第八話 教育スタート?
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この世界での暦は一年が四百日で、春夏秋冬に当たる青緑赤白の季節が百日ごとに定められている。
週や曜日という感覚はなく、基本的に「青一日」「赤七三日」のように季節と百までの数字を使って日にちを特定するようだ。
若干、一年が元の世界よりも長く、慣れないこともあるかと思ったが、十五分で一日が終わるゲームをやっていたことを思い出すと、そんなに気にすることでもないのかと思えてきた。
そんな時間の流れの中でヴォルムから名前を貰って半年、俺は一歳と数か月くらいの年齢になった。
その間に俺の身体は成長し、最近では一人で立って歩けるようになったし、舌足らずながら簡単な言葉を発することができるようになっていた。
言語に関してはまだ分からないことの方が多いが、聞くだけなら相当な数の単語を理解することができる。
この世界にも学校というものがあるようで、ヴォルムによると俺の言語理解度はその学校に通い始めても周りに遅れを取らない程なのだそうだ。
一般的に学校に通い始める年齢が五歳前後ということで、俺の成長は順調どころか他を圧倒する早さだと言える。
そう考えると無双するのも夢じゃないのではと思えたが、ここで調子に乗ってはいけない。
異世界から大人の精神のままやって来たのだ。これくらいのハンデは当然だろう。
「さて、じゃあ今日から魔術についての勉強だな」
ベッドに座り、そんなことを考えていた俺に、ヴォルムが声をかけてきた。
今日はついに俺の教育が本格的に始まる日。身体的、精神的な成長が認められ教育に耐え得ると判断されたということだ。
と言っても、精神の方は元から大人であることを考えると、単純に身体的なものや言語の問題――会話による意思の疎通を図るために必要な最低限の滑舌と知識――がクリアされたからだろう。
ちなみに、子供たちは一つの部屋で寝ているのだが、俺だけベッドが入らないという理由でここに来た時にいた寝室を一人で使っている。
半ば自室として使ってしまっているが、子供たちがすぐに仲間が増えると言っていたので、きっとまたすぐにヴォルムが子供を拾ってくるのだろう。
「よろしく頼む」
何を言ってもまだゆっくりになってしまうし所々上手く発音できていないせいで何とも背伸びしているように聞こえてしまうが、そこはヴォルムの魔術で何とかしてもらうとして、兎にも角にも魔術についての話が始まった。
「ぷふっ……失敬。つい。気を取り直して早速始めようか」
「………………」
まったく、失礼な奴だ。
「そ、そうだな、まずはなぜ魔術を最初に習おうと思ったのか聞かせてくれるか?」
強引に話を進めて来るので、俺も何も言わないまま質問に答えることにした。
「体術とか剣術だと身体ができてからじゃないと難しいものがあると思ってな、まずは頭でどうにかできそうな魔術から習おうって魂胆だ」
正直にそう言うと、ヴォルムは急に真剣な顔付きになった。
「そうか、それなら間違いを正さなきゃならねぇな。魔術だってお前の年齢でできることとなれば身体にかかる負担は体術やら剣術やらとさほど変わらねぇよ。精神的に魔術の方が辛いことを考慮すると魔術の方がキツイってこともある。変えるなら今だぜ」
「マジか」
「マジだ。そして師に対してその言葉遣いはどうかと思うんだがどう思ってんのか訊いても良いか?」
どうやら魔術もそれなりにキツイことをするらしい。
精神的な辛さに関しては強いとは言えないだろうが、流石に子供ができるようなことなら俺にも耐えられるだろう。
それよりヴォルムは言葉遣いを気にしているようだったが、
「んー、それでも変更はなしで。それと師だろうと何だろうと敬語的なものが上手く使えなくてな、前世はそれで苦労したもんだが、口調の変更もなしで良いか?」
口調の変更もなしで頼んでみた。
「……良いだろう。疑問形なのがせめてもの礼儀だと受け取ってそれは良しとして、次の質問だ。実は魔術以外にも色々と似たようなもんがある。呪術とか妖術とかだな。だがまずはポピュラーな魔術をやろうと思ってるんだがそれでも良いか?」
「ああ、あれこれ手を出せるほど器用じゃないからまずは魔術に専念したい」
いきなり魔術以外の不思議パワーの存在を知ってしまい混乱気味だが、魔術がポピュラーだと言うならとりあえずそれにしておこう。
「まぁ、今決めたとしてもこれから大まかに概要を話すときに一緒に話すつもりなんだけどな。またそん時に変えたかったら言ってくれ。他になんかあるか?」
変更できるということは他の術も教えられるレベルでできちゃうのだろう。本当になんでこんなところで孤児院なんてやってるんだこの人……。
「あー、じゃあ、今みたいに何か教育方針? みたいなものがあるなら事前にある程度教えて欲しい。別になかったらないで困らないんだが、あった方がやる気が出るんでな」
「分かった。お前の習熟度に合わせていこうと思ってるからそんな先のことまでは話せねぇが、できる限り――少なくとも次に何をやるのかは伝えられるようにするよ」
「ありがとう」
そう言うと、ヴォルムは信じられないというような顔でこちらを見てきた。
「お前……お礼とか、できたんだ……」
………………。
俺って何だと思われてたわけ?
まさかお礼とかそんな当たり前のことができないようなお子様以下の存在だと思われてたの?
「なんかふてぶてしいっていうか、素っ気ないっていうか、自己紹介したあたりから礼儀ってもんがないからてっきり名前と一緒に抜け落ちちまったのかと思ってたが、今思い出せたんだなぁ……」
黙って見ているとそんなことを言って感動し始めたので、
「こっち来てからもそういう感覚はありますよ! ほら、丁寧語なら使えているでしょう? 失礼はどっちですか!」
わざわざ口調まで変えて言ってやった。
「! ……じゃあなんで使わないんだよ。やっぱり今思い出したんだろ?」
「単純に面倒だからだ。丁寧語以外分からないのに敬語を無理に使おうとして恥かくのも嫌だしな」
「戻さなくて良いのに!」
こうして魔術の授業一回目は終わりを迎えることとなった。
ひとまず俺の方に問題はないだろう。
授業自体がこの調子で大丈夫なのかは次回の授業で変化があることを祈るとして、直近の心配を挙げるとするなら、ヴォルムが俺に敬語の勉強を強要しないかが心配なところだ。