。全く小物が余計な真似をする」
私は耳を疑った。妹を妻にだって、クルッテル。私はヴィルに対抗するように睨みつける。ヴィルは笑みを浮かべたままだ。