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第八十九話 怪しいクリスタル

 恥ずかしい演説を終え、俺は怪しいクリスタルを探すために街の中を駆け回っていた。

 それが俺たちがこの作戦に参加するにあたって与えられた仕事の一つであり、それ以上にそのクリスタルというのが危険なものに思えたからである。

 実際にこの目で見てみるまでは何とも言えない部分が多いが、冒険者の報告にはそこから魔物が出たというものもあった。

 直接クリスタルから出てきている訳ではなくても、それが何かしらの術を発動させるための媒体になっている可能性もある。

 早めの対処が求められる案件だった。


「それにしても……」


 さっきは大量の冒険者相手に良く口が回ったものだな。

 俺は日本にいた頃そういう人前で話すようなこと全般が苦手だったことを思い出し、自分の成長を感じる。

 酷く緊張したし膝も笑っていたから苦手意識はそのまま残っていたはずだが、それでも俺は嫌だと言いながら指名依頼の任務の一部をやり遂げたのだ。

 傍から見たらそれは難しいことでもなんでもないのかもしれないし、任務と言っても一部に過ぎないと言われればその通り、他人に誇れるようなことをした訳でもない。

 それでも、俺はそれができたというそれだけで自信を持つことができた。

 ただ、煽り文句を言いきって数秒間の静寂やざわめき、その何かやらかしてしまったのではないかと錯覚する冒険者たちの反応や、直後にドッと沸いて騒ぎだすことによる圧などはもう二度と体験したくないと思うほどに心臓に悪かった。


 思い出すだけでも腰が引ける。

 そんなことを考えている内に、目的地の広場に到着した。


 件のクリスタルがあったという目撃情報があった場所。

 それがこの広場を俺たちが訪れた理由の全てである。

 実はここに来るまでにも目撃情報のあった二つの広場を通って来ているのだが、そこではクリスタルはおろか、魔物の一体ですら見付けることができなかった。

 この街の広場はどこも特徴がなくただ広いだけなので、混乱状態にあった冒険者が場所を間違えてしまうのは仕方のないことだろう。

 とは言え、もう三件目。

 被害のことを考ると、そろそろ見つかってほしいという願いと焦りは隠せなかった。


 だから、と言い訳をしたい訳ではないのだが、俺は今度の広場の中央に身の丈の倍はありそうな大きなクリスタルが浮遊するように設置されているのを見付けて舞い上がってしまい、不用心なことにそれに近付いてしまったのである。

 刹那、邪悪な気配と共に鈍い光を放ったクリスタルは、何か魔術の類を発動したように見えた。

 その予感は、当然のように的中する。

 魔力感知に長ける俺がそう感じてしまった時点でなんとなく察していたのだが、突如として俺たちを取り囲むように出現した魔物が数体、いつでも攻撃に移れるといった姿勢でこちらを伺っていた。


 魔物たちが攻撃を仕掛けてくる前に、俺は一瞬で敵の数、場所、特徴を把握する。

 感知技能と目視を併用して確認できたのは、各々剣や槍などの武器を持ったスケルトンが十二体。

 特別特徴のある個体は見受けられなかった。

 クリスタルが反応した時には大きな被害につながることを懸念して焦ったものだが、こうして出て来た魔物を見てみると、スケルトンは街の中で遭遇してきたどの魔物よりも弱い。

 油断をするつもりはないが、ある程度心に余裕ができた。


「モミジ! ユキ! 攻撃を頼む、防御は任せろ!」


 俺は指示を飛ばし、二人が常に視界に入るように位置取りをする。

 二人がスケルトン程度の魔物相手に不覚を取るとは思えないが、念のため、いつでも防壁を発動できるようにしてあるのだ。

 そうして数十秒間、俺は二人が鉄扇で風を撒き起こし骨を切り刻む映像を見た後、構えていた手から力を抜いた。

 俺が思っていた通り、モミジもユキも危なげなくスケルトンを切り払ったのだ。

 一応妖術を主体として距離を取り安全には気を遣っていたようだが、急に動きが良くなるとか、実はとんでもなく強かったとかそんな劇的なことはなく、ただ見た目通りに弱かった魔物たちに、二人は物足りないような表情をしていた。


 任務を遂行するにあたっては、障害のレベルは低い方が良い。

 それは誰に聞いても同じような見解だろうし、俺だってその考えに賛同している。

 特に俺なんかは極力危険なことは避けて通りたい派の人間だし、楽ができるならそれに越したことはないと考えている。

 だが、冒険者の中にはモミジやユキのように戦闘に楽しさを見出す人もいる。

 それは悪いことではないし、強い相手と戦うことは自身の成長につながるのだから、見方によっては良いことだとも言えるだろう。

 だが、それは平常時の話。

 今のような緊急時には、できるだけ効率化を図ってほしいものである。


 クリスタルを睨みつけ、次はないのかと催促しているようにも見えるユキ。

 それを理性的なモミジが宥めているが、内心ではモミジももどかしい思いをしているだろう。

 俺はそれを見てこの騒動が終わったら魔物退治にでも行くかと今後の方針を決め、再びクリスタルに接近する。

 魔物が出てくる可能性は頭にあったが、どうせまたスケルトンと高を括って近くで見て良く調べるのだ。


 すると、あとクリスタルまで二メートルといったところで、クリスタルがまた発光した。

 そこまでは予想の範疇。

 しかし、さっきスケルトンを出した時とは光り方が違った。

 鈍かった光は強さを増し、眩しく邪悪なそれが大きなエネルギーを放出していることが感じ取れる。

 これはまずいことになったか。

 嫌な予感がして敵の気配を探ると、俺の背後に大きな反応。

 振り返ると、そこには全長十メートルはありそうな骨で出来た龍――スケルトンドラゴンが佇んでいた。


 驚きから動けない俺たちを敵と認識したのか、身体の全てが骨でできているそいつは、威嚇のためかよくゲームなどで見た咆哮の予備動作を始める。

 咄嗟に衝撃に備えて障壁を張ったが、肉を持たない――つまりは声帯やそれに類する音を発する器官がないせいで、スケルトンドラゴンの咆哮はカタカタと骨が鳴るだけに留まった。

 なんとも締まりのないものであるが、それが俺たちとスケルトンドラゴンの、戦闘開始の合図になったのであった。


誤字報告のあった箇所を修正しました。

報告ありがとうございます。

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