【悲報】俺氏、死ぬ
空から降ってきたトンデモ美少女に神様になれと言われたその日。
俺は死にました。
俺の目の前にいる美少女がまたとんでもないことを言い出す。
「アタシは一応天使なんだけど…」
「はぁ?」
やっぱり何を言ってるのかまるで分からん。この子はあれか?厨二病ってやつか?自分があまりに可愛いから『きっと自分は天使なんだ!』ってナルシストに目覚めちゃった系のヤバい人か?
黙ってれば美少女なのに…なんて残念な子なんだろ…
「うるさい!静かに聞きなさい!」
あっ、はい。
でも天使ってのは案外ウソじゃないかも知れない。見た目が天使級にかわいいし、何よりこの子空から降ってきたもんな。天国から落ちてきたっていうのなら納得だ。
「アタシいつもは天国に住んでるのね。…だけど神様、天国の王様が急に『神様やめる!』って言ってどこか行っちゃって。」
ん。この子が天使である前提で話が進んでるが…うーん…。
だけど美少女の言うことだ。なんとなく信じたくなる。説得力、五割増し。とりあえず騙されたつもりでこの子の話を聞くことにした。
というか神って職務放棄できるのか。俺たちは普段そんなテキトーな奴に祈ってたんだな。
「で、神様の後任にアンタが選ばれた、ってワケ。以上。」
「おい!最後!最後テキトーだな!」
だいぶ大切なところを端折られた気がする。もし神がいるとして、さらにその神が神を辞めたとして、なんで俺がその後任に選ばれるのかまるでわからない。
「あ、アンタが選ばれた理由?んなもんあるわけないでしょ。前の神様の気まぐれよ。きーまーぐーれ!」
「えぇ…」
とりあえず今後神様にお願い事をするのは止めようと思った。
「そして、その新しい神様の秘書天使に選ばれたのがアタシ…ってわけ。というわけでアンタ、神様やってくれるわよね?」
…やっぱりそうなるか。
さっきは『一目惚れした』なんて言ったけど前言撤回。ここまで中身に問題がある厨二っ子だとは思わなかった。正直ついていけない。
「厨二病じゃないわよ!」
なっ…⁉︎何も喋っていないのに言葉が伝わった…⁉︎まさか俺、テレパシーが使えたのか⁉︎さっきの激突で能力が覚醒して…
「…アンタの方がよっぽど厨二病ね。」
おっ、おう…。
っていうかなんで俺何にも言ってないのに、俺の考えてることが伝わってんだろう。
「天使の能力でアンタが考えてることとかなんとなく読み取れるの。」
心が読めるだと…⁉︎こいつ、まさかマジモンの天使なのか…⁉︎
「ま、確かに信じられないわよね。突然アイドルみたいでこ〜んなにカワイイ美少女天使が現れて、神様にしてあげるって言ってるんだもの。」
どうやらガチのナルシストらしい。やべえ奴だよコイツ。さっきまで惚れていた自分を殴りたい。
「いいわ、だったら証明してあげる。アタシがホンモノの天使だ、って。」
あ、ナルシスト発言スルーされた。
俺の心を読み忘れたのか、それとも無視したのか、そう告げた彼女の姿が光輝く。眩い光に包まれ、彼女の姿が少しずつ変化していく。頭の上にハイロゥが浮かび上がり、背中には天使の羽が現れる。衣装も白いワンピースからそれらしいものへと変わった
「アタシ、アガエル。マジモンの天使よ。これからよろしくね、神様。」
「……//」
これが夢なら覚めないでほしい。…なんってったって、目の前に名実共にホンモノの天使がいて、俺のことを何の理由もなく慕ってくれるっつってんだから。
正直、まだ混乱してる。天使がいるなんて内心まだ信じられない。だけど、こんなものを見せられちゃコイツが天使だって嫌でも信じさせられてしまった。
「さ、これで信じてもらえたでしょ。神様になれるんだから文句ないわよね?」
「…待って!一旦ストップ!」
「え?何?」
「もう塾始まっちまうから!先急ぐ!じゃあな!」
そう言って俺はアガエルの横を駆け抜けていく。彼女がしばらくの間呆けていたようだけれど、相手にしているヒマはない。塾の先生、とんでもなく怖いからな…。
「えっ……
あっ、待ちなさいよ!ちょっとー!!!」
後ろで叫び声がするが気にしてはいけない。進め、俺。
「せめて名前くらい教えなさいよーー!!」
知りたきゃ最初から読心しろ、読心。
「うおっ!あと一分しか無い!これ絶対間に合わないだろ!」
そんなこんなで、俺は塾へと走る。
今にして思えば、この時塾に遅れそうで随分と慌てていたし、アガエルとの一件で頭の中が一杯になってたのが俺の不注意を招いてしまったんだと思う。
キキーッ!
ドシーン!
その時は突然やってきた。
俺はトラックに轢かれた。
理由は単純。俺が赤信号を無視したから。慌てすぎて信号が目に入っていなかった。
「おいおい、マジかよ…」
身体が浮かび上がるような不思議な感覚。事故って全身傷だらけはずなのに、なぜか全く痛みは無い。
「あれ…?」
よくみると手とか足とか透けてるような気もする。
「これっていわゆる…幽霊?」
ということは、だ。
「え⁉︎じゃあ俺死んだの⁉︎」
天使に会ったり、神様にさせられかけたり、かと思えば死んで幽霊になったり…たぶんこれまで生きてきた人生の中で一番密度が濃い一日だ。もう何が起こっても驚けない自信がある。気力的に。
「あーあ。アンタ、死んじゃったのね。」
「アガエル…」
そんな俺のもとにアガエルが再び現れた。幽霊になっちまった俺のことを彼女はみることができるらしい。天使と言えば、死んだ人を天国に連れて行くってイメージがあるし、死んだ俺と会話できるのもなんとなく納得だ。
「んーでもちょうどよかったじゃない!これで心置きなく神様になれるってものよ!さ!行きましょ、天国に!」
はぁ?
「はい早速れっつごー!」
「えええ⁉︎ちょっ!おい!」
俺の襟元を掴み、羽を広げて空へ舞い上がるアガエル。
「おい!首絞まる!苦し……ん?苦しくはない…か。」
「幽霊だから痛覚が鈍くなってんのよ。」
いくらなんでも神様相手にこの運びかたは乱暴すぎるのではないかと思う…まだ神様をやると決めたわけではないんだが。
誰か、俺の平和で普通な人生を返してくれ…。あ、普通じゃなくて変人な人生かぁ。