第八十話 予期せぬ再会
正しい知識を持つことも強さ。そう考えるなら、その知識を得ようと学ぶことは修行と呼んでも良いだろう。
そう、俺が勝手に開催したこの勉強会も、勇者たちにとってはれっきとした修行なのだ。
指南役として、良い仕事をしたな。
そんなことを考えながら、勉強会を終えた俺たちは揃って食堂を後にした。
俺とモミジ、ユキ、フォールはもう宿に戻って寝てしまおうと考えているのだが、勇者たちはこれからどうするのだろうか。
今までの彼らならそんな質問をしようものならまだもうちょっと鍛錬してから、なんてことを言っただろう。
だが、ついさっき俺が休息の重要性を説いたのだ。
さすがに、自重してくれるはずだ。
とは言え、実際に訊いてみないことには絶対にこうだと言い切ることはできない。
彼らの思考がどう変化しているのか、俺は確かめるために問いを投げかけた。
「なぁ、お前らこれから何かする予定はあるか?」
俺の質問に、勇者パーティの面々は顔を見合わせ、少し困惑したような表情でこちらを見た。
「特には何も、今日はさっさと宿で寝るつもりだ」
そう答えたのはコウスケ。
見る限り、その言葉に嘘偽りはないようだ。
ちゃんと俺が言ったことを理解できているようで安心した。
「そうか、ところで、お前らの泊まってる宿ってどこにあるんだ?」
昨日の朝や、今日の朝も、結果的に会えたから良かったが、俺たちは今のところ待ち合わせというものをしていない。
明日のために今日こそは集合場所と時間を決めてから別れるつもりでいるが、拠点がどこにあるかというのは緊急時のことを考えると知っておいた方が良いだろう。
一緒にいないときにいきなり魔王が攻めて来る、なんてことが起こる可能性だってあるのだ。
そんな時に勇者という大事な役割を持った彼らがどこにいるのか分からないなんてことは、絶対に避けなければならない。
最悪探知を使えば大体の場所は分かるが、この街は広いし人も多い。
広範囲の探知は精度も下がるしエネルギー消費も大きい。
ある程度範囲を絞った状態からでないと、人ごみの中からピンポイントで特定の人物を見つけ出すのは難しいだろう。
「すぐそこの、なんて言ったかな、確か『風と雲』って名前の宿だ」
コウスケはそう答えてくれたが、正直宿の名前が分かったところでその場所までが分かるわけではない。
すぐそこ――冒険者街にあるということは、そこまで豪華な宿ではないのだろう。
そういうことは推測できるが、どんな外観で、どれくらいの規模の宿なのかは実際にこの目で確かめてみない限りは不明な点も多い。
もしかしたら宿探しの時に一度見ているかもしれないが、あの時回った宿の内、その名前まで正確に思い出せる宿となるともう既に一つか二つくらいしか頭には残っていなかった。
名前を聞いても分からないとなると、勇者たちも疲れているとは思うが、宿まで付いて行って場所を確認するのが一番安全で簡単な方法だろう。
俺は方向音痴な節があるから一回で覚えられるとは思っていないが、うちのパーティには優秀な美少女が二人もいる。
いや、片方はちゃんと仕事してるかと言われると言い淀んでしまう部分もあるのだが、とにかく、とりあえず一人はしっかり者がいるので、一度道を見れば覚えてくれるだろう。
ということで、俺はその旨を提案した。
すると、
「俺たちもそっちの宿に連れて行ってくれよ。俺たちも知ってた方が良いだろ」
交換条件を提示してきた。
「分かった。じゃあ、先にどっちへ向かおうか」
特に断る理由もないので、俺はその提案を呑み、どちらに行くのかを決めるべくこの場の全員に問いかけた。
さっきコウスケが言っていたことが本当なら、ここから近いのは『風と雲』のはずだが――。
「――先にスマルたちの宿の方に行きましょう! 行ったり来たりしたくないわ!」
誰かが答える隙を与えず、エルが食い気味にそう言った。
その理屈だと、俺たちが行ったり来たり、長い距離を歩くことになるのだが、こいつにはそういう考えはないのか……?
一応指導する立場、つまり目上の立場にいると持っていたが、王女様からすると指南役とかそうでないとかは些細な問題なのだろうな。
若干不服に思うところはあったし、咄嗟に嫌味を言ってしまいそうになったが、今ここで上がりつつある好感度をわざわざ下げに行く必要もない。
俺はぐっと堪えて喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
よく考えれば俺だって敬語を使わない生意気な奴なのだ。
自分のことを棚に上げるようなことはやめておこう。
それに彼らは修行で疲れている。
俺も見ていただけとは言え疲れを感じているが、きっと勇者たちの方が圧倒的に疲れの度合いとしては上にいるだろう。
好感度上げの一環と言ったら聞こえは悪いが、単純な話、余裕のある俺が他者に譲るというのは当然のこと。
反対意見がなかったので、俺たちはまず俺たちのパーティが泊まっている宿に向かうことになった。
そういえば、面倒くさがりのユキがさっき反対しなかったのは珍しいことだな、なんてことを考えながら歩き、俺たちは第一の目的地―に到着した。
「この宿、私たちの泊まっているところより上等なきがするのだけれど……気のせいかしら」
いくら強いとは言えまだ冒険者始めたて――赤級の冒険者である俺たちが金のかかる高級な宿に泊まっているとは考えていなかったようで、エルがまさしく信じられないといった様子でその宿の外観を眺めていた。
「あれ、今依頼は受けていないんですよね……? あれ、あれ? 貯金で、これ?」
更にユウカが俺たちの財源が今現在稼いでいるものではないことに気付き、だいぶ困惑していた。
まぁ無理もないだろう。
勇者という力のある面々でさえ冒険者街のど真ん中にあるような普通の宿に泊まっているのだ。
普通の思考回路をしていたらこんなところには辿り着かない。
「どうだ? 場所と外観は覚えたか?」
俺はあんまり長居していると中に入り質とか言い出しかねないと思い、さっさと勇者たちの泊まる宿に移動することを勧めた。
特に女性陣がまだ見ていたいのか名残惜しそうにしていたが、流石に時間がかかり過ぎると判断したのか諦めてくれた。
後は一往復するだけ。それで今日一日が終わる。
俺は楽な気分で歩みを進めた。
しかし、そう簡単に事が進まないというのが世の常なのだ。
「ひぃぃっ! 誰か!」
「助けてくれぇ!」
どこかで聞いたことのある声。
「お前は、あの時の!」
「お願いだぁ、助けてくれぇ!」
「な、何でもするからよぉ!」
路地から悲鳴と共に飛び出してきたのは、痛々しく傷を負ったいつぞやのチンピラ三人組だった。




