15、ヴィルは美少女勇者レミットのパーティーを壊す
ティ―チ、愛しい婚約者のくしゃくしゃになった顔が目に映った。親同士の決めた許嫁で
最初はそれほど好きでもなかった。でも旅を続けていく間、私たちは深く愛し合うようになっていた。私の大事な人、それがティ―チ・トラントだ。
「ティ―チに手を出さないでっ」
私は気力を振り絞って、剣を取る。愛剣・ブレイズメディカルト、魔を裂き、仲間へのヒーリング効果もある聖剣だ。嬲られてきた過去が蘇る。
「ほう」
感嘆の声をヴィルが上げた。私が狙うのはマーモデウスだ。私のレベルなら互角に戦えるはず。マーモデウスこそが司令塔。あとの七魔将など、あと回しにするべきだ。
私の剣先にマーモデウスは顔色を変えない。余裕というわけか。舐められたものね。
その時だった。私の体は背後から抱き締められた。
「やだなあ。レミットちゃんは私の玩具なんだから」
ビゼルッテだった。彼女の握力によって、私の体は身動きができなくなる。余裕の笑みを浮かべたマーモデウスが聖剣に触れる。
ダンジョン奥深くに潜り、命がけの冒険でティ―チたちと手に入れた私の愛剣がいとも簡単に砕け散った。
「人間ごときが魔族に勝てるとでも。思い上がりも甚だしいわ。あなたが人間たちの玩具になっていた間、我々はもっと強くなっていたの。フフ。驚いちゃった?」
「ああ・・・・・・そんなぁっ、そんなことってぇ」
私は絶望を覚える。ヴィルはにやにやと笑っているだけだ。
「さて、美少女勇者レミットよ。パーティーメンバーの命をいただくとしよう」
からかうようにヴィルが言うと、ティ―チが顔色を変えて、叫んだ。
「そ、そんな話が違うッ」
「黙れ。勇者に加担しただけで万死に値する」
ああ、可哀そうなティ―チ。騙されていたのね、そんな奴の口車に乗って、相変わらずおっちょこちょいね、あなたは。私はティ―チの言葉に憎しみではなく、憐憫の情しか感じない。
「そ、そうだヴィル様ッ、私めにレミットを絶望させるのを手伝わせてくださいませぇ」
哀れなティ―チはファ―レに何か囁いた。ファ―レは私に比べれば、実力は今一つだが、アンジェシカ王女に気に入られ、勇者になっていた。
「ほ、ほら。レミット、見てくれ。僕たちは愛し合っているんだッ、お前なんかもういらないんだよおっ」
ティ―チとファ―レはキスをかわした。それだけではない。二人は着ている装備を外すと、熱い抱擁を交わして、お互いを求め合う。
公衆の面前で喘ぎ声を上げるファ―レ、恥ずかしくないのだろうか。冒険者や市民たちはファ―レとティ―チに釘付けになった。
「どうだ、彼氏を寝取られ気分は。レミットよ」
私は二人の有り様を見せつけられ、打ちのめされていた。こんなに酷い(ひどい)目に遭っても、いつかはティ―チが助けにきてくれると信じていた。それが家柄だけのファ―レに取られていただなんて。ああ、そんなっ、そんなことって。
私は悔しくなって、唇を噛んだ。
「ククク」
私の頭を踏みつけると、ヴィルは邪悪な笑みを浮かべ、見おろす。
「何という快感だ。勇者どもに絶望を与えるのがこんなに楽しいものとは」
ヴィルが私の頬を右手で掴む。
「もっと楽しませてくれ、レミット」