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第七十五話 遅刻

 コンコンコンッ。

 ドアをノックする音が響く。


 神の眼の暴走によって素晴らしい世界に送り込んでもらえた代償に、小一時間ほど夢と現を行ったり来たりしていた俺は、何とか精神的疲労を少しだけ回復し、モミジとユキの待つ部屋の前に来ていた。

 確か、身体を拭いたらすぐ来るようにと言われていたはずだが、こんなに遅れてしまって、二人は怒っていないだろうか。

 なんだかんだ優しい、というか甘やかしてくれる二人が本気で怒っているということはないだろうが、俺は今日だけで、しかも短期間の内に二回も約束を破っている。

 嫌われたり、愛想を尽かされたりしていないだろうか。

 俺はそんな心配をしながら、部屋の中からの返事を待った。


「はーい、今行きます」


 聞こえてきたのは、モミジの声。

 返事がなかったら――つまり中で何かトラブルがあったり、眠っていたりしたらどうしたものかと心配していたので、まずは第一の関門を突破できたことに胸を撫で下ろす。

 しかしまだ二人が怒っていないという確証は得られていないし、怒っていなかったとしても、遅れたお詫びだとか言って二人が無理難題を要求してくる可能性だってある。

 さっきはそんなことはないだろうと思っていたが、いざ目の前になると、不安は増してくるものだ。

 そして最大の懸念材料として、二人が、あるいはどちらか一人が、俺が神の眼を発動させていたことに気付いていた可能性が残っていることを俺は忘れてはいなかった。


 そうして俺があることないこと考えながら不安を増幅させていると、遂に扉が開いた。

 出てきたのは、いつも通りのモミジ。

 特に怒っていたり、俺を咎めたりするような気配はなく、穏やかで、少し驚いたような表情でこちらを見ていた。


「あら、スマルだったの。宿の人かと思ってたわ」

「悪いな。遅くなった」


 俺が来るのが遅かったせいか、モミジは俺はもう来ないものだと思っていたらしい。

 だからと言って安直に宿の人が来たと断定するのはいささか不用心ではないかとも思ったが、そもそも俺が遅れなければ良いだけの話なので、俺は指摘せずに謝ることを優先した。


「そうね、ちゃんと身体は拭けたの?」

「ああ、勿論」

「なら良し。入って」


 これではどっちが年上なのか分からない。

 そんな会話をしながら、俺は女子部屋に足を踏み入れた。

 この時点ではまだ部屋に入ったら二人が豹変して死ぬほど怒られるのではないかと怯えていたが、さすがに失礼だと思ってやめた。


 部屋に入り中を見てみると、ユキもモミジと同じように穏やかな様子でベッドに腰かけていた。

 隣にあるベッドのしわから推測するに、モミジと喋っていたのだろう。


「……スマル、遅い」


 ユキはあからさまに不機嫌そうな顔で俺にそう言ったが、それは裏に嫌な感情が含まれていないと分かるくらいに形式的なものだった。


「すまん。今後はないようにする」


 それに対しこちらからはちゃんと誠意を込めて約束をした。

 口で言うのは簡単だが、今日のように暴走を抑えられないままでいると、いつかまた同じようなことをやらかすだろう。

 できるだけ早く、神の眼を自在に制御できるように俺も修行しておこう。


 例え勇者を指導するという大層な役を担ったとしても、足りない部分というのはいくらでもある。

 当たり前だが、意外と失念しがちな事実を俺は改めて確認した。


「じゃあ、明日の話でもしましょうか」


 それからの話し合いは、至って順調に、なんの滞りもなく進行した。

 俺が懸念していた二人の怒りも一切姿を見せず、神の眼の暴走にも気付いていないようだった。


 それから部屋に戻り、ベッドに横たわる。

 気付いた時には、朝だった。

 なんだか幸せな夢を見ていたような気がした。



===============



 翌朝訓練場に行くと、勇者一行が既に訓練を開始していた。

 聞けば、早く来て魔力操作の訓練をしていたらしい。

 驚くことにその訓練時間はもう一時間を超えているとのこと。

 俺の個人的な考えとしてはそこまで根詰めて修行する必要もないのではないかと思うのだが、これは彼らのやる気の現れである。

 指導役として、自分もそれに応えるだけの態度で接しなくてはならない。

 なんとなく、気が引き締まったような気がした。


「よし、今日はまず、全員が初級魔術を扱えるようにしよう。もう使えると反抗したい奴は苦手な属性でやるように」


 魔力操作を一時間もやっていたのだから、肩慣らしは十分にできているだろう。

 早速、説明に入る。

 だが、この修行の目的は初級魔術が使えるようになることではなく、初級魔術を使って魔術への理解を深めようというものだ。

 それと、まだ期間は短いが魔力操作の訓練がどう効いているのかも体験してもらおうという目的もある。


「じゃあ、掌にボール系の魔術を留めてみてくれ」


 ボール系。

 それは、初級魔術の中でも比較的簡単に発動することのできる初歩的な魔術で、ファイヤボールやウォーターボールなど、それぞれの属性に応じた球を生み出す魔術だ。

 詠唱で発動すると発射まで一連の流れになってしまうので、掌に留めようと思ったら詠唱を簡略化、あるいはなくす、もしくは魔方陣に発射の機構を組み込まないという手順を踏む必要がある。


 当然、それを知らせていないままやらせているので、勇者たちは勝手に飛んで行ってしまう球に頭を悩ませていた。

 そんな中、パーティ内で唯一一切の魔術が使えなかったブルーが、いち早く俺の指示通りに成功させた。


 作り出したのは水球。

 いびつな形をしているが、成功だ。


「なんで、ブルーが……」

「今まで使ったこともなかったのに……」


 この結果にはそれなりにショックを受けた人がいるみたいだったので、一応フォローを入れておく。


「これは未経験者の方が成功させやすい訓練だ。この結果になるのは仕方ないことだから、あんまり気にするなよ」

「それって、どういう……」


 どうにも理解できていない人たちを一旦無視して、俺は説明するべく掌に水球を乗せる。

 安定した綺麗な水球を目の前に、俺は口を開いた。


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