第六十九話 反省と昼食
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読者の皆様、ありがとうございます。
人に何かを教えるということをしたのが初めてだったので、俺は進行速度を見誤り、結果的に勇者たちの頭をパンクさせてしまった。
キリの良い所までは一息で教えてしまいたかったのだが、俺がヴォルムに教わったようにこの世界に来てまだ何も知らない状態の頭に入れるのと、彼らのように既に常識がある状態でそれに上書きするのとではやはり難易度と言うか、色々と差があったのだろう。
情報を処理しきれず煙を噴いていた勇者パーティの面々が正常に動けるようになったのは、数十分後。太陽が真上に昇った頃だった。
今日はこれ以上話しても覚えていられなさそうだと判断した俺は、訓練を切り上げ、明日今日の内容を確認する旨を勇者たちに伝えた。
彼らはまだやれるとか、もう少しだけとか、とりあえずまだやる気でいたようだが、正直な所さっき話したことでさえどこまで理解し、覚えていられているのかも定かでないような彼らに教えることなんてものは残っていなかった。
ある程度地の力がある奴はすぐに発展的なことをしたがるが、そういう奴らほど基礎を怠って、自分の力に振り回されることになる。らしい。
聞いた話だし、どこからが地の力があるという判定なのかは分からないが、勇者たちは地の力がある部類に入るだろう。
つまり、今日教えたような基礎を固めておかなくてはならないのだ。
魔王云々で制限時間があるからチンタラしていられないのも、焦りがあるのも仕方のないことではある。
だが、だからこそ「焦る」と「急ぐ」を混同してほしくないのだ。
急がば回れと言うように、早く早くとするにしても、近道的な発想で発展的な内容に取り掛かるのではなく、地道に土台を作ってほしいのだ。
もちろん、その土台作りは急いで行うつもりだ。
どれだけ短期間でその工程を終えられるかは彼らの努力次第ではあるが、俺の存在意義というのはそういう所のサポートにあると思う。
今日は失敗してしまったが、俺だって真剣にやっている。
明日以降、同じ轍は踏まないと、きっとどこかで見ているだろう神様にでも誓っておこう。
表面的には誰にも分からないように決意を新たにした俺は、頭を抱え目を回した状態から復帰した勇者たちを一瞥し、もう大丈夫だろうと判断してその場を去った。
もういい時間である。目指すは昼食の取れる場所だ。
モミジとユキ、フォールを連れ、冒険者ギルドから宿の方に向かって歩く。
大体五分くらいだろうか、人の流れに乗って移動していると、イタリアンレストランのような看板を掲げた店を見つけたので、入ってみることにした。
日本にいた時は母の作るパスタ料理、宅配ピザ、某ファミリーレストランなど、イタリアンは好んで食べていた。
こっちの世界では食べたことがなかったから類似する料理はないものだと思っていたが、案外探せば見付かるものなのかもしれない。
まだ見た目だけという可能性は捨てきれていないが、俺は心を躍らせながら店の扉を開けた。
店内に入ってみて一番に目に入ったのは、その内装だった。
俺は自分の美的センスに自信はないし、芸術やら何やらの良し悪しというものも分からないが、今まで入ったことのある店の評価から、ここの内装がいわゆるおしゃれと呼んで差し支えないものだと判断した。
これまた勝手で偏った意見ではあるのだが、俺の中でイタリアンレストランというのもは綺麗だとかおしゃれだとかそういう見た目の部分に気を遣っていなければならないというものがある。
そんなことを言い出したら他の店だって綺麗なことに越したことはないと思うのだが、なぜかイタリアンレストランだけ特別そうあるべきだと考えてしまうのだ。
ちなみにインド料理屋や中華料理屋は多少汚れていた方が雰囲気があって良いと思う。
要はとりあえずの美味しいイタリアンレストランとしての条件をクリアしたこの店だが、やはり肝心なのは店の見た目ではなく中身――提供される料理の質ということになる。
まだイタリアンではないという可能性が残った状態で、俺は恐る恐るメニュー表に目を通した。
そこに書かれていたのは、名称こそ違えど、見た目は俺の知っているイタリアンと同じ見た目をした料理の数々だった。
諦めかけていた好物が食べられる。その嬉しさのあまり俺は笑みがこぼれるのを抑えることができない。
その様子を見ていたモミジとユキが不審そうな顔でこちらを伺ってくるが、そんなのはお構いなしだ。
二人が注文を決めるまで待ち、俺は一目見てこれにしようと決めていたメニューを頼んだ。
注文してから料理が届くまでの間、俺は目の前に座る二人にさっきから様子がおかしい理由を尋ねられたりしたのだが、その全てに対して料理を食べれば分かるからと言って取り合わなかった。
二人は少し機嫌を損ねたようだったが、俺があまりに嬉しそうにしていたからか、話を聞かなくなっても仕方ないと許してくれたようだった。
そして、待ちに待った料理が運ばれて来る。
「お待たせしました」
「待ってました!」
などというくだらない返しで店員さんを困らせてしまうくらいには舞い上がっていた俺は、目の前に置かれた皿の中を見て唾を飲む。
そこにあったのは見覚えのある、美味しそうなリゾットだった。
俺の読みは当たっていた。この店ではイタリア料理が食べられる。
その喜びはすぐに行動に現れた。
俺は無意識の内にスプーンを使ってリゾットを口に運び、咀嚼した。
俺が頼んだのはキノコとベーコンが入ったチーズリゾット。口の中に入れた瞬間にチーズの濃厚な香りと、ベーコンのスモーキーな香りが鼻腔で混ざった。
二口目、今度はキノコ――しめじのようなそれも含めて食べてみる。
口に入れただけではあまりキノコの主張はなかったのだが、噛んでみて驚いた。
見た目に反して味も香りもしめじとは異なっていたが、今までに食べたことのない、しかしそれでいてしっかりとキノコだと認識できる強い味と香りが口の中で広がった。
これは美味しい。大当たりだと思って味わっていると、前面に出てきている味の他にも、野菜の出汁や胡椒の刺激などが隠れていることにも気付き始める。
またここに来よう。
最後の一口を噛みしめながら、俺はまた食べにくることを決意した。
自分のことに夢中になっていたので、他の二人はどうなったかなと目を移してみると、ユキは巻き過ぎだと突っ込みたくなるほどに大きくしたフォークを頬張っていて、モミジはピザから伸び続けるチーズに苦戦していた。
二人が食べていたのはそれぞれカルボナーラのようなパスタ料理とマルゲリータのようなスタンダードなピザだった。
どちらも美味しそうである。
ちなみに、フォールには従魔用に肉が出された。
追加料金が必要にはなるが、こういうサービスがある店というのは、俺みたいに従魔を連れている冒険者には重宝するだろう。
数分後、俺たちは大変満足した状態で、店を出たのだった。
調べてみたら、リゾットも本場ではフォークで食べるようですね。




