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第八十二話 主

 謎のゴリラの襲撃を受けた俺たちは、そのゴリラを捕縛し眠らせ、その身体や首輪を調べてみることにした。

 どんな情報かはさておき、何かしらの情報が得られるはずだからである。

 相手は人の言葉を話さない魔物ではあるが、それでもやる価値はある。

 とりあえずはそう思って調査を始めた。


 まず、この魔物について。

 この場にいる人間の多くは冒険者であり、つまるところ魔物やそれに準ずる危険な生物に関する知識を持っているはずなのだが、このゴリラのことは、俺を含めてこの場にいる全員が知らなかった。

 似た魔物でゴリラ型の魔物がいないわけではないのだが、まず単独で動かないし、こんなに凶暴でもないらしいのだ。

 魔物である以上人間を襲うことはあっても、積極的に街に入って暴れるような魔物ではないとか。

 今目の前にいるゴリラには首輪がついているからそういう命令をされているのではないかという意見も出たが、そもそも大きさが違うとのことで、類似したゴリラ型の魔物である線はないとした。

 じゃあ何なのだという話になるのだが、誰もがこの世の全ての魔物を知っているというわけでもないので、一旦この話は切り上げて、別の部分を調べてみることになった。


 と言っても、もう調べるところなんて、首輪くらいしか残っていないのだが。

 その首輪の調査は、この場で唯一テイム系の術を使える俺が担当することになった。

 ただ使えるというだけで任されてしまったが、正直できることなんてたかが知れている。

 やろうと思えば契約を横から書き換えたり解除したりすることもできるが、それをした場合にゴリラが暴れないという保証はない。

 今は眠っているから安全そうに見えるが、もしさっきまでの戦闘の時に主とのつながりが枷になって十分な力を発揮できていなかったとしたら、誰かしら怪我人が出てしまうかもしれない。

 そうなったとしても俺が食い止めれば良いだけの話なのだが、できれば最終手段として取っておきたいところである。

 それに、書き換えられそうになった時に発動するような術が仕掛けられている可能性もある。

 俺たちに向けての術ならまだ良い。

 だが、こういう状況の時は大抵、支配を受けている者――今の場合ではゴリラに向けて放たれることが多い。

 暴れて手に負えないようなら命を奪うことを躊躇うつもりはないが、できれば未知の魔物として生きた状態でギルドに報告したいのだ。


 そんな下心があるというのを知っているのかいないのか、俺がうんうん唸りながら首輪に手を当て調べている姿を、勇者たちも、モミジとユキも、チンピラたちも眺めていた。

 これで何も分かりませんでしたと言うのは少し恥ずかしい。

 俺はここに来てやっと何かないか何かないかと真面目に調べることを始めた。


 そして、魔力感知の応用で首輪に残っていた魔力からこのゴリラの主が特定できないかと逆探知のようなことをしてみた時、遂に手掛かりを見付けることができたのである。


「これは、誰だ……?」


 俺が感じることができたのはあまり綺麗ではない魔力の持ち主のイメージと、その大体の居場所だった。

 今まで見たことないような、くすんだ魔力。

 それはとても不快な印象を持っていた。

 勝手な決めつけになってしまうが、こいつ、ろくなことをしていない。

 そう思ってしまうくらいに気持ち悪く、心にもやもやとした違和感を残すような魔力だった。


「何か分かったのか?」


 コウスケの声を聞き、俺は立ち上がる。

 それから、逆探知によってこのゴリラを従えている主がどこにいるかが判明したことを伝えた。


「ど、どこにいるんだ! とっ捕まえてぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇぞ!」


 すると、さっきまでビビっていたくせに、チンピラの内の一人がそんなことを言った。

 こいつ、安全だと分かった途端に態度を変えやがって、つくづく小物感のあるやつだ。

 ここまで小物であることを強調できるのもなかなかいないものだと妙に感心しながら、俺はその居場所を教えてやることにした。


 と言っても、どの国のどこどこにいるというような情報を教えられるわけではない。

 距離と方角がなんとなく分かるだけだ。

 そして、鼻息を荒くしているチンピラ君には悪いが、その居場所というのは、さっきゴリラが出て来た路地のその先、しかも俺らの方に向かってきているのだ。


 それを教えてやるべきか否か、俺が迷った末に出した答えは、防御態勢を整えることだった。

 確信があったわけではない。

 だが、何か嫌な予感がした。

 それだけではあるのだが、俺が防御を固めるのにはそれで十分だった。

 咄嗟に展開したのは、物理も魔術も何もかもを遮断するように設定した結界。

 強度の面では不安が残る設計だが、急いで作ったのだから仕方ない。


「おい! 急に黙るな! なんとか言え――」


――ビギィッ!!


 何も言わなくなった俺にチンピラが詰め寄って来たその瞬間、結界が軋んで、一気にその耐久値が削られた。


 チンピラが情けない悲鳴を上げ、勇者たちも予期せぬ攻撃に驚いているようだった。

 モミジとユキは流石と言うべきか、驚く間もなく臨戦態勢である。


 俺はと言うと、攻撃されたことではなく、とんできた攻撃が物理でも魔術でもなく呪術であったことに驚きを隠せないでいた。

 ただでさえ使い手の少ない呪術。

 それなのに、自称するくらいには防御系の術を得意とする俺の張った結界を割る寸前まで傷付けたというのだから、驚かないわけがない。


 呪術というのは基本的に攻撃するのには向いていないということを考えるとなおさら。

 俺は警戒レベルを一気に引き上げた。


「モミジ! ユキ! 相手は相当手練れだ。回避に意識を裂いておけ」


 呪術には当たると面倒なものも多い。俺がいれば何とかなるとは思うが、手遅れになってしまう可能性がないわけではない。


 結界の修復と強化をしながら敵の次の動きを待っていると、路地の陰で見えなかった場所から黒のローブで身を隠した小柄な人間が姿を現した。

 フードを深くかぶっているせいで顔が見えず、性別すら分からなかった。


 誰も動かないままの沈黙。

 しばらく睨み合いが続いた。


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