14、美少女勇者レミットは元彼に見限られる
レミット・フリグネットの金髪を引っ張り上げると、冒険者たちの前に連れて行く。
「レミットだっ、あのガキ、生きてたんだ!」
「どうするんだろう、処刑するのかな」
ザワザワと冒険者や市民が噂する。イルバンシュ夫人の悲鳴が背後で聞こえるが、無視した。
「お前を助けろ、とはみんな言わないな。勇者のくせに人望がない」
「・・・・・・」
レミットはあきらめたように目を閉じた。ムカツクな。人格者のつもりか。血統主義の貴族のクズ女が。湧き上がる怒りを抑えて、俺はレミットに語りかける。
「レミット、チャンスをやる。俺にかつて吐いた暴言について、謝罪しろ」
「そのことについてはすみません。心からお詫びします」
意外と素直にレミットは謝罪した。どうもこの一年、レミットは血統主義を改めて、善良な人間へと変わったようだ。だが、それで許すほど、俺は甘くない。イルバンシュ夫人だけでは足りない。俺の標的である勇者アスコットを追い詰める為には元勇者のレミットを徹底的にこき下ろす必要がある。
勇者が人々にとって有害な存在であることを知らしめなければならない。そうでなければ、俺の復讐は終わらない。
「この女を知っているかっ、冒険者たちよっ」
俺は大声を出した。皆の視線が俺に集中する。
「魔王討伐に失敗した勇者レミットだ。今から彼女にチャンスを与えよう」
マーモデウスら七魔将が進み出る。レミットが怯えたように俺を見る。
「レミット、愛用の剣とお前の貴族パーティーだ」
俺はあらかじめ他の都市で魔物退治をやっていたレミットのパーティーメンバーを拘束して連れて来させていた。やったのはマーモデウスだ。やはり、使える魔族だ。
パーティーメンバーは女性ばかりで男が一人だけ。
皆が不安そうにレミットを見る。
「レミットよ、剣を取れ」
レミットは呆然としていた。目から涙が零れる。
*****
俺の名前はティ―チ・トラント。魔術師だ。俺は恋人である、いや、そうだったと言うべきか、レミットを見ていた。涙を流し、薄幸の美少女令嬢といったところか。悲劇のヒロイン気取りだ。私可哀そうな悲劇のヒロインですってか。嗤わせてくれるぜ。
マーモデウス様の襲撃を受けた俺たちは全員ヴィル様に忠誠を誓った。マーモデウスは強すぎる。こんな化け物が陶酔している大賢者ヴィルは俺が一年前に会った無能のヴィルとは同一人物とは思えない。
「ねえ、ティ―チ。あの様子だとレミットは戦えないんじゃ」
「ああ、ファ―レ。そうだな」
ファ―レは俺たちのリーダーであり、新勇者様だ。そして、俺の今の彼女でもある。レミットと同じ伯爵家のご令嬢だ。
「レミットが戦いを放棄したら私たちは」
「大丈夫だよ。ファ―レ。レミットが俺たちを見捨てるはずがないよ」
そう言いながら、俺はレミットを見る。
「どうしたのだ。レミット。お前のかつてのパーティメンバーを皆殺しにしてしまうぞ。さっさと剣を動かせ」
冷たい声が飛んだ。ヴィル様だ。
「助けてくれ―、レミット。僕だ。ティ―チだよ!このまま死ぬのは嫌だあ」
俺は大声を張り上げた。ヴィル様とは事前に綿密に打ち合わせしてある。さーて、レミット、お前が地獄に落ちるところをしっかりと見ておいてやるよ。もう貴族じゃない奴隷のお前なんていらないしな。




